◆[山形市]白山・元木・若宮 腰の重い冬(2012平成24年2月25日撮影)


「いづまで居座るつもりだず」
「いやー、居心地いいくて動ぐのやんだまぁ」
長っ尻の客だから腰が重く、いつまでも居座って帰らない雪。

「バイクなのチェーンないど走らんねもな」
船酔いならぬデガボゴ道酔いしそうな道。
職務を全うする郵便配達のおじさんへも容赦なく雪が降りかかる。

人気の無い竜山川の土手に立つ。
雪を掘り返せば春の芽が隠れているのかも知れないが、漫然と見つめる視界に春は見あたらない。

「ばさらばさらてぇ。床屋さ行ってこい。不良学生みだいだどれ」
一冬越して疲れ切った枯れ草の頭を、雪は傍若無人に呑み込もうとする。

「いっつも歩ぐ道だげんと、今日はこだんどご通んのんねっけぇ」
軽くふくらはぎまで埋もれてしまう雪道は、息もハァハァで体力を著しく消耗する。

「花火禁止て、こだんどぎ誰すんのや?」
「んだがら遠慮して縮こまったんだべず」
ロープにぶら下がった夏の忘れ物。

「んがんが〜、前見えねぇ」
「今の時代、誰もがみんな前なの見えねんだじぇ」
東屋のベンチの下で顔面を雪で覆われるシューズが呻く。

「誰もいねどごでお願いすんのも、間抜げくさぐないが?」
看板ははにかみながら念仏のようにお願いを繰り返す。
背後の家並みは雪をかぶって知らんぷり。

黒々と蛇のように細くのたうつ竜山川。
人知れず須川、そして最上川へと向かってゆく。

「ほだい急ぐなぁ、こわくてついでいがんねぇ、雪じゃましてぇ」
雪が降るほどに元気が良くなる犬。
飼い主は赤い絆をしっかり握って離さない。

「昔の人は防空頭巾ばかぶったんだっけど」
「今もまた復活したったんねがよ」
「空から何降ってくっかわがんね時代だがらねぇ」
赤い目で雪の頭巾から空を見上げてつぶやいている。

「ったぐ、やんだぐなるったらぁ」
せっかく少しずつ溶け出していた雪なのに、
今日は再び勢力を盛り返して山形を覆っている。

「ほだい丸こぐ体ばかがめで、何が雪から守らんなねものでもあんのが?」
丸まった枝は早く春が来てくれと、苦悶の表情を浮かべるように枝を伸ばす。

「雪なのいづでもウエルカムだぁ」
北西に向けて両手を広げ強がりをいうけれど、
雪に完全包囲されていることに何故気付かない?

電信柱も土手も草木も、みんな黒く塗りつぶされている。
雪よ、オマエは何様のつもりだ。
そんなことを呟いても、白い息はあっという間に大気へかき消されてしまう。

「シャーーーッ」
列車が疾駆する音を聞き、慌てて坂巻跨線橋を駆け上がった。
雪を舞上げて走り去った後に残ったのは、ゼイゼイと苦しげな自分の息の音だけだった。

ひっきりなしに走る車は、ひっきりなしに茶色いシャーベットをジャバジャバとオレのズボンへ掛けてゆく。
「んだがら、こだな狭いどご歩ぐなずぅ」
手摺りにつかまった雪から諫められ、怒りの矛先が萎れてゆく。

「狭い道が益々狭ぐなて、車くっどどさ逃げだらいいがわがんねもなぁ」
雪道は車にとって大変だ。でも、歩く人がもっと大変なのを理解して運転する人は少ない。

「今日のおかずはなんだっす?」
「しゃねぇ、おだぐさ関係ないべしたぁ」
木の枝に問いかけられ、手にした袋を握り直して歩き去る。

「ぎゃはははぁ、んだずねぇ」
「・・・なんだじぇ」
「・・・・だがらて、たまげだもの」
雪片の間を縫って切れ切れに聞こえてくる高校生たちの会話。
あの頃は雪道も自転車で走るのが当たり前だっけなぁ。

「コンコン車だが?」
「別に関係ないべ標識には・・・」
一際強くなった雪の中で、バスの標識は誰にも構ってもらえない。

「間もなく三月だじゃあ」
シャッターの内側から、ガスボンベは外を窺い嘆息する。

無味乾燥な白山のアンダーパス。
ただ車が騒音をまき散らすアンダーパス。
濡れた壁面が茶色く濁るアンダーパス。
黒い傘とピンクの傘がすれ違い、お互い振り向きもせず遠ざかるアンダーパス。

「歩き辛いぃ。車道ばり掃がねで、歩道もなんとがして欲しいずねぇ」
足元に気を取られながらブツブツ文句を言いたくなるのもすごく分かった今回の撮影。

黒い二つの影はやがて脇の階段へ消え、前方に見えるのは降り続く真っ白い雪だけになった。

「オレなしてこごさいるんだが分がらね」
「おそらぐ悪たれ坊主が乗り捨てだんだべなぁ」
「もしかして元のご主人さんが気付ぐがもすんねがら写真撮ってける」
どうかこの写真を見て、元の持ち主に気付いて欲しい。かわいそうだべこのままじゃ。

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