◆[天童市]清池 霧に沈む街(2011平成23年11月29日撮影)


「清池八幡神社は稲荷神社なんだべが」
「なしてや」とフォックスフェイスが黄色い顔で問いかけてくる。
「ほいずぁ、おだぐだがいっからっだな。んだて狐面ていう名前だべ?」
近頃至るところで見かけるフォックスフェイス(狐面)という珍妙なゆるキャラ植物。

本殿が霞んで見えるほど参道が長い。
霞んで見えるのは、今日の濃霧のせいもあるけれど。

神社の杜がしっとりと霧に濡れる中、菊がボワンと自慢の色を灯している。

落ち葉たちが水際に集まって賑わっている。水面には葉を落とした枝が黒く細く映っている。
御手洗池(おみだらせん)という名の湧水池。

「なして木の陰さ隠っでだの?」
「んだて掃ぎだでなんねんだもぅ」
箒はきっと一生懸命仕事をしたのだろう。でも落ち葉は想定外の量だった。

「気持ちいい〜。フカフカだじぇ〜!」
「落ち葉の中に溺れるのもいいもんだねぇ」
タイヤたちはフカフカのベッドで、目がふたぎかかっている。

「オマエだは売り物にならねっけのが?」
「オラだは人から食われるより、地面さ還るほうがしあわせなのよぅ」
相変わらず霧は深く、遠くの木々は白っぽく霞んでいる。

霧の一部は蜘蛛の糸に引っ掛かり、数珠つなぎになっている。
そっと弾けばポロンポロンと音を奏でそうだ。

「んだてよ〜・・・だべぇ」
「んだずねぇ・・・だもねぇ」
小径の向こうから若い女の子の会話が途切れ途切れに聞こえてくる。
そうか、このすぐ近くに羽陽学園短大があったんだ。

「どさでもある光景だげんと、自然は凄いもんだなぁ」
朱色の玉が宙に鈴なりとなって人の目を釘付けにする。

天童の街へ続く羽州街道。
霧は晴れる気配もなく、白く霞んだ道の先から車がぼんやりと現れて走り去る。

「おだぐも年しょたなぁ」
看板の隣で、原色のりんごの幟が歯に衣着せずいう。
こんな大村崑ちゃんたちが、全国の軒下で錆び付いている。

もはや解読不可。
それでも板塀にへばりついている昭和の看板。
昭和は記憶から少しずつ消えていくのか。

結構街道を走る車は多いのに走行音があまり聞こえない。
霧に押し込められた排気音は、行き場を無くし諦めたようだ。

「咲いでんのもそろそろくたびっだがぁ?」
花びらの俯いた表情や色が、いよいよ冬かと思わせる。

ベンチに座り込み、首を巡らして狭い駅舎を眺めてみる。
平日の昼日中は空気のわずかな揺らぎが分かるほど静かな高擶駅。

太陽が顔を出せば、首を振って光を吸い込む。
太陽のでない日は、俯いたまましっとりと朝露に濡れている。

猫よけ?太陽の集光器?水を張ったペットボトルはみんな口をふさいで、鉄道沿いにずらりと並ぶ。

「なんぼ待ってだて滅多に来ねがらなぁ。」
鉄路にレンズを向ける私に、電車の本数が少ないと教えてくれる草花たち。

霧の中にツェンツェンと首を伸ばし、名も知らぬ花が空を向く。

霧の向こうに小さな光が灯った。
その光は霧の中をくぐりながら少しずつ大きくなり、
やがて電車の車体が見えだした。
大気を震わせて、電車はまた霧に中に消えていった。

陸橋の反対側に走って電車を追いかける。
すでに電車の姿はなく、霧が前にも増して密度を濃くしあたりに立ちこめる。

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