◆[山形市]中桜田 春に包まれる心地よさ(2012平成24年4月13日撮影)


「像だ象、退屈だ象」
公園の日だまりの中で蛇口の鶏冠を付けているが、鼻は鶏冠の水に届かない。

「おかなぐないがー」
「気持ちいいばりだー」
山形盆地を眼下に、公園を独り占めにした親子が、春の風にゆるりと包まれる。

この滑り台は小さな子供でも安全らしい。
子供のお母さんが教えてくれた。
この子のお母さんは山形各地の公園に足を運び、公園の遊具や利便性などについて調べてブログにアップしているとのこと。

「ほれ、しっかり鎖さたづいで。ほろげ落ぢっど悪れがら」
春の日差しが金属にぶつかり反射する陽気。
注:お母さんは山形弁ではありませんでした。

日差しに暖められた地面で、二人の影はいつまでもくっついたり離れたりして親子のまねをしていた。

堅い蕾がすこしばかり赤らんでくる頃、青空の果てには葉山と月山が真っ白になって横たわる。

降り注ぐ光が地面に当たり散乱する。
その光をついばむようにイヌノフグリは小さな口をパクパクさせる。

「おまえ天気いいがらて、おがり過ぎだず〜食んねどれはぁ」
「人から食われるために生きでんのんねぇ」
まぶしい陽光を浴びて、フキノトウはみるみるおがっていく。

急坂の途中に小さな祠が、
地面につくねんとへばりついている。
遠く山形の街並みを眺めながら。

急坂をバイクがアクセルをふかして喘ぎながら上っていく。
吹き出した緑は残響を聞き流して風に吹かれている。

庭先に陽光が届く。
唐辛子は体をくねらせて喜びを表す。

急坂を下りて空を見上げる。
空が一層高さを増し、少しばかり汗ばんできた額に手をかざす。

長らく雪の中に隠れていたタイヤがモコモコと顔を出す春。

ビニールシートには陽がたっぷり溜まり光を放っている。
背後の蔵は黙ってまぶしげにその反射に目を細めている。

「吹き出物でも出できたのんねが?」
キリンの箱がひっくり返ったまま枝に声をかける。
「吹き出物てやねで、新芽てゆてけねがなぁ」
春は新鮮な吹き出物の季節。

「よーし、バンバン葉っぱば広げっぞー」
空に向かって樹木は決意を新たにし、
太陽へ向かって伸びをする。

「春ば摘むったて難しいっだずぅ」
錆びたドラム缶の蓋は、その刃先で春を捕まえようとじっと狙いを付けている。

「今日はどだなゴミだべなぁ」
笹の葉は興味津々で、ゴミ箱の前へあふれ出る。

小さなせせらぎなのにゴーゴーと流れの音が響き渡る。
冬の帰路につく音がアスファルトを超えてあふれ出る。

陽光に誘われた枝が、陽気に空中を舞っている。
春の日差しは生きるものたちの心を陰鬱から解き放つ。

ほころび始めた花びらは、
地面へ墨痕鮮やかに筆をふるう枝の影を不思議そうに見つめる。

「こごば女の子が駆げ下りてきたら、アメリカドラマの大草原の小さな家みだいだべぇ」
「ほだい広いどごあっけがぁ?」
「もちろんイヌノフグリがこだいおっきぐ写てるくらいだがら、ちっちゃな土手なんだげんともよぅ」

「どさ行げ、こさ行げて命令ばっかりだな、この交差点は」
「しかもコンクリで固めらっだ斜面ばっかりだし、なんだがくたびれる光景だずねぇ」
今の時期、誰も彼もが春に行きたいだけなのだが、交通ルールはそうはいかない。

「こだいして軒下さいっど、暑いくらいだはぁ」
自転車がつぶやき、公衆電話も首でこくりと頷いている。

「雪いじり終わたがら今度は土いじりっだなぁ」
雪いじりは苦痛を伴うが、土いじりは喜びを伴う。

「寝っだ土の目ば覚まさんなねのよぅ」
春だ起ぎろ起ぎろと手をふるう。

山の麓に芸工大の三角屋根が見える。
芸工大にこの春新しく集った学生たちも、この近辺にアパート住まいなんだろう。
今日の陽気は新入生を歓迎するようにきらめいている。

雪に隠れていた土手が露わになった。
これから急速に茶褐色の色が緑に変わってゆく。

サンシュユの花が誰もいない公園を独り占めにして咲いている。
空の青に黄色。さすがに山形の春はモンテカラーではじまるんだな。

「今日なの杉花粉ばんばんだべなぁ」
「迂闊に外さなの出だら、目も鼻も喉も大変なごどなてしまう」
おばちゃんは手を休めず草をむしる。
花粉のせいか、なんとなく霞んでいる山形市街。

ぎらっと光る葉脈。
一気に訪れた春は、桜も咲かぬのに初夏の顔さえ見せている。

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