[山形市]小姓町・十日町・紅の蔵 雪なし快晴雛日和(2024令和6年2月17日撮影)

「なえだてこの季節には珍しぐ快晴だもなれぇ」
赤い車のボンネットにベッタリと張り付いた駐車場の看板がまぶしいくらいだ。

郊外へ行くより街のど真ん中ほど昭和が残っている。
こんな床屋さんで世間話をしながら休みの午後を過ごしたいもんだ。

「傘なのなにしたらいいが分がんねくて、窓さくっついっだどりゃあ」
「塵取りもバケツもだぁ」
「冬の日差しが気持ちいいんだべなぁ」
「皆眠かげしったのんねがよ」

「お祭りの雪洞でもあんまいしなぁ」
電線に連なる鳥よけの輪っかが日差しに煌いて浮き上がる。

正統派山形市の街並みは十日町から小姓町・諏訪町にかけて広がっている。
もちろん雁戸山が見えるのが絶対条件だ。

「きれいな町にしましょう」とはなんだろう?
ゴミがないのは心地いいけれど、ツンと澄ました近代的で清潔な街並みよりも、
古びた雑然さの方が心地良さでは上なんだぞぉ。

東前稲荷神社に拝礼して、ふと周りを見回す。
白壁では強烈な光と影がせめぎ合っていた。

境内にあるつくばいを覗き込んでみた。
そこには青空が広がり、まだ葉を付けぬ枝が揺れている。

「ぷっくぷくだどれはあ」
椿の蕾はまだまだ固そうだけれど、
産毛が周りの寒気の緩みを感じ取っているようだ。

「こだえらんねずぅ。今風にいうとヤバイてなんのが?この心の高揚感ば」
「こだいしぇえ街並みが街のど真ん中さあるんだがらねぇ」
青空はどこまで透き通り、気持ちも浄化されて昭和へ戻っていくようだ。

蔵は現代の自販機が前に立っていても許容する寛容な心を持っている。
尚且つ、記念写真へ収まるように一緒に立ってこちらを見ている。

「顔ば上げで歩くべ。春みだいだじゃあ」
床屋さんのサインポールが、俯くおじさんを見て声を掛けたがっているようだ。

「ありゃぽっかり隙間が空いで雁戸山まで見えっどりゃあ」
小姓町ロマンロードの東側にあった古びた建物は消え、
そこに残ったのは銀杏の木だけが手持ち無沙汰に日差しを受けてめている。

ロマンロードといえば赤いアンティークな電話ボックス。
使ったことはないけれど、こんなにおしゃれなボックスは他に見かけない。
中を覗けば、その先に郵便局の赤い軽ワンボックスから荷物を取り出すおじさんが見えた。

「夜の輝きが自慢の看板だも、昼間はまぶしくてわがらねべなぁ」
眠たい時間に太陽はビガビガと光りを当てこすり、
看板たちは目がシカシカて眠るに眠れない。

おばさんの足取りも軽やかだ。
「んだて、この時期に乾いだ道ば歩ぐいなて夢みだいだもなほれぇ」
ぐじゃぐじゃで歩きづらい、あの山形の道はどこへ行ってしまったのか。

「そろそろだんねがぁ」
「何が?」
「おらだもお役御免なのんねがてよぅ」
「まだ来週から寒ぐなるんだじぇえ」
「んだのがぁ、ままだま休まんねがしたぁ」
灯油ポリタンクたちの会話を、芽吹きもしない枝たちが興味深げに聞いている。

「なにしろ日本一だがらね!」
黄色い幟は威勢がいい。
「後光が差しったどれ」
「おじさんも食えるだげ食てけろなぁ」
「ほだごどやんねったて、浴びるほど年中食てっず」
山形市のラーメン狂騒曲はまだまだ続く。

ビルの谷間に陽が差した。
このフレーズは都会の描写のはずだった。
そのフレーズが今や山形でも使えるようになってきた。

江戸時代の屋根瓦からニューっと顔を出すのは霞城セントラル。
数百年分の光景が凝縮され、まとめて見られる不思議。

「早くてしったがぁ。まだ二月も中旬だていうのになぁ」
ここは紅の蔵。雛人形は山形市内のあちこちで展示されるそうだ。

「あれ?こごさも案内が?」
「なえだて白い蔵と青い空ば映してパート募集がぃ」
雛人形の展示案内とパート募集の告知が同列に飾られ、
「いかにも今の時代ば感じさせっずねぇ」

「むぐしたがもすんね」
「なんだがもにょもにょして気持ぢ悪れぇ」
赤い鳥居の陰まで赤い服の女の子の居心地悪さが伝わってくる。

鳥居の隙間から梅のほころんでいる姿は見えないか?
うーん、まだまだ蕾は固く丸まっている。
それでも鳥居の色へ近づくように真っ赤になって膨らんできた。

山形市の条例は変更されたらしい。
「花より団子」はご法度。
「梅よりラーメン」となったらしい。

紅の蔵の廊下へ日差しが入り込んでいる。
椅子でも持ってきてうつらうつらしたら気持ちいいべなぁ。

雛は顔だけじゃない。
その指先までも作者の気持ちが入っている。
「それにしてもよぅ。こっだい重ね着しったら脱ぎ着も大変だげんと重だくてしょうがないべなぁ」

真っ赤な紅。微かに開いた唇。
ふくよかな頬。
これはお殿様なんだがらね。

途方もない時間は鼻から口にかけて皺を刻んでしまった。
白粉で隠すわけでもなく、眼差しはどこまでも深く、吐く息さえも感じられる。

「あたしはベニちゃん。山形のあちこちで数年頑張ってきたげんと・・・」
雛人形の展示会場隅でベニちゃんは俯いている。
主役の座を奪われ、頭は削られ顔は傷だらけ。
「この傷はあたしの勲章なの。いろんな山形の人から触らっできたがら」
なんと健気なベニちゃんよ。
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