◆[山形市]香澄町一・二丁目 弛緩する冬(2012平成24年3月1日撮影)


太陽が眩しく辺りに散乱し、居座っていた雪が茶色く濁りながら萎んでいく。

「なんとがならねんだがずねぇ」
このつぶやきは山形市民の声。
だって、駅前の一等地が更地になって雪をいつまでもかぶっているんだもの。

冷え切っていた飲み屋街の通りに、
電線の隙間を縫って、日差しが微かに春を運んでくる。

やっぱり青空はいいなぁと、空を見上げながら肺の奥から息を吐く。

街が綺麗すぎるとなんだか落ち着かない。
乱れた電線、統一感の無い看板、この雑多感がしっくりくる。

「つるんこつるんこて、歩ぎ辛いのよぅ」
大通りは乾燥した道を車が滑るように走っていく。
裏通りは滑らないように気を付けながら、ちょこちょこと歩かなければならない。

シャチホコの背中に日差しが溜まり、
街ゆく人も少しばかり軽装になりつつある。

早春の日差しに暖められた猫は、
心なしかいつもより膨らんでいる?

スズラン街のビルの隙間を、鋭角的に遠くまで伸びる青空の楔に心が晴れる。

いつもなら漫然と車で通り過ぎるスズラン街。
久しぶりに直接空気を肌に感じながら歩く。息を吐いても、もう白くはない。

裏通りへ足を向けてみる。
相変わらず雪はカチンコチンに固まって道路へへばりついている。

「雪の中からワイパーが突き出っだんだが?」
「あ、んねな。傘が這い出ようとしったんだどれ」
「いったい中さ何埋もっでいるんだべなぁ」

「飛行機雲もたなびいっだし、太陽の周りさは虹みだいなが見える」
空の表情も変わりつつある早春の街。

「えい、このやろー!砕けで溶けでしまえ〜」
別に家庭の不満を雪にぶつけている訳じゃない。市民の総意で雪をふちゅぶしてしるんだ。

「こだんどごさ逃げ込んだのが冬は」
冬は逃げ場を失い軒下にうずくまる。
ちなみに、赤い文字が全く読めません。

「昔の雪はこだなもんでないっけじぇ」
毎年何年も雪を見つめてきたおばさんの目は、遠くを見つめているようだった。

「いづ見でも霞城セントラルは高っがいなぁ」
「なにゆてんの。霞城セントラルは115メートル。スカイツリーは634メートルだじぇ」
「んだがらなんだ。月山は1984メートルだぞぅ」
つまらないつぶやきをよそに、霞城セントラルが早春の淡い光を悠然と浴びている。

「やっと歩いで買い物さ行ぐい季節になてきたもなぁ」
この間までデガボゴ道をおっかなびっくり歩いていたのが嘘のようにゆったりと歩く。

「みんなで参加。べにばな国体?」
「なんのごとだが分がらね」
自転車はいつ貼られたか分からないステッカーには興味なくそっぽ向く。

「十字屋さ買い物行ってきたっだなぁ。こだい天気いいんだものぉ」
太陽が顔を出せば家にじっとしていられないのは、永い間雪に虐げられてきたから。

蛇口はじっと身じろぎもしないし、
箒は去年から目を覚まさない。
日差しは柔らかい口調で春ですよと囁いている。

「ったぐ誰が来たど思えば、雪ば捨てで行ぐだげだしぃ」
埋もれたブランコは赤い口を空へ尖らせる。

「ウゴゴゴー、ウンギャー」
雪の中から目覚めたブランコのうめき声が聞こえてくるようだ。

「こいな時は除雪車て頼もしいもなぁ」
うなりを上げ道路へへばりつく雪を砕いてしまう力強さ。
「んでも家の前さだげは雪ば置がねでな」

「まんず堅っだくてなんともならね」
へばりついた氷は、さしずめ道路のかさぶた。このかさぶたを剥がすのに容赦はいらない。

「微かに春の匂いがするみだいだぁ」
「春の匂いてどだなや?」
「んだがら気持ちの問題っだな」
まだ冷たい風ながら、微量の春を感じることができた城南橋。

いつのまにかアスファルトがだいぶ顔を出している。
空中を錯綜する電線にも雪はない。春近し。

「こいず・・・こっちんねがよ」
「あっちだべぇ・・・」
「ほっちば見でみろ・・・」
地面へ向けた会話は、すぐ脇を通り過ぎる車がかき消してしまう。

疲れたサドルへひっついているのは氷の粒じゃなくて水滴。
やっとプラスの気温が戻ってきた。

「春ば待ってんのも疲れっずねぇ」
「ほだごどやねでぇ。必ず来っから」
会話の足元へ柱の隙間から早春の光が伸びている。

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