◆[山形市]松原・南松原 空が機嫌のいいうちに(2011平成23年11月23日撮影)


「あれ?なんだが駅の看板が新しぐ変わた気がする。気のせいだべが」
背後の山々の秋が深まった色は気のせいではないようだ。

逆光の中、旧羽州街道を南下する。
電線の影をアスファルトに伸ばしながら上山へ続いていく。

晩秋の残り少ない光を大盤振る舞いされ、
曇り空に慣れた目には眩しいことこの上ない。

「バスまだ来ねものなれ」
まぶしげにおばちゃんは南の方を見続ける。

「毎年のごどだなんだべげんと、水冷ったいべねぇ」
「今日なの陽暖かくて、はがいぐだげっだなぁ」
どこの家庭でも冬の味覚を準備中。

おばあさんの背中に陽がおぶさっている。
「しゃねこめ背中が温ったかぐなてんま。」
小春日和の空気が街を柔らかく包む。

「胡散臭い親爺が来たんねが?」
「どれどれ、あ〜んだりゃ。あれは胡散臭いし、バッコ臭い」
「誰がバッコ臭いてや。むぐしてなのいねぞ」
退屈した草花がフェンスから顔を出し囃し立ててくる。

「いづなたらタイヤ交換するんだべねぇ。今日なの交換日和なんだげんともなぁ」
「日和がいいごんたらタイヤなの交換すっだぐなぐなっべした」
「んだがら突然降って、慌ででさんなねぐなんのよ」
草花にとっては人ごとながら、陽をたっぷり吸い込みながら世間話に忙しい。

「遅んねで付いでこいな」
ワンころはご主人様に遅れまいと、短い足をちょこちょこ忙しなく動かしながら秋の小径を付いていく。

「ぽかぽかてこだえらんねぇ」
自転車は簾の前でウトウトしている。
どこにでもありそうな当たり前の光景だけど、遠くの白い竜山を見れば、
どこにもない山形だけの光景なんだと納得する。

すぐそこまで迫っている雪から押しつぶされる前に、
枯れ草と日差しが寝っ転がって、じゃれ合っている。

小さなバケツにも、秋の草花にも、小径の雑草にも、溢れんばかりの太陽の光が降り注ぐ。

「太陽様様っだなぁ。んだてオラだばこだい引き立てで綺麗に見せでけんのは太陽だげだじぇ」
竜山の上にぽっかり浮かぶ雲などには見向きもせず、花びらは太陽を崇拝する。

「冬の間もこのまんまなんだべがぁ」
ちぎれたロープがあちゃこちゃに結ばれ、所在なげにふらついている。

太陽の光はバスケットのネットを揺らし、
今日だけで何百点入れたか分からない。

「冬はびじゃびじゃの道ば走らんなねんだがら、
タイヤばビガビガに磨いでけらんなねっだな」

赤い実の一粒一粒に太陽の光が白い点々を作り出し、実の丸っこさをより一層強調する。

手前の土手から河川敷、そして須川を越えて薄の穂の一団。
その向こうの家並みの上に晩秋の山並みが重なり、一番上に青白く竜山が乗っかっている。
晩秋は幾重にも重なりあう色紙のごとし。

「オレは県だがらそっちはしゃね」
「オラホは市だがらあっちは関係ない」
「みだぐないったら竜山も須川も笑ったほれぇ」

「オレの道もこの堤防の小径みだいに平坦だどいっけぇ」
「平坦なてつまらねべしたぁ。まして舗装までさっでるなて、
ほだな人生だど後悔すねべが」
常に楽な道を選んできたオレが言うのでは説得力に欠ける。

「こいな日は蛇口ば思いっきり開いでみっどなんぼ気持ちいいんだがねぇ」
蛇口をちょっと挑発してみる。
「いやいやちぇっと風邪気味で咳も出っからやめでおぐはぁ」
蛇口は身を堅くして遠慮する。

色付いた葉の向こうに、山大医学部の白いビルや千歳山の青い形が見て取れる。
須川は最上川を目指して脇目もふらず穏やかに流れている。

「どだい練習したがスパイクの泥ば見っどわがっべっす」
「青春は泥まみれでいいのっだなぁ」
思わず上から目線で分かった風にいってしまい後悔する。

「ちゃーっす!ちゃーっす!うぃーっす!」
どこの馬の骨とも知らないカメラ親爺に、すれ違いざま生徒達はみんな挨拶する。
なんだか心がこちょびたぐなったので、サッカーボールを撮る振りしてうれしさをひた隠す。

今日は穏やかで静穏。
睦合橋を渡る強風も鳴りを潜めて隠れている。

「間もなぐこの辺も真っ白になんのっだなねぇ」
橋を渡るおばちゃんの諦めとも取れる言葉にハッと気付く。
山形人の心の奥底にある諦念みたいなものは、降り積もる雪が原因だったのか。

「水道のくせして鼻水も出ねのが」
ふてくされて寝そべるブラシにいわれても、蛇口はぬらぬら光る水面をじっと見つめて聞き流す。

「ニョロニョロてミミズみだいだねっす」
「こいずぁタマネギよぅ。今植えで来年の七月頃だぁ。有機栽培だがらミミズなのいっぱいいだげんんとな。」
スーパーで売っている作物しか見ない私には全てが新鮮。

「大根持ていがっしゃい」
「いいんだがっす?」
もらう前からどうして食べようか頭に描く私は浅ましい。

突然土足で入り込み(畑だから当然か)、写真撮らせてくれという私に、
丸々太った聖護院大根を見せてくれ、お土産に大根までいただいた。
都会にはない山形の良さに触れた一日。

「見ろほれ。今は雲が高いげんと間もなぐだがらな」
点を指さすゴム手袋は、風向きに注意を払い雪の近いことを教えてくれる。

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