◆[山形市]花小路・寺町 昼下がりの情景(2012平成24年8月19日撮影)

残暑厳しき折、立ちはだかる壁を乗り越えて、熱風と光線がなだれ込む。

山形の娯楽の殿堂だったビル。
山形人はみんなこのビルの中で異文化に触れ夢に酔いしれた。

濃い緑が厳しい日差しに立ち向かう。
人々はエアコンの効いた部屋に隠れるように潜んでいる。

「いや〜たまらねぇ。お盆過ぎたのに、なんだずのこ暑さはよぅ」
背中へ突き刺すような日差しが張りつき、自転車はあちあちっと言いながら小路へ逃げてゆく。

どこかゆるーい空気が漂い、真昼なのに寝入っているような花小路。

「こだい暑いど、エアコンも効がねべぇ」ボンネットで目玉焼きができそうな車たち。
車たちはフライパンのように熱せられたアスファルトの上を逃げるように走り去る。

「涼しそうな振りして、汗がにじんでいるんねがよ」
「こだな快適な日和もないべず」
椅子は我慢しながら四肢を突っ張り、氷の旗は建物の影へ逃げようとする。

破れたバイクのシートには、傷口に塩を塗るような日差し。

「日陰ば歩いだ方がいいんねが?」
「日陰ばりの人生なてやんだべぇ」
日陰から見守る私の前で、おばちゃんは日向をゆっくり歩いて行く。

「暑すぎで幻覚が見えるんだべが」
獲物を狙うような目でフラミンゴが立っている。

だーれもいない。だーれも通らない昼下がり。
彩りだけが取り残された静かな小路に、逃げ場のない熱風が充満する。

細々と続く上り勾配の小路。
この毛細血管のような小路にまでモンテディオは浸透している。

光が強烈すぎて、空を見上げるには目を細めなければならない。
日向と日陰と青空の三重コントラスト。

淀んで空気の動きも少ないような薄暗いビルの狭間へ、
日差しは無理矢理割り込もうとする。

暗がりに目をこらす。
通路の奥の自販機が、もの悲しい表情でこちらを見つめてくる。

いままで耐えてきた気持ちが切れるとき、
容赦ない日差しの中でくずおれる。

しばらく青葉の下に立ち止まり額の汗を拭く。
熱風に翻弄された葉っぱたちは、せわしなく青空の下を右往左往する。

年月を経た人間のための造形物を、撫でるように叱咤するように葉っぱの影が揺れ動く。

さび付いた掲示板に木漏れ日が揺れる。
くすぐったさを我慢して、掲示板はいろんな事を実直に説いている。

「萎んでだどれはぁ」
「んだっだな。オラだは朝の顔、朝顔だじぇ」
花びらは暑さに耐えるように、じっと身をすぼめている。

専称寺の伽藍の上へ雲が湧き、目の前を女の子がスイッと過ぎてゆく。

巨木と伽藍。
この一角だけは異質な空気に包まれている。

「うちさ帰ったらかき氷食だいぃ」
「あたしはイチゴミルクゥ」
「お父さんはビールばぐいっといぐだいなぁ」
「みな自分で準備すろよぉ。いっつもお母さんが何でもしてけらんねんだがらぁ」

「早ぐ伸びねど、夏終わるはぁ」
まぶしい雲の流れに追いつくまで、さぁ、みんなで競争だ。

「光の粒って、みんな丸いんだね」
「日食んどぎは三日月型だっけじぇ」
花びらたちは暑さも気にせず空を見上げる。

どっしりと構える大銀杏の下へ逃げ込んでみる。
覆い被さる葉っぱが、すべての光を吸い込んでしまったような別世界。

夏の象徴サルスベリの花が、青空からブランブランと垂れてくる。

「このクランクば通っどぎ、ウインカーば上げっどいいんだがわがらねんだず」
クランクは敵の進撃を止めるもの。ウインカーの上げ下げには対応していない。

「ほだな澄まし顔で暑いのば我慢しったんだべ?」
「ほだごどないっす。心が清らかだど暑ぐないんだっす」
清らかのきの字もないおじさんは、流れる汗に冷や汗も混じる。

「あっづいどご歩ぐのも限界だがら帰るはぁ」
地蔵さんたちは暑苦しい顔に視線も向けず、何事もなかったように涼しい表情を浮かべている。
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