◆[山形市]蔵王温泉街 暑さを逃れて来たはずが(2011平成23年7月16日撮影)


山形市街から登ること40分。
がんばろう東北のTシャツが、大人し~く熱い風にそよいでいる。

「今年は温泉も暑くてなれぇ。オラダもがおてしまうずぁ」
アスファルトの照り返しが厳しい道端で、あえぐように咲いている。

「鮮度が命っだず。んだがらこだい暑いどぎはダガダガ急いで届げらんなねのよ」
額に汗を滴らせながら仕事に勤しむ。

「葉っぱばりブハラブハラておがてなぁ」
暑さを逃れて来たはずなのに、涼しさの「す」の字を探すのも大変。

「暑いがらて仕事すねわけにいがねべ。涼む前に仕事ありきっだず」
車のリアガラスに太陽が張り付き、熱風が留まる街角。

「頭熱い~」
「あ、ゴメンゴメン。自分ばり傘ば差しったきゃあ」
小さな頭と小さな体にも日差しは容赦ない。

「ダメだぁ、とにかくだめだぁ」
この暑さにスキー靴が絶えられるはずも無い。

「まさか冷やし玉こんんねよね」
「暑すぎでなんだが湯気も元気ないもなぁ」

風になびく蕎麦処の文字が涼しげ。
でも直射日光を浴び過ぎてクタラーとしている気がしないでもない。

紅花とペコちゃん。
どちらも山形で日本で愛されてやまない。

「県外の人は団子だど思わねべが」
すべすべして旨そうだもなぁ」

屋根に路面にジリジリ照りつける日差し。
人々は屋内に篭もり、じっと暑さをやり過ごそうとしている。

「オマエは外で遊んできたらいいべした」
「オレだて暑いのやんだもの」
風呂から上がりたてで気持ちよさそうなタオルから、
サッカーボールは無理強いされて隅っこに逃げる。

「グダラ~。もうダメ。力が出ねぇ」
冬はあんなに頼もしい力持ちも、暑さには勝てない。

「千葉の銚子からござたのぉ、やっぱり調子いいど思ったまぁ」
すぐに撮影に応じていただきありがとう。

おはようございますの言葉を残して、
緑のトンネルをくぐり抜け坂道をゆっくりと下っていった。

温泉街の表通りだけではなく、道を外れて裏通りに足を運ぶのも楽しみの一つ。
鬱蒼と小径を覆う茂みの先には何が待っているんだろう。

斜面に発達した温泉街は、石垣の上にまた石垣。
そして石垣のその上に青空が広がっている。

何の変哲も無い電信柱だけど、なんだかすっくと立つ姿に惚れた。
這い上ろうとする蔓草にも寛容な電信柱は、何を考えながらじっと立つ?

「こだなムンムンすっどごでよぐ咲いでるいずねぇ」
「んだて私だは丈夫な草花で有名なんだもの。弱かすどは違うんだも」
一言うがいずねぇと思いながら首筋の汗をぬぐう。

「まだ今年も咲いだがぁ。ブハラブハラ咲いでいねで、少しは品良く咲いだらなんたや」
「失礼だずね。夏は元気よくビロビロ咲がんなねっだな」
夏空へ一直線に立ち向かうように伸びるタチアオイ。

「ほっだな階段錆びでで、たづいだてポロポロ崩れそうだどれはぁ」
藁にすがらず鉄さびにすがる雑草。

「ちぇっと通らせでけらっしゃい」
消火栓と地蔵さんが見つめ合う、
視線の真ん中を通るのは気が引けた。

新しく綺麗な蔵王の表面だけを見るんじゃなく、生活路の階段路地をうろついてみる。
硫黄の匂いに混じって蔵王の人々の生活がおぼろげに見えてくる。

ターミネーターの金属宇宙人が、階段を下りる度に表情を変えて睨んでくる。

暗がりの向こうに日差しが見える。
熱に浮かされたように吸い込まれるように、ふらふらと日差しへ歩を進める。

人生の岐路に立ったらどこを登る?
しかも右か左かの二択じゃなく三択だったら、益々迷って引き返すかもしれない。

階段沿いにずらっと並ぶガクアジサイ。
涼やかな水色を空気中に放ち、その周りだけが三度ほど気温が低そうだ。

紙垂(しで)が青空からめくれ上がるように浮き上がる。

むき出しの感情を露わにする壁面。
感情を包み隠し、日差しを避けるように歩き去る緑の着衣。

「暑い暑い暑い!!」
「ほだい何遍もいうなぁ。いわねったてみんなわがてっごどだぁ」
暑いという言葉は、周りの人々を益々暑くする。

ジリジリ照りつける太陽。
それでも洗濯ばさみは力を振り絞ってシーツをくわえ込む。

「オマエも頑張てるなぁ」
「なして?ただじっと動がねでいるだげだげんと」
「んだて体ボロボロだどれはぁ」

「ほろげ落ちそうだどれはぁ」
「蔵王の温泉街は平地が少ないがらしょうがないのよ」
ちょっとのスペースを見つけては車が居座る。

空に向かって歌うのはさぞ気持ちいいだろう。
暑さにも負けず、周りの雑草にも負けず、青空へ香気を放つ。

竜山の脇へ白い雲が浮かぶ。
車体はギラギラと光を反射する。電信柱は暑さにゲンナリし、それでも電線を支えて持ちこたえる。
白い標識は温泉街へ涼しげな視線を向ける。

ドウドウと音を響かせて温泉街を縫う。
硫黄の臭いがその音に紛れ込んで温泉街に立ちこめる。

「蝉しぇめあべー!しぇでってけるてさっきゆたどれぇ」
「さっきはさっき。今は今っだな」
店の中からお母さんの声が途切れ途切れに飛び出してくる。
少女は待ちきれず、寂しげに捕虫網を空へそっと掲げてみる。

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