◆[山形市]馬見ヶ崎河原・印役町 冬の重い腰が上がった(2012平成24年4月8日撮影)


弱った雪をここぞとばかりに蹴散らす馬見ヶ崎の河川敷。

石炭かと思うほど、日を経てどんどん黒ずむ積まれた雪。

「こだなまんましったら、植木市まで溶げねねはぁ」
「植木市は山形の一大イベントだがら、市民が黙っていねべな」
雪の断末魔の声を聞きながら、山形人はすでに植木市に思いをはせる。

河原の歩道橋で寒風を浴び、やっと印役町の小道へ逃げ込む。

微かな春の音を捜して畑の中に入り込む。
聞こえてきたのはイベントで走るSLの汽笛の音。

一冬超えて、かろうじて残った去年の葉っぱたち。
雪が溶ければ土に還れる。

「初物だぁ。いやーやっと見つけだ。なんだがしゃねげんといがった、いがった。」
今年は春が来ないじゃないかと心配していた心にポッと火を灯すフキノトウ。

印役町は迷路の町。
突然社が現れたり、途中で道が畑に変わっていたり。

「やっと晴れできたが。」
空を見上げ、冬を吹き払ってくれる太陽に、
「ありがどさん」と感謝する。

「根元の如雨露。ほだんどごで昼寝してる場合が?」
乾いた光景だけど、これが早春の山形。
これから爆発的に花が咲き、もの凄い勢いで緑が膨張する。

「みんな空さ手つだせぇ」
まだ数センチの葉だけど、みんなの固い意志が空を向く。

「自転車が一番よぅ。らぐしてどさでも行ぐいま」
春は誰でも外へ出たくなる。

「今年はねぇ・・・」
「んだのよぅ・・・遅くてねぇ」
おそらく桜の開花を心待ちにしている会話なんだろう。

「オラ切らっでしまたげんともよぅ。それより悲しいのは子供だが遊びに来ねごどよぅ」
木立の間を駆け巡る、子供たちの声を夢想する切り株。

ヤツデの手のひらに日差しが振りまかれ、風が吹く度キラキラと光がこぼれ落ちる神明神社。

「いづまでこのまんまなんだず〜」
「足ふらついで、ひっくり返すなよ」
一輪車は踏ん張って主を待つ。

「出番なの滅多にないもはぁ」
「そうやねで頑張れぇ」
春なのに公衆電話はじーっと考え込んで一点を見つめている。

「満開なたらすんばらすいべなぁ」
アスファルトへ格子状に伸びる影を踏み越えながら、バイクがゆっくり遠ざかる。

「早ぐ遊び来〜い」
ブランコは腕を長〜く伸ばして、子供たちを待っている。

「なんだが見晴らしいいんだげんと」
「んだずねぇ、今までは地面しか見えねっけもの」
立ち位置を変えると見えるものも違ってくる。

「地面さ、ぬだばてんのも気持ちいいもんだじぇ」
日差しを浴びて、堅い蓋がちょっと笑ったような気がする路地裏。

「床屋さ行ぐだいんだげんと〜」
「リンスすねどダメだなぁ。ギスギスてこごらげっだもはぁ」
春なんだからちょっとおめかししたいと野ざらしの耕耘機が思う。

「うー、つったい。」
街中には春がうっすらと積もり始めているけれど、河原へ出れば冷気が肌を打つ。

「何が何でも鍵ば開げねて頑張ったのが?」
「んだっだなぁ。絆は堅っだいものぉ」
頭のてっぺんを光らせながら、チェーンとの絆を確かめ合う。

「こだんどごでしゃがんで何しったんだべ?」
「かまねでけろ。春ば捜しったんだがら」
自転車の子は不審なおじさんと目を合わせず、河原の土手を走り去る。

「うっ、寒っ」
大手を振って街を覆っていた寒気は、河原を遡上して竜山へ逃げ込もうとしている。

奥羽山脈で冬を過ごした雪は、次々と馬見ヶ崎川へ流れ込み、日本海へと帰っていく。

「あぶないがら、はいらないで!」
「昭和のどごが危ないんだ!、平成より夢も希望もあっけぞ」
昭和の馬見ヶ崎橋はバリケードを張り巡らされ、平成と隔絶されている。

「釣り日和だもなぁ」
主を待つ自転車のミラーには、春風を受ける枝が青空に広がっている。

春の日差しが池の水面で葉っぱたちとじゃれ合っている薬師公園の池。
至る所で春は膨らみつつあるんだなぁ。

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