◆[山形市]山家本町・沼の辺 炎熱の舌先(2012平成24年7月16日撮影)

「こっだなくそ暑いどぎに元気なのはアジサイぐらんなもんだべぇ」
ガクアジサイは晴れ間の中へ花びらをぴんと張る。

山が迫り、堰の流れも速い上山家は、
山形の街中とはかなり趣が異なる。

暑さに参って、ボタボタとアスファルトに落ちてしまったか。

「どげろ、どげろぉ」
雨水と太陽の光を得た植物たちは、
石碑の隙間から、持て余した力をはみ出させる。

インターネットの中では眉唾物の情報が混ざり合い、
ネットの中ではタマネギがぎゅうぎゅう詰めでひしめき合う。

目にも鮮やかな紫の花びらを、かすめて吹き抜けていくのは、
近くを走る高速道のうなり声。

「こだい虫喰わっではぁ」
「虫が食うほど旨いていうごどっだな」
日差しは虫食いの穴から地面へこぼれ落ちる。

小さなブランコに絡まるのは鎖ではなく夏草たち。
蝉の声も聞こえず、木漏れ日だけがチロチロ揺れる。

だらだらの下り坂を、だらだらと汗を流して歩く。
むせ返るような熱気が辺りを覆い、腰にぶら下げたアクエリアスに手を伸ばす。

「袋の中は蒸し風呂だべなぁ」
刈られた夏草たちは、蒸し風呂の中で気持ちが萎える。

「ヤツデば見で、何ば想像する?」
「花火だべ」
「なして分がたのや?」
「見れば分がっべず。ちっちゃな花火みだいだも」

「蓮の花ば見にきたのが?」ムクゲの花に問いかけられる。
「なして分がんのや?」
「この季節、見慣れね人が歩いでいだらだいたい蓮目当てだもの」
確かに町外れのこの地区を、この暑さの中歩く人は少ない。

水路と細道が別れを告げる。
水路は国道13号へ向かい、細道は金勝寺へ向かう。

一面に広がる蓮の池。
山並みと池のくびれの位置に金勝寺が見える。

これでもかと力尽くで照りつける日差し。
弱りかけた蓮の花びらは、力なく引力に引っ張られるまま垂れ下がる。

微風の中、空に手のひらをかざし、夏の熱気をすくい取るような仕草を繰り返す。

「何が恥ずがしいのが?」
花びらは青空の方を向き、うっすらと紅潮している。

雄しべはパラパラと葉っぱの上にへたり込み、風に吹かれて池の水面へ落ちてゆく。

ペロンとめくれそうな水玉。

葉っぱの影に隠れて空をのぞいて見た。
太陽に照らされた葉っぱは、葉脈が透き通って見えた。

「まだオマエいだのが。付いで来んなず」
別に付いてきたわけでもなかろうが、タチアオイは素知らぬふりで空を向く。

「んだずねぇ。こう暑いど仕事はがいがねぇ」
「動ぐだぐなぐなんもねぇ」
熱気は人の気力を奪い取り、日陰に入って立ち話したら?という気力も失せる。

「汗が沼さ入て、沼の水がしょっぱぐなるんねがよ」
護岸の照り返しと夏草の草いきれが混ざり合い、べとつく服を全部脱いでしまいたい。

「こだんどっから誰が乗るていうのや〜」
「まあまあ、バス停がほだごどゆたらおしまいだべ」
暑さのせいで、バス停はいらだちを隠せない。

「きれいな釣場」と謳う看板も、この暑さでへたり気味。
力強い筆文字だけが暑さの中で浮いている。

誰も乗っていない沼の辺発の山交バスが、沼の畔をゆっくりと滑り出す。
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