◆[山形市]宮町一・四・五丁目 静かに漂う乾燥注意報(2011平成23年10月19日撮影)


「北駅前も寂れだもんだなぁ。空き地ばっかりだじぇ」
「ほだごどやねで前向きに考えらんなねっだな」
銀杏の木陰から北山形駅を望む。

「石鳥居が微かに微笑んでだみだいだ」
「んだっだなぁ、こだいコスモスから囲まっだら気分いいものぉ」
「こんな小春日和の〜穏やかな日は〜♪」なんだか山口百恵の歌を口ずさんでしまう。

雲間からバスケットボールのゴールを狙って、太陽は慈しむように光を降らせる。
銀杏の木はまだまだ青く、空にボワッと葉を拡げる慈光寺。

「あれ?幼稚園どさ行った?」
建物は取り払われ、宮町の住所だけが錆びたまま俯いている。

「おら急いでるんだがらよ」
脇目もふらず配達に邁進するバイクを見て、ああ今日は平日なんだっけと取り残された気分になる。

空は高く、ガソリンスタンドの看板もクッキリの宮町通り。

「なんだずぅ、ほだいぼさらぼさらてぇ」
「ま、まさかおっきな声ではやんねげんと、今のチーム状態ば表してんのんねべね」
なんだか悲しい気分になるけれど、それを押しのけて応援する気がムクムクと盛り上がる。

グランドの向こうから子供たちの明るい歓声がスキップしながらやってきて、
フェンスの間をなんなく通り過ぎ、耳元を掠めて走り去る。

「すんごぐ目立てっば」
「ちゃんと秋が来たごどば知らせらんなねどもて」
思わず指が、葉の肌を撫でてしまう。

夏の名残にしがみつく。

「どご見っだんだべ」
「とがいどごっだなぁ、遙か昔のよぅ」
三小の門扉が花を抱いたまま教えてくれる。

銀杏の大木が影をつくる稲荷神社。
静かなとおりをバイクはあっという間に走り去る。

景観賞とかいって、目新しい目立つところばかりに賞を与える安易な発想は変えた方がいい。
目立たない裏通りにこそ、山形の庶民の暮らしが垣間見える本当の景観が息づいている。

ゆっくりと西へ移動する太陽へ、もう夏はおわりなんですか?と朝顔の花びらが聞く。

子供たちの歌う声が、どこかの教室から漏れ聞こえてくる三小の敷地内。

「ちぇっとちぇっと通り過ぎで行ぐのがぁ」
「足ばたいらにして、何がしゃべていがっしゃい」
孔雀草は退屈のあまり、通せんぼして語りかけてくる。

怪しい人物が侵入したら連絡をというビラがめくれている。
有刺鉄線も拒絶の態度があからさま。
別になんの悪意もないんだげんとと思いながら後にする。

「ちぇっとちぇっと通り過ぎで行ぐのがぁ」
掌をヒラヒラさせて手招きされる。
町を歩けばあちこちから誘いの手で招かれる。

「ああこご前にも通ったごどあるなぁ」
想えばこういう路地ばっかり探して撮影してきた気がする。
路地裏人生。

窓らしきところへ背後から陽が差して、そこだけが明るく発光している。
うらぶれた姿に共感を覚えるのは何故だろう。

五中生御用達の十字路。
空を掃く高層雲は、しばらく雨を降らしそうにない。

べったりと塗られた赤ペンキも疲れてきたのか、パカパカ剥がれが目立つ。
剥がれた隙間に入り込むのは走り去る車の排気ガス。

秋の日が容赦なく一直線にぶつかってくる壁。
剥がれ落ちた漆喰の跡は海岸線の地形図を思わせる。

「今日は乾燥注意報でっだんだど」
「道理で肌がカパカパすっどもた」
漆喰のカパカパ剥がれた蔵の前。

「冬の格好だがしたぁ?」
「オマエしゃねんだべ。どだい自転車さ乗ってっど寒いが」
確かに自転車に乗ってるときの体感温度は全く違う。

「ツヤツヤていい肌しったねぇ」
「あだりまえだべした。バランスいいぐ栄養ば摂ってだもの」
秋の日は葉っぱを心身ともに健康体へ成長させる。

「さぼんなよ」
「その言葉そのまま返す」
男たちはお互いを振り向きもせず一心不乱に仕事へ打ち込む。
窓際にこんな粋な人形を置くなんて、遊び心満点の鍛冶屋さん。

空の雲が帯状になって山形を覆う。
観音堂公園は乾いた大気に覆われる。
「唇乾いでわがらねがら、メンタムば塗るごどにする」

街のあちこちに、いつの間にか黄色や赤が目立ち始め、
いつの間にか緑が褪せてゆく。

「なして葉っぱがさっぱりなくて、リンゴだげぶら下がてんだべ」
「てゆうより、こだな街の真ん中さりんごがあんのもビックリだべ」
唇寄せたら不躾だから、レンズだけ寄せてみる。

「赤い実が点々と浮かぶ様は、初市の団子木?いや七夕みだいだべ」
秋になると夏を凝縮した赤い実が、街のあちこちで目に付くようになる。

「なしてこごば撮ったの?」
青い住所が問いかけてくる。
「新聞さ出っだっけどれ。こごは来年ヤマザワになるて」
郊外にばかりスーパーが出来る今、街の真ん中にスーパーが出来るのはありがたい。

撮影の写真整理の真っ最中、欠伸を噛みしめ窓の外を見る。
太い筆でなぞったような雲がオレンジに染まり、月山の上に浮かんでいる。

山形の雲はプロカメラマンにいわせると、千変万化で大変珍しいらしい。
人々も窓枠に上り、夕日をいつまでも飽かずに眺めていた。

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