◆[山形市]霞城公園 雨がしとしと日曜日(2011平成23年11月6日撮影)


「こだい積もてはぁ、秋深しだなぁ」
数時間車を止めれば、あっというまに降り積もる。

「腹くついったらぁ。喉も乾いでいねのになぁ」
一輪車の大口で、秋の冷たい雨がタプンタプンしている。

滴は葉っぱの埃を吸い取って、
ぽたりと落ちて地面に消える。

「どさ行ったらいいんだべぇ。帰っどごもないしなぁ」
お願いの看板から目を背け、自転車はそぼ降る雨をじっと見つめる。

「誰もいね公園もいいもんだべ」
「言い訳すんな、雨降ってなんにもさんねどれ」
フードを被り早々に帰ろうとする二人を、黄色みがかった銀杏は無理に引き留めない。

霞城の土手に降り積もり、雨に洗われる葉っぱたち。
葉っぱたちには来年の希望はあるんだろうか。

雨に煙る霞城セントラル。いつも見える千歳山や竜山も靄の中。
葉っぱの色が徐々に赤みを帯びてくる以外、何も動くものがない不思議な静寂。

「まだ今年も散っていぐのがぁ?」
雨に濡れる石垣は、散りゆく葉っぱを名残り惜しそうにじっと見つめる。
「来年まだ新しい葉っぱが生まれっから」
葉っぱたちは気持ちの準備が出来た者から舞い降りる。

「水面ば見でっど気持ちが落ち着ぐのよ」
それは釣り人の声だったのか、散りゆく葉っぱの気持ちだったのか。

「このベンチも仮の宿っだず」
「んだぁ、ひと風吹ぐどどさ飛ばされっかわがらねもの」
ベンチは黒く濡れながら、訪れた客を四角四面の仏頂面で迎える。

「居心地良いずねぇ。ずっとこごさいっだいはぁ」
朽ちた切り株の懐は葉っぱたちに好評で、いろんな色に彩られる。

土手の上から真下のお堀へ、緑や赤や黄色が混ざり合いながら流れ落ちていく。

「いままで何にもいいごどないっけげんと、糸が切っだらそれも終わりだはぁ」
蝕まれた葉っぱが、蜘蛛の糸一本につかまって微風に揺れている。

西門の周りもしとしと降り続く雨に煙り、住宅街も息を詰めて大人しくしている。

石垣伝いに雨を吹き飛ばすような元気な声が伝わってくる。
石垣はしっとりと濡れ身じろぎもしない。

「土の上で野球できんのもあとわずかだべずねぇ」
「んだがらちぇっと雨なの降ったて気にすねの」
少年は雨が降った不運を不運とは思わない。

身を乗り出して、しゃがみ込んで、フードをかぶって戦況を見守る。
雨脚が強くなり出したのも気にせずに。

「こご登らねど大人にならんねがら」
「早ぐ大人になっだいぃ」
大人になりたくないという社会では困るけど。

「濡れっから早ぐ集まれ」
「やばついのやんだぁ」
「無理無理割り込んでくんなずぅ」
この頃の傘は軟弱になったのか?

「さっきのおんちゃん、撮ってけろてゆても乗り気んねっけずねぇ」
「おらだば撮らねで、何がカメラマンだず」
濡れたカメラを拭いている内に、少年たちは待ちきれず黄色く色付く銀杏の木の下へ雨宿りに行ってしまった。

藤棚の下に逃げ込んで、強くなってきた雨脚を恨めしく眺める。
全てがしっとりと濡れてゆく姿もいいもんだなと、暫く佇んで蔓の枝を撫でてみる。

「こごまでして、さんなねのが野球ば」
体はズダズダなのに心はポカポカなんだべな。

出来るだけ濃い緑を探して再び雨宿り。
落ち葉を踏みしめて、ずぶ濡れの自転車が逃げてゆく。

「南方の無人島なのんねがらね」
子供の頃、霞城公園には狸が住んでいたというのも頷ける。

傘の中から明るい声が次から次へと空中へはじけ飛ぶ。
はじけ飛んだ声はしっとりとした空間で勢いを失い、落ち葉の影に隠れてしまう。

「しゃますさんなねぇ。こだい降っど思わねっけもなぁ」
真っ黄色い銀杏の落ち葉は、雨に打たれてピクピク震える。

最上義光さんが長谷堂を見ている間にも、
雨は降り続き、赤い葉っぱを道連れにして流れてゆく。

「なんだてこだな天気になっどはなぁ」
「誰が雨男いだのんねがよ」
しっとりした空間を、傘の一団が足元を気にしながら歩き去る。

静寂が満ち、落ち葉が満ちる。

ぬるりとした石面に枝が黒い模様を描き、
その上へ葉っぱがぺたりと張り付く。

「早ぐ家さ帰っだい〜!」
脇目もふらずカッパを押さえながら、自転車は濡れた路面を滑ってゆく。

「オラだば中さ入れでけろー」
霞城公園を一回りして車へ戻ってくると、断りもなく銀杏がフロントガラスにへばりつき、恨めしげに車内を覗き込んでいた。

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