◆[山形市]桜町・木の実町 まとわりつく溽暑(2011平成23年7月3日撮影)


水分と気温と湿度が葉っぱたちには丁度いいらしい。
ぶはらぶはらと曇り空をかき回す。

「あど、いぐびゃ〜。熱中症なてしまうはぁ」
豊烈神社の森は、モクモクと湧き上がる雲のように力強い。

「オラだは毎日大手門ば見でんのよ。いわば見張り役っだなぁ」
植木達は誇らしげにこぞって白壁を眺める。

ムーミンに出てくるニョロニョロが、大挙して押し寄せてきたようなラムズイヤー。

「黄色い鎖からは出らんねんだぁ」
自分で決めた範囲から出ようとしないスイセンノウ。

「雑草だがなんだがしゃねげんともよ、名前なんていうんだ?」
失礼な聞き方をしたばかりに機嫌を損ねられ、返事無し。
タイヤはニヤニヤしながらどこ吹く風。

さっき歩いてきた道を城南橋から見おろしてみる。
山形駅と東大手門を結ぶ最短距離のこの道は、裏通りだというのに人通りが絶えない。

雲の外へ脱出できない湿気と熱気が、
看板にもビルにも路面にもまとわりついている。

「んだがらよぅ。何ば信じればいいのや?何ば見で行けばいいのや?」
「んだんだ。人間のまなぐは二っつしかないんだがら、いっぺんに見せらっでも困る」
あまりに標識が多すぎて、何を指針にして生きていけばいいか分からなくなる。

「なしてエアコンの室外機の前さ、オラだば置ぐんだずね。熱風で蕩げでしまうはぁ」
自転車たちはブツブツ文句を言い合い、ザクロの花は涼しげに空中へ散らばっている。

「オラだも全力で節電してるんだがらぁ」
「オマエだが働いだら節電にならねべ」
節電のため、じっと汗を垂らしながら我慢するエアコン室外機。

「肩身が狭いのよぅ」
「ゴミだがら?それとも両脇に挟まっでっから?」
「両方っだなぁ」
空き缶を詰められたゴミ袋は、暑さで体を膨らます。

他の短冊より一回り大きく、一際目立つ「がんばれ東北!!」
今頑張らないで、いつ頑張るんだという気持ちが伝わってくる。

路地裏にも七夕の短冊以上に綺麗な花がそっと咲いている。
生ぬるい風が通り抜ける細道に、フルリと揺れながら咲くオダマキ。

「オレも願い事ばぶら下げるぅ」
「ほごは豊烈神社の境内だじぇ」
フクロウだがミミズクだが分からないが、三羽の鳥が三方に視線を送る。

「ほれ、あそごあそご。」
「見えねぇ」
「わがんねぇ」
やんだぐなった子供達は、綺麗な飾りより今から何を食べるかで頭がいっぱい。

「かえずだぁ、見つけだぁ」
「んだべぇ綺麗だべぇ」
子供はお母さんからほろげ落ちそうになって指を差す。

「バイバーイ」
なんぼ暑くても母にピタッとまとわりつき、ニッと笑って七夕飾りを後にする女の子。

「木の実町の区割りは厳密だずねぇ」
塀のわずかな厚みからはみ出さないように、窮屈がる町名の看板。

いつも静かな公園内からざわめきが立ち上っている。
なんだと思ったら今年もやっている公園通り商店街の七夕祭り。

「こいな時はしょうがないのよ」
ガムテープを体に貼られ、それでも樹木の幹は寛大だった。

腰の後ろに手を回し、鑑定団の鑑定士のように、しげしげとおもちゃを値踏みする。

大きな帽子と小さな帽子。大きな背中と小さな背中。
二人して一点に集中し、ますます絆を深め合う。

シャリシャリと涼を誘う音が辺りに飛び散る。
我慢できずに家族ずれが集まってくる。

「頭キーンてなるぅ。」
プルッと体を震わせ、それでもカップを離さない。

何を見つけたのか、赤い女の子が小走りに目の前を横切る。
小走りに横切るのが、汗臭いおじさんでなくて良かった。

親水空間でくつろぐ人々を、そして豊満な肉体の彫塑を、湿気を含んだぬるりとした大気が包みこむ。

「んだがらよぅ。違うんだっす。親子ば撮っかど思てもダメなんだっす」
どうしても彫塑にピントが合ってしまうのは、カメラのせいか私の煩悩のせいか。

「噴水ば眺めながらかき氷なて最高っだなねぇ」
どうしても子供達は吸い寄せられるように水辺に寄っていく。

「うわーやばつくて気持ちいいー!」
本流から外れた飛沫をときどき体に受ける度、子供の顔が笑顔に変わる。

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