◆[山形市]市役所前・文翔館 キャンドルスケープinやまがた(2011平成23年7月10日撮影)


「おお、しったしった何がしったりゃ」
文翔館前広場には、夕暮れ近くの柔らかい光が気だるく漂っている。

「夕日ば背にして演奏なて粋だずねぇ」
いつもは無粋な市役所前で、夕日に混じって奏でた音符が踊っている。

「名前なんていうんだっけ?」
「オレは三等身だげんと、おだぐは二等身だな」
何を言っても返事が返ってこない。

箱に詰められた蝋燭が整然と並び、
燃え上がる時をじっと待っている。

「字が上手くなりますようにがぁ・・・えらい。」
「今時はキーボードを打つのが旨くなりますようにどが、
メール打ちが早くなりますようになてゆてんのがいっからなぁ」

「城西牛乳てゆうのが山形らしくていいんだずねぇ」
「んでも牛乳パックは、
まさか蝋燭ば包む役になっどは思てもいねっけべなぁ」

「しゃねこめ七日町通りもすっかり変わってしまたもはぁ」
通りを挟んで市役所の向側、山銀と県民会館を挟んだゾーンは昭和を払拭するようにビルが新しくなっている。

ビルの隙間から夕日が細長く伸びる。
マンホールの蓋が、黄金色の小判の様に輝いている。

裁判所前の歩道は赤く発光し、山交バスが夕日を背に浴びてゆったり走る。

並木道には闇が迫り、夕日が少しずつ退行してゆく。

山形人なら街のどこかで見かけたことがあるはず。
新聞でも紹介されたハモニカおじさん。
今回のイベントへ花を添えるように、♪笹の葉さらさら〜と音色を夕空へ吹き上げている。

文翔館の前に陣取り、街ゆく人々を見守る背中。
その背中には微かな哀愁が漂っている。

みんなの願い事が、日中暖められた石畳の熱に揺らいでいる。

月もクッキリと姿を現し、いよいよ夕闇が迫ってくる。

「願い事なんて書いだの?」
「教しぇらんねぇ。恥ずがすいものぉ」」
「んだら、あえて聞がねごどにするはぁ」
ホントはハッキリ聞いて欲しかった。

「一個一個丁寧に点けらんなねがら、しゃますするぅ」
「指の腱鞘炎なっかしたぁ」
キャンドルナイトも結構汗だく。

竹の周りに集い、願い事を結び、
そしてあちこちへ思い思いに散っていく人々。

「んねんだっす。ちぇっとまってけろっす。人が詰めかけ過ぎて対応でぎねほどなんだっす」
携帯片手に焦るスタッフ。静かに闇へ飲まれようとする文翔館。

ガス灯にも灯が灯り、一層あたりの闇が勢力を増してくる。

「こだい薄暗くなてきて、写真撮れっべがねぇ」
「三脚立でねど、まず無理だべな」
いつもはたがて来ない三脚が肩に食い込んで痛いのをこらえながら、背後に回り心の中で呟く。

文翔館の正面玄関の枠内に、七日町・旅篭町のビル街と、前庭の人々が治まり、どんどん闇に溶け込んでゆく。
月だけは一層輝きを増し、きっちりと空へはめ込まれている。

夕暮れの中で願い事を結ぶ人は後を絶たず、竹の葉が少しずつ撓(しな)ってゆく。

山形の誇る文翔館の威容が、蝋燭の淡い光に浮かび上がる。

「男三人で時計台ば見つめんのもオツだずね」
「こいなばオツなてやね。男同士なてちぇっと悲しぐないが?」
「まずいいべした。仲良ぐすっべ、頑張っべ山形」

記念撮影に余念がない若者たち。
なにかというとすぐ写真を撮りたがる日本人のDNAは文翔館内でも健在だ。

「重だくていつまでも支えでらんねんだがら、早ぐ結べずぅ」
「んだて願い事がながなが言うごど聞がねんだも」
夜空に短冊がヒラヒラそよぐ。

「オラだば踏んづけんのいねべね」
「ほだな酔っ払いが来るほど遅い時間んねがら」
蝋燭たちは柔らかい光を放ちながら、時の経つのを忘れて一晩話し込むんだろうか。

「子供は夜更かししてだめっだな。空ばり眺めでいねで早ぐ寝ろはぁ」
「暑くて寝苦しいんだもてゆうが、腹膨っでゲップ出そうなんだも」
夜空にゲップはさぞ爽快だろう。

「そういえばこっちでもしったんだっけなぁ。忘っでだっきゃぁ。ありゃ、誰もいねりゃ。終わりがぁ」
スパッと切り落とされた竹の中から淡く光りを放ち、かぐや姫が生まれてくる。
なんて事が起きるほど世の中は素直じゃない。

来たときはまだ空が明るかったのに、今はテールランプが路面を滑り、ビルは静かに闇に浮かび上がっている。
「んだら帰んべはぁ。んだて母ちゃんが冷や麦とサバ缶準備して待ってだものぉ」

[付録]7月11日(月)夕方撮影
日中はチクチクと針を刺すような日差し。夕方近くにバケツをひっくり返したような雨。
雨も上がった頃、窓から外を見ると二重の虹と稲妻。
まるで盆と正月が一緒に来たような(例えがおかしい?)、ネコの目天気だった。

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