◆[山形市]やよい・第十小 太陽がくれた季節(2012平成24年6月2日撮影)

「虫でもたがたんだべが?」
十小前の葉っぱがくちゃくちゃっと縮こまっている。
こんなに空が青いのに。

ヤツデは満面の笑みを浮かべて艶々と輝く。
西バイパスの騒音など全く意に介していないように。

「葉っぱば撮ってだの?オレば撮らねのが」
歩道にのたうつ電線の影を踏みながら、
おじさんはノタノタと遠ざかる。

「暑っづくて日陰さ逃げでらんなね」
「誰も日傘になる気はないのが?」
「日傘どオラだは異業種だもの」

大輪を咲かせ、花がくすぐったくなるような花粉がうごめいている。
西バイパスの騒音がひっきりなしに覆い被さっても、めげる気配もない。

「おまえは身も心も乾いだんねがよ」
「おまえはヨレヨレなたんねがよ」
吊されたもの同士で、自虐的に慰め合う。

やよいは西バイパスに面するとともに、
飯塚への入り口にも当たる地区。
漫然と西バイパスを走っていれば気づかない。

「あ、間違てストロボ焚いだっきゃぁ」
花びらはキョトンとしながら、一瞬の光はなんだったんだべと首をかしげる。

「持ち去り厳禁かぁ」
「捨てる神あれば拾う神ありていうごどが?」

「おまえだも有名になたもんだぁ」
ナデシコは何のことかも分からず、いつものように咲く。

「なんだずビロラビロラてよぅ。ケバケバしい化粧は嫌われっぞ」
「なにゆてんの。私だは意味があってこいな模様なの」
「瞬きすっどバサラバサラて音するみだいな、つけまつげば付けでる女どは違うんだがした」
「いっしょにさっで困るっだず!」

尖った葉っぱの先は、山形の象徴「月山」の真っ白い姿に触れてみたいと、
かなわぬ夢を見ながら風に揺れる。

「シロツメクサの目線になんのも大事だべ」
腰をかがめ、それでもダメなので腹ばいになる。
親父が道路にぬだばっていては不審に思われるし、シロツメクサも白い目で見ているようだ。

やよい地区は西バイパスに面しているので、さぞやうるさかろうと思ったが杞憂だった。
一歩住宅街へ入り込めば、日差しが若葉を透き通っていく音さえ聞こえそうな静けさ。

「せっかぐの好天なのに、なにごしゃいっだのや?」
かなり憤慨しているフンの看板の向こうには、山二中が水田に浮かんでいる。

「何気ないげんといいべぇ、この雰囲気」
「何がいいんだがさっぱりわがんね」
自転車はそっぽ向くが、日だまりの中に雑草とよれよれの段ボール。そして無機質な壁と配線。
「こいな空間が平和ば物語っているんだべした、わがんねがなぁ」 

十小の校庭に歩み寄る。
フェンス沿いに綺麗な草花が植えられ、心を和ませてくれる。
「この辺で見掛けない顔だんねが?」
でも、はみ出し者もいるものだ。通せんぼするように花びらがしげしげと顔をのぞき込む。

かっと照りつける太陽は、グランドの土を燻りだし、サッカーに興じる少年たちの汗をジュッと吸い込む。

「おじさん、ちょっと邪魔なんですけど」
木漏れ日の下で汗を拭いていると、子供に注意される。
どうやら遊び場の真ん中にぼーっと立つ大人に、子供たちは迷惑がっていたらしい。

「木陰がいい季節になたもなぁ」
子供に叱られた大人は場所を変え、さやさやと揺れる葉擦れの音とサッカー少年の声を輪唱で聞く。

「この辺は昔、な〜んにもない田んぼだげの場所なんだっけじぇ」
「そんなの知らな〜い」
「だいたい誰?このおじさん、面倒くさいフン」
相手にもされないおじさんは、ただスゴスゴと立ち去るしかなかった。

「こだい天気いいんだがら、外さ出できたら?」
「一人になっだいどぎは誰でもあっべ」
自分の殻に閉じこもり、女の子の呼ぶ声にも耳を傾けない時期が、男の子を一段と成長させる?

「また遊びにきてね〜」「もっと話したかった〜」「おじさん面白い〜」
帰ろうとする私を追いかけてきた少女たちは、フェンスによじ登り名残惜しそうに声をかけてくる。
こんな小さなかわいい子たちと会話するのは久しぶり。
でも長居は無用。知らないおじさん=不審者=悪者という構図に当てはめられたら堪らない。
 
◆付録[新庄市]本合海にて(2012平成24年6月1日撮影)

父は間もなく米寿になる。生まれ故郷を見せたいと思い立ち新庄市本合海へ。
最上川の対岸に八向神社が見える。
「子供の頃はあっちまで泳いで渡たもんだぁ」
父の声を聞きながら、ふと空を見上げる。
日暈(ひがさ)が虹色に輝き、親子を見下ろしていた。
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