[上山市]加勢鳥 カッカッカーと熱くなる水掛け論(2024令和6年2月11日撮影)

「こっちゃ来たーッ!」
「初めで見る奇祭だがら、なんだがワクワクするぅ」
あの珍獣みたいな加勢鳥をどういう風に撮ったらいいか、
心の中では様々な考えが水掛け論を交わしている。

「おらだは濡れるごどさ慣れでっからよ」
バケツと柄杓はまぶし気な顔で加勢鳥を待つ。

「こだっぱい協賛してけっだんだどれぇ」
「やっぱり人間にはお祭りが不可欠なんだずねぇ」
先頭に立った軽トラは、協賛社の名前が読めるように、
ゆっくりゆっくりと歩くように通り過ぎる。

「やる気はあるかー!」
「水掛げでもらうのばありがたく思えよーッ!」
「上山の勢いば見せつけろぅ!」
と言ったかどうかはともかく、加勢鳥たちは休憩で息を整えている。

「ひぇっ!やばつい!」
加勢鳥がブルっと震えれば、しぶきは周りへ吹っ飛んでいく。
んでも水掛げられっど、なんだがありがたい。

「もっと掛げろ、もっと掛げろ」
加勢鳥は挑発するが、子供たちは遠慮気味。

履いているのはつま先が特徴的な雪草鞋というそうだ。
雪の上んねくてアスファルトの上だげんとなぁ。

ふくらはぎの水滴はけっして汗じゃない。
これが真夏の祭りだったら汗だぐだぐなて、
すね毛の先から滴り落ちるんだろうが。

「ちゃんと呼吸するいんだがっす?」
「呼吸さんねほどぎっつぐすねっだなぁ」
「んでもゆるこぐすっど、まともに水入てくんのよねぇ」
それが加勢鳥のジレンマなんだな。

「いつもだごんたら地面なの真っ白なんだべげんともなぁ」
日差しはアスファルトへ加勢鳥たちの一挙手一投足を映し出す。

「カッカッカー!カッカッカー!」
「これがあの有名な上山の奇祭がぁ。加勢鳥さんだはほんてん大変だまなぁ」
と思いつつ、そのやばつい姿をカメラに納めまくる。

あまりの激しい動きに大気も揺れる。水しぶきが飛び散る。
写真もぶれる。

「いがぁ、んまぐ男前に撮れよぅ!」
テレビ局のカメラマンは目の前なのにマイクで叫ばれる。
「ああ、耳キンキンなるぅ」
※あくまでも私が想像した言葉です。
「マイクのおっちゃんがほだなごどいう訳ないべしたねぇ」

「おまえだやる気あるんだがぁ!」
「ほだなずぁ、商売繁盛もすねし、厄も払わんねぞぅ」
そうマイクで叫んだかどうかは、しゃねげんとな。
「んだて撮影さ夢中になてで音なの聞こえねっけものぉ」
というカメラ親爺の横着な言い訳。

加勢鳥が喘いでいる。
白い歯がカチカチ鳴っている。
加勢鳥とはなんと過酷な奇祭なんだろう。

ほつれた髪が寒風と笛の音になびいている。
祭りの主役は加勢鳥だけど、笛の音がなくちゃその場も盛り上がらない。

かじかんだ指先と、その唇から放たれる笛の音は、
辺りを清く澄んで飛び回る。

「まだ来ねんだがずよぅ」
「時間が押してるんだずぅ」
太鼓車の運転手さんは前を見たり後ろを見たりで、
トトコの様に首を動かしてしぇわすない。

加勢鳥の名前の由来はさて次のどれでしょう?
1.「貸しぇず、どれぇ」
2.「食しぇっど、ほれぇ」
3.「稼しぇげど、ほれぇ」
ブブー、答えは上山市民に聞いてくださ〜い。

「なえだてこっち向いで笑顔になてけるなて嬉しいちゃあ」
加勢鳥たちはサービス精神がに溢れている。
その指先も光って神々しい。

「ほれぇ、まだまだ先は長いぞぅ」
「俺も纏持ちのほうがいっけがなぁ」
そんな本音がケンタイ(藁の衣装)から漏れ出たような出ないような。

笑顔の手元から寒風の街へ、チンチンと音が弾けて飛んでいく。

一気に空が明るくなった。
電線には鳥たちが留まれないような工夫がされており、キラキラ輝いている。
もちろん加勢鳥たちも留まることなどできるはずもない。

「誰がお湯ば掛けでける人がいねもんだがねぇ」と思いつつも、
やっぱりキンキンに冷えた水でないと意味ないんだべなぁという考えが勝ってしまう。

「ほーれ!」
「うわっ、顔ば狙たべ」
その後、加勢鳥は鼻がツーンとなったに違いない。

「やばついっ!」
もう数えられないほど水をぶっ掛けられて感覚が麻痺するかとも思ったけれど、
冷たいものはやっぱり冷たい。
喜んでいるのは弾けて煌めく水しぶきと観客たちの煌く視線。

大気は冷たいけれど、壁には電柱の影がくっきりと張り付き、
纏(まとい)の火の用心は光りと戯れる。

奇祭が終わった後には、この「風邪」の張り紙の店が繁盛するかもしれないな。

街角の隙間には日が差し込んでくる。
加勢鳥たちには救いの日差しだけれども、
とても冷え切った体を温めるまでにはいかないようだ。

加勢鳥たちはいかに過酷で寒くて、
市民たちに虐げられたか足元を見ればわかる。
それでも加勢鳥たちは、それを喜びに昇華していく。

加勢鳥たちが上山駅(かみのやま温泉駅)へ向かってぞろぞろと歩いていく。
バス停たちは突然の珍客たちを呆然と見守っている。

「さらさらえぼ出っだんねがよぅ」
「そりゃ出るっだなぁ。何リットル水ぶっ掛けらっだが分かんねじゃあ」

上山駅前のモニュメントにも加勢鳥たちは映りこむ。

いつも静かな上山駅前はカッカッカーの雄たけびに満ち、
銀色の案山子モニュメントも腰を振ってスイングしてる。

遂に加勢鳥たちは上山駅へ大集合。
奇祭は最高潮を迎え、人々の群れから囲まれる。

「脱げ脱げ。んねど風邪ひぐ」
「いやいや、脱いでも寒くて風邪ひぐ」
藁のケンタイ(着物)を半ば強引に脱がせられ、背中を見せる踊り子たち。

くたびれ果てた加勢鳥(ケンダイ)はトラックに乗せられて、
人知れずどこかへ連れられて行っちゃったぁ。
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