◆[山形市]宮町・両所宮例大祭 澱んだ空気に雅楽のフィルター(2011平成23年8月1日撮影)


「満足したが?」
「うん、ちょぺっと満足した」
お祭り帰りの親子連れの言葉が、澱んだ空気の隙間を縫って朝顔まで届く。

「急げぇ、みんなから遅れるぅ」
保育士さんの額に汗が光る。今日はそんなに暑くないのにと、園児たちは不思議そうな目を向ける。

「天使の羽根みだいだずねぇ」
「森永のエンジェルが?」
冗談を囁きかけてもびくともせず、お祭りの旗をしっかり支える。

「この字が目に入らぬかぁ」
灯明は誇らしげにあたりを睥睨する。
「目さ入れる前に、なんて読むんだっけぇ?」

「子供はちっちゃくて軽いげんと重だい」
「んだのよ〜、責任の重さなの計らんねくらい重だいもの」
保育士さんは祭りに浮かれること無く、尚かつ体力が無いとできないんだな。

「ちぇっとコカコーラの自販機邪魔くさい〜」
「んだんだ、オラだの綺麗さが引き立たねどれぇ」
自販機は多くを語らず静かにうなり声を発している。

「こだい買ってごしゃがれっべが・・・」
「しょうないっだなぁ年に一回のお祭りだどれ」
少年はこわごわと家路を急ぐ。

直径20センチはあろうかという花びらを、ゆっさゆっさと揺らしながら町の匂いをクンクンと嗅ぐアメリカフヨウ。

真夏にしては打ち水も必要のない陽気。
それをいいことに、両所宮前の通りには逃げ水が蠢いている。

「こごさは前に病院あんだっけずねぇ」
今はだだっ広い空き地になった片隅に、アザミがぷっくり膨らんでいる。

「県民会館前の噴水んどごよりずっと広いんだねぇ、この池」
「んだっだなぁ。山形市の北の玄関口だじぇ」
小便小僧はチンチン片手に自慢する。

「大阪だがどごだがで、立像さ赤い服着せんの流行てるったんねがよ」
「夏は裸でもいいげんと、秋になたら女専の生徒から服着せでもらえな」
それにしてもあの放物線は若々しく勢いがある。

他の町とは匂いが違う。醸し出す雰囲気も違う。
かつて宮町や銅町一帯は山形一の工場地帯だった。

「秋来い、早ぐ来い。秋来い早ぐ来〜い」
エノコログサは念仏をいつまでも唱えながら、手招きを繰り返している。

「オマエいづまでぶら下がてるんだ?
まさが不法投棄のゴミんねべな」
「失礼だずねぇ。こだい綺麗なゴミあっかず」
黄色い傘は憤然とした気持ちをボタンで閉じ、超然とぶら下がる。

「朝から雅楽の音聞こえっけじぇ」
「オラ聞く耳持だねも」
「素直になっべずぅ。チリトリと箒の仲だどれぇ」

「昔はお祭りんどぎ、この通りも通行止めだっけずねぇ」
「んだぁ、もの凄ぐ盛大だっけ」
「過去形でいうなず。今でも盛大なんだがら」
車社会はお祭りを道路から追いやってしまう必要悪。

威厳を体中から発して堂々と立つ。
でも、すぐ目の前を頻繁に走る車には辟易しているかも知れない。

「オラだはちょどしてんべはぁ」
「んだんだ。お祭り終わたらまだ仕事だも」
箒は身を寄せ、行き交う人々の高揚した笑顔をそっと見守っている。

「せっかぐお祭りさ来たのに元気ないんねが?」
「プライベートの問題だがら」
「暗いどごでデートの問題?」
目の前をしょっちゅう車が通るものだから、会話にちょっとしたすれ違いが生じる門の下。

まなじりを決し見据えているのは、誰もいないカラオケ大会のステージだった。

「この水で清めらんなねんだがら」
「何ば清めんのや?」
「心が清い人はほだごど聞がねの」
「心のばい菌ばやっつけでけるんだべ?」

「どれどれ、人の願いごども気になるべしたや」
「人の事より、腹減ったぁ」
絵馬はみんな上を目指し、どれ一つとして下を見る者はない。

「穴ポコさ入てっどなんだが安心する」
「わがんねでもないげんと、頭ぶつけんなよ」
子供たちは恥ずかしいことがなくても、穴があったら入りたい。

太陽が雲間から突然顔を出した。
自走式メリーゴーランドに乗った子供達の影が、樹木の影を出たり入ったりしている。

「ほれ、ちゃっちゃどけえほれ」
「ありゃあ、口の周りビダビダてぇ」
コンクリの鉄の取っ手は影をビローンと伸ばし、腹をグーと鳴らしてチラ見する。

「今日はほだい暑ぐないもなぁ」
「まだ午前中だがらぁ。午後からいっぱい来っべした」
氷の文字はそよ風に揺れ、おじさんの手は腰から動かない。

ギッコンバッタンの板が地面にぶつかる音と子供の嬌声は、
簾の隙間からこぼれ落ちずに耳へ届いてくる。

「あどいいべはぁ」
「まだ若いんだも頑張らんなねべした」
「んだて車輪がないんだじゃあ」
地面にうずくまる自転車へ、日差しは慰めるように集まってくる。

水面すれすれに枝を垂らし、自分の姿をまじまじと覗き込む。
映った姿は自分の心情を現すように揺れている。

「やっぱり夏はオラだの出番だべぇ」
ノウゼンカズラは勢いそのままに道路へはみ出し、祭りを大いに盛り上げる。

「暑さは熱さには勝だんねのよ。見でみろぎっつぐ握った手ば」
ノウゼンカズラは暑さも忘れ興味津々で覗き込む。

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