◆[山形市]門伝 緑まみれ花まみれ(2011平成23年6月4日撮影)


太陽が山際に近づく頃、今日一日を惜しむように葱坊主が発光している。
門伝撮影の前日、沼木の畑にて。

「今年のサクランボは大豊作なんだがらな。わがたが?犬ころ」
「しゃねワン。ほだなより餌けろワン」

「しゃねこめおがる訳んねのよ。
丁寧に手入れすっからおがんのよ」

晴れているのか曇っているのか判然としない空。
それでも漏れこぼれる日差しを受けて花びらが大きく開く。

「なんだがこちょびたいんだげんとなんだべなぁ」
草花のとりとめもない会話にくすぐられながら、自転車はムズムズする車輪を止めているのが難しい。

風が止めば水面に現れる家並み。
鏡のような水田が山形盆地中に広がっている。

「犬の体に比べてフンがおっきぐないが?」
「この辺の犬はよく食うがらんねがよ」

いろんな書体といろんな色で注意を喚起している看板。
違反しないように、冷めた目が道路を静かに見つめている。

ちょっと歩いただけで背中には汗でシャツが張り付いている。
木陰に佇み、目を細めながら富神山を眺める。

「ケーズ電気で何が買ってきたんだがっす」
「チラシなのなんでもいいのっだな」
バスケットのチラシはくしゃくしゃになっても原色を発している。

「電信柱の色さ負けでらんねべぇ」
黄色い花びらを風になびかせて、猛然とアピールする。

「人が歩ぐどごさまではみだしてきてぇ、邪魔くさいったら」
「オラだがどだい元気で力ば持て余してっか分がっべ」
六月の草花の気力に敵うものなし。

トタン板はうめき声を上げるように地面にドウと倒れ込み、
可憐な花は人ごとのようにツンとすまして咲いている。

門伝のどこからでも見える富神山。
富神山は門伝のどこにいても人々を見守っている。

「今日は誰も来ねねぇ」
「二人ば誰も邪魔すねくていいべず」
二人の間に沈黙が訪れる。
ふと目を離した隙に傘はまた数ミリ近づいたようだ。

「うわぁ、わさわさ咲いっだぁ」
カメラを構えると、ワッと押し寄せてくるヤマボウシの花。

近頃はゴーヤや朝顔で緑のカーテンなんていってるけど、
門伝の緑のカーテンは歴史と年季が違う。

「様になてるんねがっす」
「この格好がぁ?」
麦わら帽子が初夏の畑にぴったりとはまっている。

「車なのオラだのごどなの気にすねで吹っ飛ばして行ぐんだぁ」
走り去った車へブーイングするように体をゆさゆさくねらせる。

「相当儲がてっべ。んだて小判が鈴なりだどれ」
「ほだごどないっす。中の果実が弾けっど薄い膜しか残らねんだじゃあ」
ペチン、カランと音を立てるようにしてルナリアは訥々と身の上を語る。

「随分と賑やかに咲いっだねっす。何か楽しいごどでもあっけがっす」
知らんぷりしてシランの花が、ただ六月の光を浴びている。

「昔は門伝さ映画館もあるんだっけじぇ」
母の言葉を思い出し、このあたり一帯の要衝の地だったことに思いを馳せる風格ある通り。

言わずと知れた門伝四辻。
いや、知らない人は知らないけれど、旅篭町四辻みたいにこの辺の中心地だった。

「暑っづくて今日は外さ出ね方がいいみだいだなぁ」
往時を偲ばせる建物の暗がりから、スイッとおじさんの声が光の中へ飛び出してくる。

「すっぱげっだ板戸の前さ生まっでかわいそうだなぁ」
「ほだなごどな〜い。この板戸さんが雨風ば防いでけるんだがら」
姿も気持ちも可憐な花びらがパチクリと目を見開いて見上げている。

富神山・白鷹方面へ車がビュイッと走り去る。
温度計は30度近くを指し、ポスターは夏だァ!と声を張り上げている。

自分の乾いた足音だけが付いてくる。
表通りの音を吸い取ってしまう緑の生け垣とコデマリの咲く小径。

「オマエは便所草が?んだて建物の隅っこさ咲いっだどれ」
「人の挑発には乗らねごどにしてるんだ」
そっぽ向く草花を、2つのガスボンベが寄り添って見守っている。

「これなんだべぇ?」
「ほだななんだていいがら、早く家さ帰っべはぁ。暑くて分がらね」
子供の問いに答えるのも面倒くさくなるほど今日は暑かった。

「ほっだなベロラベロラて育て、自分の体も支えらんねのがぁ」
「太陽の日差しが重だくてよう。支えんのが大変なのよ」
広げすぎた花びらを持て余し、立ち直ろうともがきながら風にはためく。

「ありゃ、今日は学校が。一番暑いとぎ下校なてご苦労様だなぁ」
子供達は学校から解放された喜びのほうが、暑い道を歩く苦痛を上回る。

「季節はちぇっと早いげんと、ポンポン花火ば打ち上げっだみだいだどれ」
「日焼けなの気にすねでこいに背伸びしてみろぅ。十歳ぐらい若返る気になっから」
背骨の曲がった腰痛持ちには羨ましい姿勢。

「今日のおかずはまだワラビのおひたしなんだべがぁ」
「気ぃ付けで渡れよぅ。渡る通りは鬼みだいなおっかない車ばりだがらなぁ」
下校の子供達は遠く山形市街を望む横断歩道を渡りながら、腹を空かして昼食のことばかりが頭の中をグルグル回る。

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