◆[山形市]駅西・双葉町・城南町 空だけは濁りなし(2011平成23年10月29日撮影)


三中のグランド側から木陰がなだれ落ち、落ち葉の上へ覆い被さる。

ビルのわずかな隙間から入り込む光に、
エノコログサは喜んで首を振る。

「駅西だら年中なにがイベントあっずね」
「年中こいにして出掛げらんなねがら困たもんだぁ」
駅西のイベントは食べ物がらみが多い。

「なんだべ、なにしったんだべ地面さ何が広げで」
背中に日差しを浴びながら、無心に作業するおじさんが気になって近寄っていく。

「クルミば割ってっだのっだなぁ」
「ほっだな、今時山さ行ぐどなんぼでも採るいぃ」
くるみ割りおじさんはトンカチをふるって話し出す。

砕かれた殻からクルミが飛び出し、
秋の日差しにさらされる。

三中時代、それは四十年昔のこと。
帰り道の途中にあった双葉公園は、道草にはもってこいの場所だった。
あの芸術的な白い滑り台が、今でもあることに驚きと喜びが湧いてくる。

「今日はいい日和だずねぇ」
「こいに並んで日向ぼっこが一番だぁ」
「寒くても凍えで並んでらんなねげんとなぁ」
草花の向こうでベンチたちがのんびり会話を楽しんでいる。

「別に風邪ひいっだがらマスクしったのんねがら」
「口ふたげてやっだのが?」
「んだ。口ふたいでいねど、思てっごどばなんでも吐き出してしまいそうになるんだも」
孔雀草の向こうから、微かにくつろぐ人の会話が流れてくる。

突然人前に現れて声を掛けてくる真っ赤な花びら。
「おだぐはダリア?」
「おだぐこそダリア」

街は赤や黄色味を帯び、公園内も秋の風情。
風情を楽しむのはいいとして、よく軒下にいる雪消し虫みたいなのが、
公園中にワンワンたかって白く煌めきながら舞っているので、呼吸をすれば吸い込んでしまそうだ。

「いづ出来るんだべなぁ」
「孫がぁ?」
「んねぇ、駅前さ抜ける新しい道路よぅ」
「工事はだてがら、十月十日以上経つべはぁ」

「蜘蛛の巣が張るなら分がんげんと、
まさがホースが巻き付くどは想定外だぁ」
灯籠は困惑気味。

「オラ毎日三中生の行き帰りば見守ってけっだんだぁ」
稲荷神社の狐がジーッと鳥居の向こうを見つめている。

一点の濁りも無い空。
立ちはだかるビルの向こうから、なにやら民謡が微かに聞こえてくる。

「耳さタコできるくらい何回も言うげんと、こごらは夜おっかなくて歩がんねっけ」
「何年前の話や?」
「オレが中学生んどぎだがら、かれこれ四十年前がぁ」
確かにあの頃は東洋曹達があり、三中から駅西口へ向かう道は暗かった。

山形に似つかわしくないビルがそそり立ち、
キツネノテブクロは狐に鼻をつままれた気分。

今の内に滑り台に乗っておくかと思ったが、年齢が邪魔をして断念する。
秋の日はつるべ落とし。秋の日に滑り落ちない中年男。

もはやどこへ行ってもコスモスだらけの昨今。
太陽光もピンクに変える。

「道路の真ん中危ないべな」
「ほういうおだぐも真ん中だべ」
乾いて白く光を反射するアスファルトに、乾いた笑いがコロコロと転がる。

「さっき街中さ漂っていだっけ音は、仙山交流味祭りのステージだっけのがぁ」
「どうが足たいらにして聴いでけらっしゃい」といいたいところだが、生憎観客席は折りたたみ椅子。
足はたいらに出来なくても、気持ちだけでもたいらになって楽しむか。

「オマエ重だいず、オレふちゅぶれっどれ」
「文句やねで売れんの待ってろ」
コロコロに太ったカブは、自分の重みを自慢気にさらす。

「みな安心・安全だがらねぇ」
「んだ。帰り道の車運転の方がよっぽど危険だ」
東北復興を掲げるイベントは大盛況。

霞城セントラルより少しでも高く空へ突き出せと、がんばろう東北の幟が微風になびく。

「見でってけらっしゃい」
「ハロウィンだが?」
なんだがよっくど分からないが、賑わいがあることはいいこととしようか。

自転車たちは、影をビローンと伸ばし、首も長くして主を待っている。
「おそらぐながなが帰ってこねよ。んだてんまそうなものばっかりずらっと並んでだっけも」

「ほれ出番だほれ。犬さかまてる暇ないがらて」
出演者は足早に舞台へ向かい、イベントお手伝いの三中生は犬へちょっかいを出したくてウズウズしてる。

「こっだな青空で踊れるなて、気分最高っだなぁ」
スピーカーから響く大音響とともに、踊り手の気持ちは青空へ舞い上がる。

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