◆[山形市]錦町・宮町一丁目・北山形 小出しする春(2012平成24年3月29日撮影)


「なんだてまぶしいったらぁ」
「暗闇から突然でできたみだいだもねぇ」
冬の暗さに慣れた目には、春の太陽はまぶしすぎる。

「溶け出したナメクジが?」
じわじわ萎みながら、黒ずんでゆく雪。

昔ながらの神明神社と現代の象徴コンビニを、
分けて流れる山形五堰。

「朝日連峰は真っ白だげんと、街中はさっぱり雪ないじゃあ」
雪が溶け、乾いた街並みが露わになる。

「いやー重だいっけぇ」
「やっといねぐなた」
植木鉢はやっと太陽をみることができ、肩の荷が下りた気分。

「やっぱり部屋干しより、日差しさ当だったほうが気持ちいい」
洗濯物が風に揺れ、雪はぐんぐんやせ細る。

カサカサと葉先を揺らして、春の匂いが満ちてくる。

「ほんてん今年の雪には、しゃますしたっけぇ」
雪にしゃますしたのは人間ばかりじゃない。草花も同じ。

「乾いっだ道ば走っど、若返えたみだいだ」
軽快な音を地面へ跳ね返し、バイクのおじさんが走り去る。

「おれが外されんのんも時間の問題だはぁ」
自転車用の手袋は、タンスの奥へ引っ込む気持ちの整理中。

この辺のゴミネットは春風でブハラブハラならないように、しっかりと締め付けられている。
しっかりとした人が町内会長なんだろうな。

「やっと仕事しやすぐなたまぁ」
「ほんてんだぁ。天気いいどぎど悪れどきじゃ雲泥の差だものぉ」
テキパキと作業が進み、テキパキと春が来ればいい。

「こごはおまえの来っどごんねぞ」
捨てられたゴミたちは口々にいう。
「んだて雨降っていねがら、ほがに行くどごないんだも」
黄色い傘はしょんぼりとぶら下がる。

石碑の文字の彫り込んであるところで、
五円が春の光に反射している。
何かのご縁と、一応撮っておく。

「頑張れモンテディオ。頑張れおばちゃん」
フラッグはモンテディオとともに山形人をも応援している。

空の青さを写す五堰。まぶしげな顔を並べる石垣。赤らんできた木の芽。
心のわだかまりを吹き払うのに、これだけそろえば十分だ。

こんな空を山形人は何ヶ月待ち続けたことだろう。
たとえ将来が見通せなくとも、確実に春が来ることだけは信じられる。

冬になぶられたミラーへ春風が吹き付ける。
乾いた埃とともに、春のほほえみが映し出される。

まだ花の咲かない枝が参道に陰を伸ばし、
花の咲くことがない電柱もそれに習って陰を伸ばす。
女の子は額に春風を受けて髪をなびかせながら走り去る。

だらんと垂れていたモンテディオのフラッグが春風の力で元気を取り戻す。
さぁ、J1復帰へ頑張ろう!

「かゆいんだもん、とにかぐかゆいんだもん」
「さび付いだどごさ、春風吹ぐがら乾燥してかいぐなんのんねがよ」
「さびばよっくど拭いでもらて、油でも差してもらえはぁ」

「お不動様がなんだがカラッとしたんねが?」
「んだのよ、脇の木造の倉庫みだいなのがなぐなたんだもはぁ」
パンダモドキは背中に日差しを受けて機嫌良く答える。

春風は人の目線の高さを吹くだけじゃない。
ブランコの裏側から、地面の石ころまでなんでも撫でてゆく。

「おたふく風邪が?」
「失礼だずねぇ。ろうそくば守るための形なんだっす」
手持ち無沙汰なようだったのでからかったら、
真っ赤になって怒られた。

お不動様の裏側へ回り、あの細道を抜けると
広大な畑が広がっているとメールをくれた方がいた。
その方が子供の頃に、この細道を何度通ったことだろう。

「おう、いきなり電信柱に詰問される」
しかしその向こうには、山形市内の真ん中では想像できない広さの畑が広がる。

屋根の隙間からこぼれる光の斜線が、時間を告げている。
かなり真上からの角度だから昼近いのだろう。

こんなところに石灯籠?
子供心が復活し中をのぞいて見てみよう。

小さな灯籠の向こうには、山形の街並みと、その向こうに奥羽の真っ白い山並みが輝いている。

まだまだ堅い蕾だけれど、春の暖かさに気を許してほころぶ日も間近だろう。

ネギの葉っぱは途中から折れ曲がり、春風に吹かれる度、手旗信号のようにパタパタ空をかき回す。

雪解けの地面に自分の姿を写し込み、
骨張ってはいるが、まだまだ達者だと自分に言い聞かせている。

「どれ雪いねぐなだが?んだらそろそろ顔出すがぁ」
そろりそろりと、でも確実に地面を割り大気の中へ新しい生命が伸び出した。

「今年は水仙もまだ咲がねのよぅ」
おじさんはとっておきの福寿草ば見せでけるといって、自分の庭へ案内してくれる。
たった一輪の福寿草が、雪を背後にして黄色い花びらをしっかりと広げていた。

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