◆[山形市]馬見ヶ崎・千歳一丁目 20度超え春の声(2011平成23年4月15日撮影)


黄砂なのか杉花粉なのかわからない粉っぽいものが漂い、竜山が霞んで見える。

空から重たく垂れ下がり、存在感を示すハクモクレン。

「ほりゃ見で見ろぅ、木蓮咲いっだじゃあ」
「桜は?」
「はえずぁ、いまと先っだなぁ」

「土だら売っで売っでしょうがないのよう。
入荷してすぐ売れんま」
「皆、自給自足ば考えでるんだべが」
「ほだごどはないべげんと、土触てっど幸せだていう人はうがいな」

「なえだずこの車の列はぁ。ガソリン無くなっど途端に元気なぐなっくせぇ」
ハクモクレンは騒音をものともせず、空からグイッと枝を伸ばす。

「地震起ぎでがら自転車が売れで売れでしゃますさんなねんだど」
「やっぱりアクセルよりペダルっだず」
春風に押されながら、自転車の二人がゆったりと遠ざかる。

「昔はコンビニなの無いっけべしたぁ」
「しょんべ垂れっだいどぎ、みんな何しったんだっけべねぇ」
次々出入りする車を眺め、ハクモクレンは他人事のように噂する。

「橋の上は風あっげんとさっぱり寒ぐないねはぁ」
「今日なの20度超えるんねがよ」
人々は20度を超えると途端に行動半径が広がる。

河川敷の草はまだ茶色い。
でもこの暖かさで一気に緑色へ塗り替えられそうだ。

「この頃は店の看板が横文字ばりで、何屋さんだが分からねま」
「看板が縦になてっどいいていう問題でもないっだずねぇ」
おじさんは春風になぶられながら万才橋を下り降りて、商店街に向かう。

「早ぐあべは、春さ乗り遅れるはぁ」
嬌声が馬見ヶ崎川にこぼれ落ち、水面を流れてゆく。

「ほっちこっちで花咲いでくっど、
過当競争でオラだの存在価値が下がてくるんねがぁ」
町が花で溢れるような過当競争は歓迎したい。

「大通りから旧道さ入っど、急に静かになんま」
排気音が遠ざかり、静かな通りでは春の声がハミングしている。

ピカピカに磨かれたバイクに日差しがぶつかって、弾けるように散乱する。
水仙や梅はちょっと距離を置いて眩しげに眺めている。

「何煮っっだんだべねぇ」
「芋煮には早いっだずねぇ」
水仙は恐る恐るナベを見つめる。

鋭角的に真上から日差しが進入し、
影は壁面で真下に伸びる。

「この頃運動不足で体がなまたはぁ」
「ちぇっと捻ってけねが。思いっきり冬の鬱憤ば出すだいがら」
久しぶりに近づいてきたおやじに声を掛ける刈田神社の蛇口。

「水の流れる音ていいもんだべぇ」
「確かに耳に心地いいずねぇ」
「ほだないいがら早ぐオラださ水掛けでけろ」
植木鉢は喉がカラカラ。

あんな狭いブロックの穴からでも芽を出し、
青い葉を拡げ、鮮やかな黄色い花びらを開く水仙のたくましさ。

「オレが一滴落とすど、水面の蛇口さスポッて入ていぐんだべが」
「んねっだな、水面の蛇口からも同時に水滴が上さ向がて登てって、水面でぶつかんのっだな」
誰もいない刈田神社で上着を脱ぎながら、つまらない事をじっくり考えてみる。

生まれたての葉っぱは、こわごわと大気に触れながら発光している。

「このまま暖かぐなっどいいんだげんとねぇ」
「三寒四温だがらなぁ」
瑞々しい青い花びらは、今日の薄ぼんやりした空を見上げながらしばし語らう。

「なんでも用心、いつでも用心」
「んだがらて何も看板の影で携帯見ねくても・・・」
中年親爺は女子高生の携帯の内容が気になってしょうがない。

土を掘り返す軽快な音が心地よく耳に響いてくる。
花びらは呼応するように微かに揺れている。

風に飛ばされないように止められた洗濯物は、
誇らしげに咲く花びらに目が釘付けとなり、干されていることを忘れてしまう。

「半袖で馬見ヶ崎の土手ば走るいなて最高〜!」
そんな声が聞こえてきそうな麗らかな日和。

「一冬越したら、このざまだもの」
バックネットの変わり果てた姿に遠慮して、スイッと春風がすり抜ける。

「やっと春だニャー」
暖まった柔らかい草を踏みしめて、白黒ネコはどこで寝そべるか辺りを見回す。

「先っぽばツンツンしてけっだぐなるなぁ」
土筆の頭を人差し指でそっと撫でてみる。あ〜、春に触れた瞬間。

無粋なトタンと言う無かれ。
瞬時に太陽の熱を吸い取って、小さな芽を膨らませようとする枝に熱いエールを送っている。

「やっぱり上着ば脱がせるのは風んねくて太陽なんだずねぇ」
「んでもオラだば散らすのは風だじぇ」
花びらは通り過ぎる人を眺めながら、風と太陽談義に花を咲かせる。

てらてらと水面で太陽の断片が踊っている。
馬見ヶ崎の雪融け水は青みがかって透き通り、水底の石ころまでクッキリ見える。

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