◆[山形市]双月町・馬見ヶ崎河原 晩秋の猫町(2011平成23年11月12日撮影)


しっとりと濡れた葉っぱを踏むのが申し訳なくて、
避けて歩こうとしてもほとんど無理。

これから花開こうとする漲る生命力を、
間もなく舞い落ちようとする真っ赤な葉っぱが遠くから見守る。

空は薄い膜に覆われてどんよりしているのに、
水滴をふるい落とさんばかりに勢いよく咲き誇る。

敷き詰められた落ち葉の上にまだまだ積もる。
一部の葉っぱはちゃっかりバケツの上で道草食う。

「雪降る前に土の感触ば確かめでおぐべはぁ」
護国神社の森が色付きながら、若い力に目を細めている。

「春の麗らかな日差しの中で散歩すんの最高だじぇ」
「晩秋の落ち葉ば踏みしめながらの散歩も最高だじぇ」
最高が二つあっていいのかと想いながらも、両方とも甲乙付けがたい。

「キターッ!猫だぁー」
天気も良くないし、もし猫に会えなかったらどうしようと思った矢先。
「なに一人で興奮してるんだがニャー」
猫は見下した目つきで車輪の脇に佇む。

「おどなしぐ散歩でもしったらいいべ。何慌てふためいで撮ってるんだがニャー」
「せっかぐ会いに来たのに、その冷めた目はなに?」
猫とレンズの間には、敷き詰められた落ち葉数百枚分の距離がある。

「おらだは枡形町内会っだな」
「枡形?????」
「枡形ったてわがんねべげんと、双月町のごどっだな」
地図上に新町名は印刷されていても、地元の人々は昔からの町名と共に暮らしている。

「せっかぐ植えでもよぅ。持てってしまう人がいんのよぅ」
「心ないずねぇ」
心があっての人間。丹精込めて育てる人の心を踏みにじってはいけない。

そろそろ太陽が顔を出しそうな空模様。
なのに落ち葉の下では水滴が光っている。

「まだ今年も来たがニャー」
「おー!覚えでけっだっけがぁ」
「カメラ抱えだ変な親爺なて滅多に来ねがらニャー」

「あれがら一年、いろんなごどがあっけもニャー」
「オレは失業したしはぁ」
「んだら仲間だニャー」
お互い目を合わせずに一年を振り返る。

「あど行ぐのがニャー」
「まだ他に撮らんなねどごあっから」
「また退屈と友達になてらんなねべずニャー」
馬見ヶ崎橋へ行こうとする足へ絡みついてくる。

「どっちさ座っだい?」
「白い洋風椅子」
「オレだったら木のベンチだなぁ。んだて二人で座るいもの」
晩秋に一人は寂しすぎる。

夏の養分をため込んでぷっくり膨らみ、晩秋を見つめる。

太い枝の下に佇み、馬見ヶ崎橋を見る。
ひっきりなしに車が行き交い、山形人に欠かせないシンボル的橋だと認識する。

左の仮設橋には車がひしめいている。
右の馴染んできた橋は手摺りが取り払われて、危なっかしい姿をさらしている。

土手を降りて、河川敷から橋を見てみようと思った。
先客の黄色い花びらが、薄墨色の空をぼんやり眺めていた。

印役町側の橋のたもとはこんな具合。
白いガードレールが迷路を造って通る車を整理している。

対岸では山交バスが、晩秋のか弱い日差しを浴びている。

「なんだ。まだいだっけのが?」
「退屈だし戻てくんのば待ってっかどもてニャー」
恥ずかしげに目を逸らしながら猫はいう。

いまの内に地面の温もりを確かめておこうとしゃがんでみる。
遠くから山大の学生達の声が、日差しに暖められて地面を這ってくる。

「スーハー、スーハー。晩秋の大気が肺に染み渡るぅ」
水を吐き出した後の如雨露たちは、太陽に向かって深呼吸する喜びに浸っている。

ようやく薄靄が彼方へ消え去り、うっすらと濡れた街がクッキリとした彩りを浮かび上がらせる。

晩秋の色に埋もれて街をゆく贅沢。

「まだ青いくせにレンズの前さしゃしゃり出でくんな」
銀杏の葉っぱは気持ちよさそうに光を受け止め、すり抜けた青い光がレンズに当たる。

若いかけ声が脇を通り過ぎる。
変色し虫に食われた葉っぱは眩しげに見つめ、ひととき地面に還るのを忘れている。

「ちぇっと邪魔邪魔。陽が当だらねくて黄色が映えねぐなっどれ」
銀杏は標識が目障りでしょうがない。
「オレは黒焦げなるほど太陽さ当だていっだいの」
標識は瞬きもせず太陽を見つめ続ける。

ネジがどんなに頑張って剥がれないように引き留めても、
ベニヤ板は太陽の誘惑に勝てず反り返ってしまった。

筋雲が青い空一面に翻っている。
画面右側の樹木の上に白い点が見える。
よくよく見たら白鷺が羽を休めている。
晩秋の景色を惜しむように、晴れ上がった空に心を躍らせるように周りを見回している。

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