◆[山形市]馬見ヶ崎河原・泉町 陰鬱と憂鬱の狭間(2011平成23年2月12日撮影)


「なんだが気が進まねなぁ。んだてこだな天気なんだじぇ」
ハンドルを抱えるようにしてフロントガラスを見つめる。
一粒一粒の玉コロの中にも小さな世界があるようだ。

「今は誰も見でけねげんともよぅ、あど半年もすねうぢに皆美すい〜てゆてけるんだぁ」
今は我慢の時と、綿帽子を被りながら体を硬くするアジサイたち。

氷を削る尖った音が枝先まで届いてくる。
スケーターは澱んで動かない寒気を切り裂いて疾走する。

「なんだが冷やらってすんのよぅ」
「穴空いっだんだべがぁ。んだてまだ買ってけだばっかりだじぇ」
「気にすねで早ぐいぐべはぁ。この穴埋めに、んまいものごっつぉうしてもらわんなねなぁ」

「動ぐがら止まらんなねんであって、止まてっごんたら止まれて言われる必要もないっだず」
「何ゆだいのや?」
「一方的に何さもかにさも止まれてゆ〜なてごどよぅ」
ブツブツ呟く先を山交バスが走り去る。

千歳橋の上から河原を見下ろす。
今はじっと耐えるんだと、空も家並みも雪の下の土も教えているようだ。

みんなそれぞれ生き方も違い、軌跡も違う。
タイヤは棒状の足跡、犬はチョコマカと小さな足跡。
真っ直ぐなようで真っ直ぐでない人々の足跡。

「米軍さ竹槍で向がうつもりが?」
圧倒的な戦力の差でも、空に一矢報いたいワイパー。

「退職すっどほんてんいいじぇえ。生まれ変わったみだいだぁ」
長年の仕事から解放され、おじさんは晴れ晴れとした顔を馬見ヶ崎河原に向ける。

「毎日、雨の日も雪の日も?」
「んだぁ。今日はまだ6キロしか歩いでいねなぁ」
眩しい雪原を背に、携帯の歩数計を見ながら誇らしげに語る。

「雪ばりしがみついできてよぅ。迷惑だったら」
屑籠がぼやく。
「オレさなの雪もふっつがねぇ」
蛇口は冷たい吐息を河原にポトリと落とす。

「なんだて、みんなからボッコボコにさっだのが?」
「わがらねまなぁ、おっきな雪の灯籠だべした」
東小の子供達が残した雪の灯籠は、昨晩の雪で一段と太っている。

「オマエは灯籠んねべし、いったい何してるんだ?」
「みんなで固まて、寒さば凌いっだのっだず」
「中ばあざぐど、何が出できそうだなぁ」

ひと風吹いて、フェンスに絡みついた雪片が力なく落ちてゆく。

やけに立派に出来上がった東小。
コンクリートの壁は無機質な表情で、雪が舞うことにも興味を示さない。

「河原の風ば年中受げでっど、こだい茶色ぐなんのよぅ」
葉っぱの声は、遠くに見える二口橋へ飛んでった。

「桜が咲くまであど二ヶ月がぁ」
「雑紙出す日まであど一週間かぁ」
指折り数え、二人は並ぶ。

「重だぐなたなぁ。寒ぐないべ?」
温度計では測れない温もりが、赤い傘とともにゆっくり遠ざかる。

「後輪ば隠すど、前輪が出るしよぉ」
寒さに耐え、前輪と後輪でシートの引っ張り合いが続く。

「オラだは花の引き立て役だがら、冬はこんでいいのよ」
雪を被ってじっと寄り添う植木鉢。

「新旧の校舎が、お互いにそっぽ向いっだみだいだげんと」
「ほだなごどないっだなぁ。まだちぇっと馴染んでいねげんとな」
新校舎は未来を思い上を向き、旧校舎は昔を思い遠くを見ている。

「駐車場て書いであっげんと、どさ止めっどいいいのや?」
「雪ば掘り返すど、線が見えっから」
「んだら掘り返すあいだ、どさ止めっどいいのや?」
「暖かぐなて雪が溶げっど線が見えっから」

「もぐるなて三回もゆてっげんと、子供だはモグラんねんだじぇ」
会社のしがらみに埋没した身には、
もぐって終わるなと、発破を掛けられているようだ。

グレーの空から太陽がうっすらと顔を出す。
空の薄いベールを引き剥がし、カッと照りつける日差しを浴びてみたいと思うけど、
そんな気持ちは、まだ心の中に仕舞っておこう。

「大根が階段さ寝そべったのんねよね」
「誰も学校の階段さ大根ば干さねべぇ」

空からシュートを放つのは粉雪だけだった。

屑籠の中で、小動物がこごまって震えていると思ったら雪だった。

山形は県内でも本当に雪の少ない地域。
このまま道路が見える状態で冬が退散して欲しい。
「雪も人生も二転三転すっから、まだわがらねもなぁ」

「暖房掛げでもらわねど寒くてわがらねぇ」
「ほだごどしったらガソリン代ばりかがてしょうないっだず」
車内のぬいぐるみは、ご主人様が乗っているときだけ暖かい。

「あんまり寒くて動ぐのもやんだぐなる」
「いまから就職する人なの、氷河期だてゆうのにあっちゃこっちゃ頭下げで活動さんなねだじぇ」
粉雪は静かに静かに蛇口へ降り積もる。

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