◆[山形市]踊る色彩 植木市(2012平成24年5月8日撮影)


「なに?午前中なのに、しかも平日なのに満車がぁ」
山形人の恐るべき植物欲に恐れをなす。

四月撮影の「◆[山形市]馬見ヶ崎河原・印役町 冬の重い腰が上がった」を見て欲しい。
あの山積みの雪に取って代わって、車で埋め尽くされた河川敷。

「みんなどさ行ぐんだべなぁ」
石垣から首をもたげてタンポポが辺りをうかがう。

今年の桜は遅かった。
その名残が路面に点々と赤く続いている。

「この坂ば下っど植木市まですぐだはぁ」
なんとなく植木市のさんざめきが微かに這い上ってくるようだ。

「8日が7日に直さっでる。7日は準備のためが」
顔さベダッと貼られたバス停の丸顔は迷惑げ。

「やんばいだなぁ」
「長ぐ歩いででも疲れねずね」
「おらだ二人の歩いてきた道のりのごどが?」
「ま、それもあっげんとな」
陽光はやさしく花びらを染め上げる。

色彩が踊り、人々は浮き立ちながら通りを歩む。

「地面熱いがら、早ぐ誰が買ってってけろぉ」
品定めの視線にさらされるしアスファルトは熱いし、
植木には受難の三日間?

「喉渇いだはぁ」
「さっき飲んだばりだべ」
五月の風は子供の柔らかい髪の毛を、
フイッとなびかせて通り過ぎる。

「おらぁこの日ば待ってだのよ」
「ほだな山形人なら誰だてだべず」
新緑の光合成が、辺りに爽やかな空気を漂わせている。

「みごどだなまんずぅ」
「んでも手でねもなぁ」
手が出なくても見ているだけで、植木市は山形人の心を冬から初夏へ変換してくれる。

「この傘は雨のためが?日傘が?」
「ほだなどうでもいいがら早ぐ選ぶべぇ」

誇らしげに咲き乱れ、妖艶な姿態が人々を釘付けにする。

「ただ歩ぐだげでも楽しいずねぇ」
満たされた気持ちで、人々の歩調は自然に緩くなる。

「なんだがこっぱずがしいげんと、悪れ気はすねもな」
薬師町の電柱は草花に囲まれ、くすぐったい気分で直立する。

「真昼の電球て悲しいずね、なんだが間抜け臭いもの」
夕刻を過ぎれば辺りを照らして、雰囲気を盛り上げる。

「ズガズガて頭沸騰するはぁ」
バイクは陽光をまともに頭へ受けながら主を待つ。

「玉コン〜!」
幟は広がり始めた青空へ向かいはためいて、真っ赤になりながら連呼する。

「カラシはふだふだ付けでけろ」
「ツーンと来んのがたまんないのよ」

「カラシは付けねでけろな」
「玉コン本来の食感と醤油の味ば楽しむだいがら」

「外で玉コンば食うどぎて、どごば見ながら食うどいいんだべね?」
「周りなの気にすねでちゃっちゃど食うべはぁ」
口中には絶妙な味が広がり、満足中枢を刺激する。

「植木市が始まっど、初夏だなぁて感じっずねぇ」
「ほんてん春なのあっという間だっけなぁ」
まぶしい日差しを浴びながら、人々は露店の間をゆったりと移動する。

露店の背後がビルではなく薬師堂の杜というのがいい。
露店のあちこちから漂う香ばしい匂いが嗅覚を刺激し、杜の緑に吸い込まれてゆく。

「かえずは元気そうだなぁ」
「みな元気だじぇえ」
ガラスの内側から、金魚は外の世界をどんな気持ちで見ているのだろう。

「小学校終わらねどだめっだなぁ」
子供たちの下校時間を待ちながら、薬師の杜はゆるやかに時間が過ぎる。

「何が見つけだぁ」
「ばっちいもの触わんなよ」
枝の影を拾おうとしても、影は地面にひっついて履がれない。

紅葉の若葉はみるみる濃い緑に変化していく。
大気に触れたばかりの若葉は、生まれたての柔らかい黄緑色を辺りに放つ。

パラリと落ちた花びらは、薬師堂のざわめきに時たま反応して微かに身じろぎするばかり。

小学生たちが大挙して押しかけて来るまでの穏やかな時間。
大人たちは子供に還って祭りを楽しむ。

「おまえは近くで見っどデゴボゴだずねぇ」
「誰だよこだごどしたのは」
デコボコの面は、黙って人々の姿やビニールシートの青を写し込む。

子供たちの口中へ放り込まれるまでの待ち時間。
所在なげに空へ浮かんでプラプラ揺れる。

「どごから見でいぐ?」
「右回りが?左回りが?」
お祭りへ一直線の人々は、芽吹いた花には目もくれない。

「いがった、いがった」
毎年季節を確認するために植木市へやってきて花を愛で、
その確認作業が終わるといよいよ夏なんだと体に覚えさせる。

「みんな植木市さ向かうげんとよ、おらだだて咲いでるんだじぇ」
植木市に向かう人々の足下を見つめ、タンポポは道ばたの隅も季節が変わったことを訴える。

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