◆[上山市]下生居・宮生小 初夏の草花が語りかける里(2012平成24年5月26日撮影)

「うわぁ、タニシうじゃうじゃだどれぇ」
屈んで水面すれすれにカメラを構え、泥の中びっしりのタニシに息を飲む。

地を這う雲が村々の屋根を過ぎたあとに、ぱあっと陽光が差し込んでくる。

「こんにちは〜」
いきなり背後から大きな声で自転車の少年に挨拶される。
「コ、コンチハ〜」
咄嗟に声が出ず、声が裏返ってしまう。

国体のタイキ君どころではない、懐かしい看板が迎えてくれる。

「どんなときでも笑顔でね」
暑かろうが寒かろうが、ブロックに描かれたひまわりは澄まし顔。

歯ぎしりのような音が聞こえてきそう。
誰も気にもとめないところで、鉄柱と針金のせめぎ合いは続く。

「なんだが体中がこちょびたいのよぅ」
走るのをやめた車は、性格が円くなり、雑草たちに慕われる。

淡く霞む空の青さと山々の緑が横に広がれば、アヤメは空へ垂直に縦ライン。

ひそひそ話が聞こえる。
道ばたの隅でオダマキがそっと囁いている。

昔の建物を維持するのは難しい。
現代人が住む以上、エアコンやアンテナが当然添えられる。

「たまには表さ出っだいっだず」
日陰を好むシャガでも、たまには太陽を拝んでみたいのか。

「近ぐさ寄ってみろぉ」
「なんだ、なんだぁ?」
「ばぁ!」
テッセンは花びらをビロンと広げ、人が驚くのを喜んでいる。

小道をちょっと歩けば、遠くの山並みが少しずつ下がってゆく。

坂道を登るにつれ緑が濃くなってくる。
人家に囲まれていた緑が、人家を囲むようになる勢力関係の変化。

叱られないか気にしながら、ちょいとハウスをのぞいて見る。
枝が四方八方に伸びながら今年の夏に備えている。

樹木には人知を越える生きた造形美をみせる。
葉っぱの先まで真緑になったら、そのときは真夏。

「なんにもしゃねで来てみだんだげんとなぁ」
なんだか散策にいい道だと思っていたら、
なるほど地元ではウォーキングコースになっていた。

「おだぐはどの辺?」
「おらいではあの辺」
タネの袋はお互いに種の場所を確かめ合う。

「ねぎ坊主、こだい陽強くて暑ぐないが?」
「坊主なのんねっす。こだいふさふさなのになして坊主てゆうんだず」
葱坊主は心外だといわんばかりに、ぐいっと力強く頭を空へ向ける。

深い緑に覆われたその奥で、人家がひっそりと陽光を浴びている。

濃い緑の川沿いを歩くということに心が解放され、小さな幸せを感じるのは街中の人々。
地元の方々は緑と共生していくことが一生の命題なんだろうな。

暑くもない寒くもない大気の中で、クロタネソウは黒い蕾からどんな花を咲かせるのだろう。

人間と稲が永年付き合ってきて、毎年美しい模様を日本中に描いてみせる。

たんぼ道をしばらく歩き、そろそろやんだぐなたなぁと思うその先に、小高い丘が目に入る。

雲湧く空の下に建っているのは上山市立宮生小学校。
創立は百年以上昔という古い学校らしい。

「おお、裏側さ隠っでるんだどれ」
歴史的風格を醸し出す校舎は、後からできた校舎の背後に隠れていた。

「どっちが三角倒立で勝づべね」
「頭さ血のぼてきたはぁ」
一輪車は板塀に寄りかかり、土曜日の間延びした時間をもてあます。

「サラサラーッて音が聞こえでくるみだいだぁ」
校舎の壁面に木漏れ日は、サラサラと涼やかな絵を描く。

「練習終わたら整備してグランドさ感謝さんなねのよ」
グーッと鳴る腹をだましだまし、午前の練習が終わりを告げる。

「早ぐ帰っべはぁ」
ツツジが陽光を浴びる頃、
子供たちは汗を光らせながら後片付け。

「ん?なんだが気になるなぁ」
金治郎は書物から目を上げる。
近所の親子たちの会話は、勤勉な金治郎の心をかき乱す。

「おまえんどごは何?」
「おそらぐ、まだコゴミだべな。山ほどもらたも」
「サクランボはまだだしねぇ」
グランドの熱せられた空気に、田んぼの向こうから心地よい風が吹いてくる。

緊張していたネットも、一部分が綻びてしまえば、後は次々と伝染する。
子供たちの緊張も、練習を終えればあっという間に緩んでみんなに伝染してしまう。
でも、こんな緩やかな時間のおしゃべりが後々まで記憶に残ったりする。

もう一人の金治郎は、雲の流れも気にしない。脇に張られたネットなど見向きもしない。
空をジェット機が飛んでも振り仰がない筋金入りの勉強家。
「今は車が走て危ないがら、歩きながらの本読みは止めだほうがいいんねが?」
「んだら、今流行のスマホにすっかぁ」
「歩きながらは、どっちもダメだず」
TOP