◆[山辺町]羽前山辺駅・長沼公園 線路は続くよ暑さも続く(2011平成23年8月15日撮影)


湧き上がる雲と地平の狭間から豆粒ほどの列車が現れ、少しずつ少しずつ近づいてくる。
本数が少ないだけに、近づいてくる間に高揚感で心が満たされる。

遮断機が下ろされている間は郵便局のおじさんも一休み。
列車が通り過ぎるのを、体の力を抜いて待つ。

「今から山形さ行ぐんだがらなぁ。楽しみだべぇ」
「山形てどだなどごなのや?」
「生き馬の目ば抜ぐみだいな大都会だぁ」
「んだら目ば抜がんねように押さえながら歩がんなねねぇ」
羽前山辺駅にひとときの活気が満ちる。

「お盆だがらよぅ。退屈でぇ」
ポツンと取り残された自転車は、
生い茂る雑草へ言葉を投げかける。

お荷物どうぞと、両の手をつだしているゆうパック。

昔のまんまの山辺駅前。
人通りの無い道路へ壁へ、日差しは街を痛めつけるように容赦なく降り注ぐ。

ローカル駅の哀愁が漂よう駅前通りは、青空の中に蝉の声が混じるだけ。

遮断機の棒は、一時間に一回だけ地面すれすれに降りてくる。
あとは風が吹こうが雨が降ろうが、天空を指さして直立不動の姿勢を保つ。

「ベルさ買い物しぇでってけっから。何くだいのや?」
ベルといえば山辺ではヤマザワみたいな店。
ベルへ買い物に行くことが、山辺町民のステータスなんだな。

センニチコウが路面に溢れ出ている。
花言葉は不老長寿だから、路面に溢れ出る不老長寿。
高齢化社会のひずみを花言葉で感じるなんて、なんだがなあ。

「イェーイ!元気?」
快活に声を掛けてくるウサギ。
その後ろではにかんでいるのはスバル360じゃないか。

どこにでもありそうな小さな公園。
ここで子供の頃の思い出を育んだ人にとっては、
唯一無二の大切な思い出の小箱。

空を仰げばギラギラの太陽。
トタン板をそんなにいたぶって嬉しいか。
枯れ枝の影は錆びて茶色いトタン板をスイッと無意味に撫でている。

「おお、また百日紅が今年も咲いだがぁ」
二人の電信柱は一年の過ぎゆく速さに感慨深げ。

「止まれ止まれ止まれぇ〜」
「止まれ止まれて言うだげんねくて、
止またあどどうすっか指針ば示してけらんなねんだべず」

網戸にへばりつくゴーヤ。
これ以上膨らんだら落ちてしまうと、
小さな実が不安を抱えている。

「オマエだどれだげこごさいんのや?」
「蓋ば見っどわがっべ」
開いた口がもうふさがらない蓋の無い瓶たちが、声を揃えて言い立てる。

山形もきっと亜熱帯化しているに違いない。
空を見上げながら植物を見ながら、ふとそう思う。

こんもりとした森が行く手に迫ってくる。
蝉の鳴き声は一層激しく、耳鳴りに被さって響いてくる。

「ずっと立ちっぱなしだがら、みんなこだい真っ黒ぐ日焼けしたぁ」
「一番右側のポールはシートば被ったどれ」
「んだ、あいづだげ日焼けがやんだて頑ななんだなぁ」
暑すぎる大気に、チェーンはへばってだらりとぶら下がる。

「よぐこだい暑い時わさわさ咲いでぇ、元気だずねぇ」
「カメラのおじさんが変なこと聞いでくる」
道端のオイランソウに夏バテはないようだ。

ようやく長沼公園に着いた。
とりあえず日陰を求め、首筋や額の汗を拭きながら、とろんとした水面をしばし眺める。

「何釣れんのや?」
「ブラックバス。夏休みの研究にするんだ」
子供たちは、遊びと研究を両立している。というか遊びの中から研究は生まれてくるんだな。

「どれ、ちぇっと釣れだの見せでけね?」
「今日のはちょっと小ぶりだげんとな」
子供は冷めた口調で淡々と説明し、淡々と釣りに戻る。

「なんだこごは!ディズニーランドが?ラスベガスが?」
王冠を載せた自販機に、ジリジリと太陽が日差しの針を突き刺してくる。

太陽に透けた葉っぱが若々しい。
盛夏の空へまだまだ伸びしろがあるぞと誇示するように。

「赤いキクラゲみだいだずねぇ」
「その言葉は褒め言葉?」
百日紅に聞かれ、一瞬心の中に動揺が走る。

「フェンスだろうが、簾だろうが、何さでもたづいで伸びればいいのよ」
朝顔の貪欲な生き方は真似できない。

ノウゼンカズラがダランと垂れている。
トタンに張り付いた影は微動だにしない。
止まった空気の中で、背中をツツーッと汗が流れる。

「これは食わげだスイカだが?食い終わたスイカだが?」
まだ赤いところが沢山残るスイカに目が吸い付いて離れない路地。

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