◆[山形市]霞城公園 初夏へまっしぐら(2012平成24年4月29日撮影)
「とりあえず定番の位置から撮っておがんなねべずねぇ」 「よげいなごどゆてねで、ちゃんと花ば愛でろ」 目前の花びらに諭されてシャッターを切る。 |
|
危険な2万ボルトには目もくれず、ファインダーを一心にのぞき込む。 |
|
「新幹線来たほれ、見でみろ〜」 通過する間は会話が途切れ、連続するシャッターの音が電車の音に混じり合う。 |
|
山形の三種の神器がそろった。 カラーテレビ、クーラー、車。いや霞城公園の桜、新幹線、霞城セントラル。 |
|
「こっだい人がたがてっどごば、久しぶりに見だぁ」 初夏の陽光に、橋の上の人々は舞い上がっている。 |
|
「もうちょっと後ろからんねど入らねなぁ」 「あんまり下がっど、ひころぶがらなぁ」 おじさんはああでもないこうでもないと、カメラのアングルに苦労する。 |
|
「ほだなどごさたづいっだら、ほろげおぢでしまうべな」 「んだて吸い寄せらっでしまうんだも」 桜のピンクとお堀の水面は、人の心を吸い込んでしまう魔力がある。 |
|
「なしてこだい人来るんだず」 |
「ほだごどやねでバイトに精出すべ」 |
人々は日常を忘れるために、異次元の空間へ門をくぐって吸い込まれていく。 |
|
「撮っべ撮っべぇ。まず撮っておがねど」 まずは思い出を後から反芻するために撮り、その後にゆっくりとその場の空気を楽しむ。 |
|
「二人の未来はピンク色だぁ」 日焼けしそうな日差しの中へ腕を伸ばし、桜を背景に二人が携帯の中へ仲良く収まった。 |
|
「おかなくてたづいで登らんなね」 「上から見っど、また風景が違うべがら」 上昇志向が強いのは人々の宿命。 |
|
「降りっどぎは登っどぎよりおかないずねぇ」 「しゃべてねで足下気ぃつけろ」 |
|
わずかにこぼれ落ちてくる陽を受けて、 弱々しく呼吸するように、微かに花びらが震える。 |
|
親が花びらに見とれているうちに子供は走り出す。 こんなときは嬉しくてとても落ち着いていられない。 |
|
「この間までストーブさ当だったっけのになぁ」 季節の変わり身の早さに驚きながら、もわっと暖かい大気が膨らむ空を見上げる。 |
|
「どいに撮っどいいべなぁ」 周りじゅう桜だらけなので、 どれに狙いを付けたらいいか迷ってしまう。 |
木の根っこや泥や雑草で、 ハイヒールじゃとても歩けなかった土手が、 観光客用に真っ平らにならされてしまった。 |
「どれ、写真撮ってけっからほごさ立ってみろ」 「ちぇっと待ってぇ。鼻ムズムズしてよぅ」 すでに青葉の出始めた桜は、人々の会話をそっと聞く。 |
|
花びらを透かして、土手の周りに光が少しずつ蓄えられる。 二人を柔らかく包むように。 |
|
「ほだな雑草だがら、桜の方ば見ろ」 「オラだは雑草だげんともよ、春一番に咲ぐんだじぇ」 雑草には雑草の生きる道があるといいたげに、通り過ぎる二人を恨めしげに見る。 |
|
水面すれすれに踏ん張る桜と、空へ高々と伸びる霞城セントラルが、 格差のある光景を見せる。 |
|
「桜の花の下ば歩ぐいのは一年に一回だげだがらねぇ」 貴重な一日を桜と過ごす贅沢。 |
|
お堀の深緑色は、なんでも吸い込んでしまう魔法の色。 魔法に魅入られて思わずのぞき込んでしまう花びらは、ふと我に返り身震いする。 |
|
「んーと、このボタンば押して、そのダイヤルば回してぇ」 「ほだごどしてる間に、風景は刻々と変わっどれはぁ」 カメラをいじる間にも太陽の角度は変わり、影の位置もずれていく。 |
|
「いい顔いい顔〜」 満面の笑みは桜とともに小さな携帯へ凝縮された。 |
|
大空へ若い芽が急速に広がり始める。 子供たちの歓声を桜の木々がやさしく見守る。 |
|
「カウントなんぼや?」 「フルカウントだはぁ」 春はフルカウントとなり、一気に初夏へ切り替わろうとしている。 |
|
「ほらほらー、手を抜ぐなよ〜」 真剣に試合へ臨む子供たちが知らない間に、春は力ずくで夏をたぐり寄せた。 |
|
「おんちゃんも滑らねが?」 「おんちゃんは滑るより転がる方がじょんだじぇ」 初夏の陽気は何をいっても許される空気。 |
|
ギラッと照り付く光が遊具の鉄を熱くする。 冬は一目散に逃げ、今日は一気に29度。 |
|
「暑くて人の目ば喜ばせんのも疲れるぅ」 笑顔を振りまいていた花びらも、そろそろ疲れが溜まってくる頃? |
|
「球春到来がぁ。いい季節になたもんだ」 高校生の歓声が響き渡り、応援の幕が風に揺れる初夏。 |
|
「超あっづい」 「んだず、日焼けしてしまうずぁ」 黒髪に手をあてがい、それでも球児への視線は外さない。 |
|
「桜の元で高校野球ば二人で見るなて最高だど思わね?」 「ちぇっと子供がちょろちょろて煩わしいげんとな」 外野の芝に二人で座ってみれば、地面がほんわかと暖かい。 |
|
弾かれた弦は、大気を綺麗な音色に変換して鼓膜をくすぐってくる。 |
|
光と花びらのシャワーを浴びながら、山形の春はやがて夏へと変わっていく。 |