◆[山形市]豊烈神社例大祭 馬走る秋の入り口(2012平成24年10月6日撮影)

10月の声を聞いて、豊烈神社のお祭りのざわめきが、中央公園の花壇にも否応なしに流れ込んでくる。

鮮やかな色の金魚が群れるのをじっと見つめ、
お祭りの夜に、ビニール袋に入れてもらった子供の頃が鮮やかに蘇る。

「押すなず〜、落ぢっべなぁ」
「ほだごどゆたて窮屈なんだずぅ」
小さな植木たちは、テーブルの上で生存競争。

山形市内の至る所が道路拡幅工事で街並みが変わってゆく。
ここ栄町通りは、昔のまんまの建物が残る。
南進一方通行の車たちが、目を三角にしてスピードを出すのだけは光景にマッチしない。

なんとなく浮き立つ気分だと思ったら、
豊烈神社のポスターが瑞々しい植木たちの後ろに誇らしげに貼ってある。

雑然とした昔の面影を残した光景の中を、感情を殺した車たちが走り抜ける。
まるで昭和を蹴散らして行くように。

紅葉にはまだ早い。
それでも路地裏にはヒンヤリした空気が漂い始める。

うっすらと空に広がる雲間から、か弱い日差しが地面にやっと届く昼近く。

「10月て中途半端なんだずねぇ」
「んだ、季節は秋なんだべげんと、葉っぱはまだ緑だし・・・」
ススキも生暖かい風に、どう振る舞っていいか考えがまとまらない。

「やっぱり夏は終わりなんだべな。ムクゲの花びらがボダボダ落っでだもの」
夏の勢いが失われるとともに、緊張の糸が切れたように花びらが力尽きる。

「少し雨降ったんだっけがなぁ」
小路の路面は湿り気を帯びているけれど、豊烈神社から流れてくる浮き立つ空気に包まれている。

錆の浮いた掲示板も、お祭りの時だけは張り切ってポスターを引き立たせる。

低い塀を乗り越えて、豊烈神社からざわめきが溢れてくる。

「山形で今年最後のお祭りだべぇ、あどは冬になるばんだがらて楽しまんなねっだず」
このときばかりはと、町のど真ん中で存在感を示す豊烈神社。

まだまだ青い紅葉から秋を感じ取ることはできない。
でも、境内の空気は秋の匂いを感じさせる。

きらびやかな飾り物、白い幕、太鼓などが所狭しと配置され、
いやが上にも祭り気分が盛り上がってくる。

「今年も頑張らんなねっだべ」
御輿の準備に目を向けながら、担ぎ手の魂が満充電になろうとしている。

「本番でしくじっどんまぐないべぇ」
「イデデッ、腰が・・・」
打毬本番に備えた練習時間は残り少ない。

「馬の体てすごぐ暖かいんだじぇ」
「どれー、あらーんだりゃ。ほかほかだねぇ」
子供たちは恐がりもせず、手のひらでスリスリし続ける。

「よっこらしょっとぉ〜、体力ないど馬の面倒なのみらんねもな」
大人しくされるがままになっている馬は、じっーと人の心を読んでいるようだ。

「おお凛々しいごどぉ。馬さ乗ってるだげでオレより一段上の人に見えっずねぇ」
馬に乗れば別世界の視界が開け、下々の人々の生活が小さく見えるかもしれない。

「雨だげ降らねくていがったず」
「今年も観客がいっぱい来てけだしなぁ。ゆうごどないっだなぁ」
本番を間近にして、緩い空気が少しずつ緊張し始める。

「ラケットでゆうのんねべしなぁ」
ブラック缶コーヒーが一緒に置いてあるのが微笑ましい。

「かえずはマリてゆていいんだべがなぁ」
なんとなく洋風の篭に入っているのが微笑ましい。

ツルッとしたUFOのような笠には豊烈神社の杜が映り込み、
家紋の縫い目を、秋の入り口の風が撫でてゆく。

「オラだは今日は主役なんだべずねヒヒン?」
「んだっだなぁ、餌ばいっぱい食しぇだべよ」
馬は納得したのかしないのか、その表情からは読み取れない。

人々は塀に列をなし、興奮気味のアナウンスの声を聞きながら、打毬を珍しそうに見入っている。

「じいちゃん見えねぇ」
「こんでよがんべ?」
「見えだがらあどいいはぁ」
じいちゃんは孫に振り回されるが嬉しくてしょうがない。

「やんばいな高さで段差があるもんだま」
「見物しやすいようにだべが」
身長に合わせた段に乗って、
人々は塀の向こうを垣間見る。

「入ったぁ!」
「ほだな穴でっかいどれぇ」
「何ゆてんのっだが素人は。馬さ乗りながら入れんのが、どだい難しいがわがんねもなぁ」
とにかくお手並み拝見。

玉が入る度に拍手が沸き起こり、
塀に添えられた手のひらが緊張する。

「まんずまんずの出来んねが?」
「ありゃりゃりゃぁ、ベテランが入れらんねどれぇ」
「観客が喜べばいいのっだなぁ」
関係者たちは固唾をのんで見守りながらも、たまにヤジを飛ばす和やかさ。

勝ったチームは馬に乗りながら、負けたチームは馬から下りてトボトボと会場を後にする。

打毬が佳境に入る頃、御輿の準備も急ピッチ。

「もっと力へっで!」
御輿はギリギリに結わえ付けられ、これからの巡行に備える。

隅っこに立って境内を見渡す。
みんな笑顔で例大祭を楽しみ、どっぷりと祭りの雰囲気に浸かっている。

しっかりと準備を整えた御輿は、そのきらびやかさを今から町内に振りまいてゆく。

「こらぁ!誰だぁサッカーしったのぉ!」
「打毬の練習だてゆたべぇ」
子供たちは毬があれば野球かサッカーに興じるのが今どき。
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