[山形市]上町・五日町・双葉公園 桜チルチル花ミチル(2024令和6年4月20日撮影)

「みんな集まてまにしった?」
「花見の後のゴミ見っだなぁ」
「ほだごどゆて脇目で八重桜ばみっだどれ」
なにも花を見たくなるのは人間だけじゃない。

上町公園の八重桜は花びら塊を重たそうに垂れ、
誰も遊びに来ないブランコに今年の春の具合はどうかと囁いている。

あんんまり天気が良く暖かいもんで、
チューリップは身の危険を顧みず、大っぴらに花びらを広げてしまう。

「おもしゃいポスターだずねぇ」
にやにやしながらカメラを構える親爺の前を、目を避けて通る三中生。
「後輩だべな、ほだなごどされっど悲しぐなっべな」

「やんばいな錆具合だずねぇ」
「ほいずば言い換えっど、やんばな昭和具合ってがぁ」

「この通りだけは昔のまんまだずねぇ」
「あのポストも昔のまんまだま」
独り言(ご)ちていると、危ないったらみだいな顔をして、
否、顔は見えなかったがおじさんが目の前をフュイっと走り去る。

「まつぽいったらぁ」
「松ぼっくり?」
「まぶしいいてゆったのよ、あの若々しさが」
辺りに発散される花たちの煌きは涎が垂れるほど羨ましいとフェンスへ寄りかかる。

上町の通りから外れ、勢至堂内へ入る。
空気が一変し、春と初夏が入り混じった、恥ずかしいようなくすぐったいような、
期待に胸を膨らませたくなるような空気がそこには満ちていた。

「早ぐ誰が座りに来っどいいねぇ」
「んだず、こちとらは腕が鳴んのよぅ。冬の間も体ば鍛えっだけしなれ」
ブランコは子供の尻が恋しくて恋しくてしょうがない。

勢至堂の裏側へ周れば、空へブワッと若葉を広げている辛夷の木。

「ありがたい、ありがたい。この光りとそよ風がありがたい」
若葉は掌を少しずつ広げて、感謝を空へ示している。

「ありがたい、ありがたい。この光りと乾燥した空気がありがたい」
洗濯物は窓の外へ飛び出して、感謝の気持でハタハタと舞う。

勢至堂からすぐのところに五日町公園がある。
やっぱりこっちでも八重桜が花びらを重たげにして空に伸びている。
その細枝では重たい花びらを支えるのがさぞきつかろう。

「なんだがしゃねこめ自転車がすこだま並んでいるんだげんと?」
「山形コミュニティサイクルてしゃねのが?」
サドルをツンと伸ばして、蔑んだように自転車がいってくる。
「ほだごどゆたて誰も利用してねどれ。人も来ねしよう」
「はえずぁゆてだめ。世間ばしゃねお役所が決めだごどなんだがら」
自転車は項垂れてそっと耳打ちしてきた。

そろそろ目的地の双葉公園が近づいてきた。
「うん?黒いものが揺れっだなぁ」
暗がりの中で呻いているのは黒いTシャツ。
針金のハンガーから抜け出して、真っ赤な花のところへ行きたがっている。

「このトタンは、俺が中学生のころからあんのんねが?」
「さすがにその間には何回が葺き替えでるんねがい」
確かに私が中学生のころといえば、もう半世紀以上前のこと。

「おお、双葉公園だぁ!あの岡本太郎風な滑り台が象徴なんだがら!」
「ちゅうがよぅ、ど真ん中の欅の木が勢い良すぎて、滑り台が主人公になてねんだげんと」

県民会館もすぐ近く。
駅の西側では一番くつろげる公園かも知れない。
「おらぁ昭和世代だがらいうげんとよ、双葉公園の向こうは高っがい壁で隠さっだ工場だっけがらねぇ」
「もちろん県民会館の辺りもんだっだなぁ。
なにしろ工場からの臭っさい臭いで、三中の頃は勉強どごろでないっけ」
「んだがら勉強でぎねんだっけべなぁ」(※個人の勝手な感想で、できる人はちゃんと出来ました。)
「おじさん?昔のごどばりいうど嫌われっば」
滑り台の上に上り、思わず昭和に頭の中は還っていた。

「不思議な形だずねぇ?」
チューリップは小首をかしげ、宇宙船のような、ヒトデのような、
なんとも得体のしれない形の滑り台を虚ろに眺める。

「随分艶々した肌だごどぉ」
「うふふ、光ど春風が磨いでけだがらよぅ」
空の青と白い雲にチューリップの赤はどこまでも映えて、
まるでおフランスざます。みだいだ。

「お前なの仲間外れだがら」
草花たちは口を揃えてボールに言い放つ。
「んだて赤色も緑色も入ったじぇ」
ボールは反駁するものの、自分の擦り切れた体を恨みつつ、ジイっと瑞々しい草花を見続ける。

その容姿はとてもスマートとはいえない。
タコの足のような触手は地面にヌーっと伸びて体を支えている。
それでも地域の子供たちに愛され、私が中学生の頃からここに居た。
なんとも不思議な存在だ。

太陽は滑り台の体内を照らし、あばら骨の影を伸ばしている。

滑り台の下へもぐりこむ。
伸ばした足が四方八方へ伸び、地面をガシッと掴んでいる様が力強い。

やや離れて八重桜の並木に逃げ込み、
その様を振り返る。
やはり何度見ても不可解極まりない形。
でも、愛されて半世紀。

板壁に映る影。
ちょっとお洒落な小窓。
それだけで異世界へ誘われているような感覚に陥る。

「せっかぐ花が真っ白に咲いで満開なんだがらよぅ」
そうはいっても子供たちはゲームに夢中。
親に勉強すろと叱られず、静かで暖かく居心地のいい場所といえば双葉公園なんだろうな。

「あたしの方が高ぐ上がっから」
「あたしだも負げねがら」
髪の毛を青空に散らせながら、子供たちはブランコに夢中。

「押すなよー、絶対押すなよー」
「前さひっくりがえていぐがらよぅ」
青い手摺さぎっつぐたづぐ子供たち。
友情もぎっつぐ結べよぅ。
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