◆[山形市]鳥居ヶ丘・旭が丘 それでも春は来る(2011平成23年4月2日撮影)


竜山はまだ真っ白だけど、街中の雪は消え、
ガソリン騒動を終えた車が柔らかい日差しを浴びながら、アスファルトを滑るように走っていく。

「自転車もたまにはいいもんだずねぇ。街中の景色が違うぐ見えでくんもの」
「よそ見してねで早ぐ行ぐびゃあ」
「ちぇっと待ってろず。お父さんば置いで行ぐ気がぁ」
やや強い風が吹いているけれど、風には春の柔らかさが混じっている。

「あれぇ?こご前は何の店だっけぇ」
ちょっと見ない間に街並みはコロコロ変わっていく。

「人は歩ぐのが基本だず」
確かにガソリン騒動以来、急激に歩く人と自転車が増えた。

「あの揺れでよぐ倒れねで、踏ん張てけだなぁ」
何回も経験したであろう地震に耐えて今日に至る石鳥居。

あの大揺れにぐらつきもせず、春が来るのを確信して真っ直ぐ空を目指して伸びている。

風に背中を押されながら、竜山川の堤防をゆっくり歩く。
まだ樹木の葉っぱは見えないけれど、地面には緑色の絨毯が少しずつ広がっている。

「毎年のごどだげんともよ、春は必ず来んのっだず」
ヒメオドリコソウは土手から我先に顔を出して薄日を浴びる。

「こごさはまだ春が来ねのが?」
「ほだい気もめるごどないっだな。よっく見っど緑色が少し見えっべ」
茶色い枯れ草の間から、新しい葉が恥ずかしげに顔を出し、タイヤはアパーッと口を開ける昼時。

「枯れ枝の中さ隠っでいる場合んねべぇ山形県は」
「ほだなごど分がてる」
山形県は枯れ枝を振り払い、堅い意志を見せはじめる。

「今年はどだな草花が植えられるんだべなぁ」
日差しを眩しげに眺めながら、
植木鉢は口を大きく開けその時を待つ。

被さっていた冷たい雪が消え去った。
いつの間にか車輪の下から雑草が湧きだしている。
このままだと自転車は緑に覆われ隠れてしまう。
捨てられた自転車は焦りを隠せないが、身動きもままならない。

「ほだい引ぱんなずぅ、くたびれっから」
見晴らしの良い竜山川の土手を歩くのが楽しくてしょうがない犬ころ。

空にポッポッポッとピンクの花びらが開く。
色を失っていた山形にもようやく春の絵の具が色を付け始める。

河川改修の重機がうなり声を上げる。
春風を追いかけて少年が竜山川の土手を軽やかに走り去る。

「やんだったらホースがからまてよぅ」
「オマエさなづいっだんだべよ」
しがみつかれて辟易しながらも、
プラケースはホースに行き場が無いことも知っている。

「なんだがごしゃがっで立ってるみだいだぁ」
「しかもバケツんねくて土嚢だじぇ」
「いづまで立ってらんなねんだべねぇ?」
「あの山の雪が消える頃までがぁ」

茶色く乾いた枝が覆い被さってくる。
でも、枝の中では今か今かと待ち構える春の養分が、ドクンドクンと脈打っているはず。

人と川が共生するために、ぐにゃぐにゃうねっていた細い流れが真っ直ぐに幅広く矯正される。

青白い山並みを見つめる水仙は、やや冷たい風に身を任せて鮮やかな花びらを震わせる。

「今日は土曜日だしよぅ。仕事終わたらなにすっべなぁ」
携帯を操る指がせわしなく動く。

「どさ行ぐったて、昔は歩ぐが自転車なんだっけがら」
「昔と今は違うべず」
春の空気を感じると、一気に増えだす自転車たち。

「なしてオラださ違反シール貼られるんだ?」
「しゃねっだな人間が決めだごどだも」
「オラだが何したていうのや?」
「・・・」
悔しくてもただぶら下がっているしかないゴミ捨て場の傘。

「何ほだんどごさ隠っで、弱かすだもなぁ」
「んだてあど雪降らねがや?」
バイクは恐る恐るシートの影から外を見る。

作業しているおじさんへ邪魔するように声を掛ける。
「こいずなんだっす?」
「タラの芽食たごどないがよ?桜が満開の頃がいいのよぅ」
思わず天ぷらを思い浮かべ、腹がグーッと鳴る。

「買うもの買ったし、寄り道すねで帰っべはぁ」
「んだずねぇガソリン無駄にさんねま」
先週までのガソリンスタンドへの長蛇の行列はなんだったんだべ。

「なして泣いっだのや?」
「んだてお母さんいねぐなたんだっけも」
「おどなしく待ってろてゆたっけべしたぁ」
安堵した母親の背中にも子供の背中にも日差しが柔らかく降り注ぐ。

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