◆[山形市]十日町・本町 初市日和(2011平成23年1月10日撮影)
朝起きて寝ぼけ眼で外を見た。 木の枝に湿った雪がべったりと張り付き、朝日が枝の隙間に入り込んでいる。 口をぬぐったら、真っ白い歯磨き粉が掌に付いてきた。 |
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「ありゃあ、隣のアパートから朝日が昇てくっどれ」 夜中雪の降った翌日は、初市のために晴れ上がってくれた。 |
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「空気が山形人の心みだいに澄んでっからなんだべずねぇ」 初飴にまぶした粉のような雪を被り、白鷹の連山がクッキリと浮かんでいる。 |
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「手さたがったのなにや?」 「わがんねげんと十日町の店で買ったんだっけ」 「ほんてん?」 「んね支店」 雪のマフラーを纏いながらの会話は、日差しが寒風の中へさらってゆく。 |
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フェンスで凍り付いた雪は、光を体内にため込んでポタポタと溶けてゆく。 |
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陽の当たったフェンスのマス目から、お先にと雪がポロポロ抜け落ちる。 |
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「ほだい右さ行げ行げて言わっでもよぅ」 車は空車でも、積み上げられた雪は行き場がない。 |
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「うっ、冷たいぃ」 電線からバサラッと落ちてきた雪が首筋に当たる。 三の丸跡地の樹木の枝も、時折身震いして雪を払い落としている。 |
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「鼻水垂れるぅ」 「あだい垂れで重症だな」 ガス灯は処置無しだとぼんぼりを冷たい目で見つめる。 |
「なんだが肩の辺りが凝りに凝ってよぅ」 「温湿布すねどだめだべな」 春まで肩こりが治らない歌懸稲荷神社の柄杓。 |
「ほだい髪振り乱して、なに急いっだのや?」 「初飴早ぐ舐めっだいて頼まっだのよぅ」 柱の影はゆったりとマイペースで時を刻む。 |
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稲荷角から先は通行止め。 「迂回する車でスズラン街あだりは渋滞してんのんねべが」 |
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「イルミネーションでグルグル巻きにさっだ枝より、雪ふっついっだ枝の方がなんぼ綺麗だが」 夜空に映えるイルミネーション。青い空に映える雪の枝。 |
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「びじゃびじゃてやんだったらぁ」 「びじゃびじゃがやんだごんたら初市さなの来らんねっだなぁ」 |
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昨日の雪で、プロレスラー達も青ざめる。 |
「バーが上昇する前に、オラだの身長が伸びでいぐずぅ」 とんがり帽子を被る駐車場の黄色い棒。 |
「ありがだいったら、ありがだいったら」 深々と頭を下げ、全身で感謝を表すことができるおばあちゃん。 |
「下向いでいねで、ゆだいごどゆてみろ」 「初飴舐めっだい」 少女は目も会わせずに、やっとの思いで口にする。 |
「なんぼするもんだぁ?」 「なるほどなぁ」 価格に納得したのかしないのかわからないが、頷きながらおじさんは立ち去る。 |
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「かえずよ、かえず欲しいっけのよ」 寒さで赤くなった掌が、離すものかとカブをガッシと掴む。 |
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黄色い信号が注意深く山形人たちを眺めている初市通り。 |
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ゆらゆら揺れながら、人混みの頭の上を団子木が進んでゆく。 |
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冷たい空気の中で、ポロンポロンと音楽を奏でるように団子木がスイングする。 |
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「やっぱり何はなくてもどんどん焼きだずねぇ」 「こいずさえ食てっど幸せだもぅ」 自然に笑顔がこぼれ、ソースが垂れる。 |
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「ほだいガツガツて食うなぁ」 「ガツガツなの食てねじぇえ」 すぐ近くからガツガツと凍った雪を掻く音が聞こえてくる。 |
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電線も樹木の枝も、みんな重そうに垂れている。 |
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「かえずが?」 「ほっちの方がいいんねがよ」 目移りばかりして時の経つのを忘れてしまう。 |
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初市のざわめきが溢れてくる脇道。 ガラスは雪景色を黙って映しこみ、仕事は黙々と繰り返される。 |
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冷たいガラスの素肌は、初市の人通りを飽きることなく左右対称に映し続ける。 |
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「それっぱっちょの雪んねくて、もっといっぱい持だんなねっだなぁ」 「んだてスコップがかわいそうだべず」 そろそろ正月気分も終わり、山形人は雪かきに専念しなければならない。 |
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「おっとぉ、ひころぶっきゃあ」 「何が考えでっからっだなぁ」 「別に悪れごどは考えでいねんだげんとなぁ」 氷は人の善悪に関係なく、足をすくってしまうのを喜びとしている。 |
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一小グランドのネットに去年の枯れ草が絡みつき、今年の雪と戯れる。 |
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「道路がツルンコツルンコて、歩き辛いったらないずねぇ」 いつもと違う足の筋肉を使わざる終えない雪の道。 |
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「誰も歩いでいね雪の上ば歩ぐのて気持ぢいい」 「ゴム長の中さ雪入ったどれはぁ」 雪の入ったゴム長の中の足は冷たいけれど、しっかり握るお母さんの手は温かい。 |