◆[山形市]二位田 春への淡い期待(2011平成23年2月19日撮影)


「ぬおおお〜、絶対どげねぞぅ」
雪の固まりは本音をむき出しにして、居座ろうとする。
「毎年のごどだがらしょうがねべぇ」
背後の色褪せた看板も、自販機も諦め気味。

「もっくらかっくら飛び出したぁ♪」
「空き缶空き瓶飛び出したぁ♪」
誰にも聞こえない声で歌いながら袋から飛び出し、
捨てられた境遇を笑い飛ばす。

「決またがぁ?」
「何が?」
「進路よぅ」
「今はバネば縮めで、ジャンプする日ば待つしかないべず」

「やっと雪も静まり、自転車ば漕ぐい季節が近づいだなぁ」
あちこちに居座る固まった雪を眺めながら、下り坂の道を滑って行く。

「ふちゅぶしてけっかぁ」
屋根の雪は飴のようにしなりながら、看板を狙う。

「オマエが突っ込んで来たんだべ」
「オマエが乗っかってきたんだべ」
お互い譲らずにらみ合い、
どっちが先か、まさにコロンブスの卵論争。

「配達で忙しくてわがらねのよ」
雪原に排気ガスを残して菅沢方面に走り去る。

「ほんてんもう少しだがら、そのままじっと耐えでけろ」
雪に埋もれた畑も村も、あと一ヶ月もすれば土が現れ木々の芽が吹き出す。

「か細いツララだずねぇ」
「そろそろ帰る準備しったのっだなぁ」
溶け落ちた後に須川から最上川を経て日本海に注ぐ長旅で頭がいっぱい。

「昔は山しか見えねっけのに、今はマンションなの見えるんだじゃあ」
細い路地の向こうに近代的なマンションが見える、昔のまんまの二位田。

「オマエうがいちゃんとしったべねぇ」
「んだんだ、伝染されっどわれがらなぁ」
雪を頭へハスに被り、みんなで大口開けてうがいの練習。

白い漆喰は剥がれ落ち、
白い雪もアスファルトから剥がされる。
それでもこんな路地の光景が、心に染みるのは何故だろう。

「ほだいして見上げでっど、頭さ落ちでくっからな」
幾層にも積み上げられた雪がズリズリと迫ってくる。

日陰の葉っぱは、鼻水を凍らせぶら下げる。

日向のネコヤナギは、春を待ちきれず膨らみ始める。

「泣いっだのが?」
「泣いでなのいね・・・」
自転車は納屋の裏で、顔を済むけ気丈に呟く。

「前明石さ行ぐのは下り坂で楽なのよぅ」
「んでも帰りは逆に上り坂で大変だねっす」
「人生と同じっだず。下り坂があっど必ず上り坂もあんのよ」

電柱と競うように空へ伸び、カサカサ音を立てながら寒風に耐えている。

喜んで良いのか悲しむべきなのか、
段ボールを見てすぐに山形だと分かる自分は生粋の山形人。

「そろそろだべが?」
「まだちぇっと早いがも」
ツンツンと顔を出し、外の様子を窺っている。

「竜山も千歳山も見えっどごで、オラだは育ったのよ」
「ほいずぁさぞ旨いべなぁ」
ネギは間近に現れた人間を見つけ、溜まっていた気持ちをダラダラとしゃべり出す。

「体が固まてしまうずぁあ」
カチカチに固まった筋肉を早くほぐしたい稲杭たち。

「春休みていづからだっけぇ?」
「まだちぇっと早いんねが」
子供たちの掌やケッツの温もりが忘れられない遊具たち。

「オレはこのまま埋もれる訳にはいがねんだぁ〜!」
「無茶すんなよ」
古びたタイヤは、まだまだ走れると雪原で闘志をむき出す。

「誰がむぐしてったのんねが?」
「ブランコさ乗ってで気持ち良いくて、思わず漏れだんだべなぁ」
ブランコに乗った雪は、気持ちよく溶け落ちて枯れ葉と遊ぶ。

溶けた雪は小さなさざ波を立てて、
集まってきた枯れ葉や枯れ枝に別れを告げる時を待っている。

空に瘤を作り、毛細血管のような枝を張り巡らせる。
その存在感は二位田の人々を圧倒する。

「冬もおわりだべはぁ」
ズルむけの顔をさらして、白菜は去り際を見極める。

「おお、良ぐ生ぎっだっけなあ」
「オマエも良ぐ耐えだなぁ」
雪の中からザンバラ髪の頭を出し、お互いの無事を手を携えて喜び合う大根。

右も左も二位田の集落。右も左も昭和の名残が濃厚。

雪のせいで青ざめた俳優は、それでもプロ根性で笑顔を見せる。
力尽きそうなポスターは、助けてくれと懇願するように、ガラスにやっとの思いでへばりつく。

コマネズミのように村を走り回る郵便配達のお兄さん。
雪が降ろうが日差しが照りつけようが、それは変わらない。
どんなときでもとにかく継続する事が、生活の基本なんだな。
春への淡い期待を抱きながら、私もホームページをこれからも継続すると心に誓う。

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