◆[山形市]馬見ヶ崎・第九地区秋祭り(2011平成23年9月23日撮影)


「台風一過」
「台風いらね」
「いっか?なて聞いでいね。台風が過ぎ去ったてゆったのよぅ」
台風に乗り遅れた、もっこりと膨らんだ雲と問答する楽しみ。

「神輿だが竿灯だがわがらねげんと、何が道ば歩いっだりゃ」
そういえば今日は山形九小の秋祭りだと思いだし、天気は良いしで心がはやる。

「ブランコさ乗っど、自分の世界さ浸れる気がすねが?」
「ほだな難しいごといわっでもわがらね」
男の子は黄色い靴底を見せ、秋風と戯れる。

「ずーっと川面ば見でっど、自分がすーっと動いでいく気がする」
「そろそろ帰っべはワン」
馬見ヶ崎の流れも落ち着き、ゆったりした時間が流れる。

「ほだい下ば覗ぐど危ないがら」
「人間、上ばり見ねで下ばも見らんなねのよ」
台風が過ぎ去り、馬見ヶ崎川の向こうへ久しぶりに竜山が青ざめた顔を出す。

台風について行けなかった残党だろうか。
もったりした雲が、重たそうな体を地面すれすれにして流れてゆく。

台風が残した水溜まり。
少しずつやせ細りながら雲の行方を映し込む。

誰もいない河川敷のサッカー練習場に佇む。
選手や観客の声の代わりに聞こえてくるのは、湿気を帯びた地面のうめきと空を流れる雲の静かな呼吸。

「押すなずぅ。ほりゃあ、もっくらがえたどれはぁ」
草むらへつんのめった青いネットを、
後ろのネットたちは無表情で見つめている。

絡まった先には空を見つめるミラー。

「みな頭ば垂れできたねはぁ」
「食べでもらってありがどさま〜て頭ば垂れでんだべが」
「ほだな人間中心の考え方おがしいべぇ」
刈り取られるのを待つ稲穂の上を、しっとりした大気が流れる。

突然雲間から光がこぼれ落ちる。
色づき始めた葉っぱも実も、ここぞとばかりに輝いてみせる。

「なんぼ休みだてお祭りあったて、オラだはかしぇぐのっだず」
失業中で毎日が日曜日の自分には、
痛い言葉をなって胸を刺す。

「ほだい睨まねでけろっす。怪しい者んねんだっす」
プワプワ遠ざかる風船を狙ったら、
手前のおじさんが怪訝な顔を向けてくる。

迷路の中にカメラをグッと突き出す。
ジャングルジムに登り、空に少しばかり近づいた子供たち。

誰かが乗り捨てた左端のブランコは、手持ち無沙汰になりながら、誰に見られるでもなくただ揺れている。

「えぃ!飛んでけぇ!」
グランド隅の小山に登り、雲を切り裂けとばかりブーメランを飛ばす子供たち。

がんばろう東北が、空へ届けとばかりに直立して踏ん張っている。

「悪れ子はいねが〜、泣ぐ子はいねが〜」
「それはなまはげだべ」
緑の体に赤い目玉の神輿が何をいおうが、子供たちは遊びと食べ物に夢中で誰も振り向いてくれない。

「見で見でぇ、飛んだ飛んだぁ!あれ?誰も見でけねの?」
「大丈夫。おんちゃんがちゃんと撮ってけっだがら」

「こだいずらっと目の前さ並べらっだら、
誰だて理性が吹っ飛ぶべした」
目の前の誘惑に、ゴクンとつばを飲み込んでしまう。

「山形人だごんたら、どんどん焼きぐらい造らんねくてどうすんの」
確かにそうだが、できれば食べることだけに専念したい。

「やんばいに晴れでいがったなぁ」
「こだい人が来てけっど嬉すいもんだま」
空は柔らかい色になり、子供たちの歓声を包み込む。

その一瞬、空気を圧する大音響に鼓膜がビリビリ震える。
おじさんはあっという間に会場の主人公へと躍り出る。

「みんな、あのカメラのおんちゃんば狙えぇ!」
「せーのぉ、飛べぇ!」
飛行機たちはおんちゃんなんかに目もくれず、青い空へと舞い上がる。

「イエーィ、ほだんどごで何しったのー?」
上から目線で子供たちに聞かれ、ドギマギしながらシャッターを切る。

退屈を通り越した一輪車の隙間を、秋祭りのざわめきが通り過ぎる。
初秋の日差しが、時折車輪を暖めたかと思うとすぐに消え去る。

「これ以上どごさ伸びっどいいのや」
伸びきった蔓はおがれおがれと成長させられ、行き着く先は秋だった。

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