◆[山形市]下条・城北 変わる街並み変わらぬ夕暮れ(2011平成23年9月28日撮影)
霞城セントラルを西日のベールが包む。 下条の緑濃い街並みにも西日が這い寄る。 |
|
「この頃は長袖着たらいいが、半袖でいいが分がんねまぁ」 自転車に乗るならなおのこと悩んでしまう微妙な季節。 |
|
休める羽に光をため込み、思慮に耽る夕暮れまでのひととき。 |
|
「生きるためには支えが必要っだな」 「随分目立つごっつい支えだずねぇ」 人間は誰でも目に見えない支えで生きている。 |
|
「タイヤば干すど、大根干しみだいに旨くなるんだがっす?」 道路端でぬくぬくと西日を浴びるタイヤにちょっかいを出してみる。 |
|
「陽が傾くどドンドン影が離っでいぐ」 蛇口は寂しげに明日も来いよと影に声を掛ける。 |
「しゃーだぁ、まんず」 突然撮らせて下さいと声を掛けられ、おばさんは笑顔で応える。 |
単調なアスファルト道にアクセントが映える。 「やっぱり花あっどいいねぇ」 んだべんだべと頷きながら、赤い花が青空の中にクッキリと浮き上がる。 |
|
お堀っ端を自転車が遠ざかる。 ガードレールは傾いた太陽の影をどこまでも伸ばす。 |
|
「重だぐ実たがら、屋根で一休みがぁ」 ザクロは口をすぼめながら何か呟いている。 |
|
「さきづ止まれ?」 「まず止まれだず」 「とにかくなんでも命令口調はダメっだなぁ」 錆の浮いた看板ができた頃と時代が違う。 |
西日を体中へまともに受けながら、 女子高生は七小前を足早に通り過ぎる。 |
「この季節はどごさでも咲ぐがら」 歩道橋の影になりながら、それでも咲くことを諦めないコスモス。 |
|
西田町へ続く道を、柔らかい日差しを浴びて人々が帰途につく。 |
|
秋の青空は毎年変わらない。 変わるのは街並み。 今まさに道路拡幅で変貌する街の姿が目の前に広がる。 |
|
変貌中の街並みは、なんだか雑然としている。 その雑然を西日が包みこんで、夕刻の気だるさを醸している。 |
|
「オラだの影がビローンて伸びっだじゃあ」 「成績伸びねのに影だげ伸びるてがぁ、ぎゃはは」 「道端で油売ってねで早ぐ帰れはぁ」 |
|
所有地を主張するように太い杭が打たれる。 「なんぼオマエだが踏ん張って主張しても、青い空だげはみんなの物だがら」 |
|
「なえだて変わてしまたずねぇ」 変貌した光景の中へ一番最初にしゃしゃり出るのはたくましく生きる雑草たち。 |
|
「オマエは毎日列車のガタンゴトンていう音ば聞いで育たんだべずね」 コスモスは昭和橋のたもとでガードレールのまぶしさに顔を背けながら、カメラに近づいてくる。 |
|
「この写真なんだが物足りないど思わね?」 「そういえば城北の女神はどさ行った?」 見慣れたシンボルが消え、心に小さな空洞がまた増える。 |
「エヘン。ゴミの投げ方はちゃんとしったべな」 ネットは男爵の髭をピンと張らせて睨みをきかす。 |
「あんまり西日が強いど困んのよねぇ」 「なしてや?」 「皺がクッキリ見えでしまうどれは」 子供たちの尻ぬぐいをしてすり減った、ミツバチ公園のブランコ座面。 |
|
「昔の校舎てこの辺さ建ってだっけのんねっけがぁ」 そこは原色の植物が葉を伸ばし、遠くには奥羽の山並みが見渡せるようになっていた。 |
|
「オレは絶対こごから動がねがら」 金治郎さんは校舎が変わっても一心不乱に書物を読む。 |
|
子供たちが家路につく頃、家並みにはオレンジ色になりかけた光が張り付いている。 |
|
やけに発色がいいと思ったら、 コムラサキそのものの色に日差しのエッセンス。 |
いよいよ夕刻が近い。 土塀の色が徐々にオレンジに変わってゆく。 |
家並みを抜けて畑地に迷い込む。 出迎えてくれたのは、逆光の中で手招きするヤマゴボウ。 |
|
街の真ん中にこんな広い畑地が隠れていたことにほくそ笑む。 陽は傾き、小径が細々と伸びている。 |
|
「どさ行ぐど、普通の道さ出られるんだっす?」 「ほっちのほりゃ、ちゃっこな石橋見えっべぇ。ほっから右さ曲がっど旧街道さ出っからぁ」 懇切丁寧に道を教えてくれたおばさんは、畑仕事も懇切丁寧に違いない。 |
|
「もう少しで沈むはぁ」 コスモスたちは鼓動を早め、その瞬間を固唾を吞んで見守る。 やがて訪れる静寂を恐れるように。 |