[山辺町]大寺・北垣 愛おしいほどに師走日和(2023令和5年12月9日撮影)

山形市内からほんの数十分。
盆地の西端山辺町の大寺に足を運んだ。
天気予報によれば、雪もまじかに迫っているらしい。
もう雪のない山形盆地を見下ろせるのは今年最後かも知れない。

「モクレンは早くて来年の準備がはぁ」
ぎっつぐ握った掌が、パアッと開くまで数か月。

師走日和の空気はあまりにも優しすぎる。
こんな優しさは長く続かないと山形人は知っている。
小春日和もいいけれど、それは11月のこと。
今日は既に12月だから師走日和というあまりにも貴重なひと時のなのっだず。

「ベニシタンていうんだが?触っど固っだくて痛そうだげんと」
「見た目で判断すんな」
側溝の上に被さるように垂れながら、緑から赤へと色を変えていく。

すっかり気の抜けた体がツンツンと立っている。
「おらだの役目は終わたもはぁ」
気の抜け具合は充実感とともにあったんだ。

すずご(筋子)の連なりならどだいいがんべと思う。
「ほんてんすずごだごんたら、水産業は大打撃だべな」
風もない師走日和に慣れていないため、突然変なことが頭に浮かんでは消える。

高く張り巡らされた塀から視線を感じる。
猫は猫でよそ者の空気を感じたらしく、
警戒を5段階の5まで上げているようだ。

「ほっだい無防備にべだらーっとぬだばてぇ」
こめ油の箱は心配そう。
「こごは山辺だものなんの心配もごんぱいもないっだずぅ」
貴重な光りを体中で浴びてうたた寝中の野菜たち。

「こっちでもが、なえだて気持ちよさそうだずねぇ」
記事の内容など我関せずと、豆たちはぷくぷくに膨らんで温まりあう。

コムラサキは紫でないといけない。
紫でなければコムラサキではない。
一個だけ赤くなってしまった粒は劣等感にさいなまれ、
恥ずかしさのために益々赤くなる。
「ほっだなごど気にすんなぁ。皆あどがらおらだみだいになて終わるんだがらぁ」
既に黒ずんでつぶれかけた実は慰めているのか落ち込ませているのか分からない。

「ゆすばがっだのがぁ?何がしたのが?」
「なんにもすねのに兄妹仲良くしてんのにゆすばがっだんだぁ」
世の中の理不尽を身をもって兄妹は感じつつ、お互いの手をしっかり握る。

「なえだて丸こぐなて跳ねでっずねぇ」
「んだてあたしたちはピンポンマムていうんだもの」
日差しをたっぷり浴びて菊科の花が笑顔を振りまいている。

「いづ降っべねぇ」
「天気予報によると間もなくらしいです」
「お前は黙ってろ。天気予報なの当だらねがら」
今か今かと雪を待つ地蔵たちにはピリピリとした空気が漂う。

柿の実が青空に映えている。
山形盆地は穏やかに伸びやかに広がっている。
山形人だからこそ分かる、この貴重なひと時。

空から朱色の玉がぼろぼろ降ってくる。
そんな錯覚に陥るほどの、突き抜けた青空とキロキロに膨らんだ柿の実。

「早くてクリスマスがぁ?」
「なんの事だ?」
唐辛子たちは艶々と気持ちよく輝いて、
赤と緑がクリスマスの色とまでは考えが及ばない。

「おらぁ寝っからはぁ」
一輪車が日陰でぼそっと呟く。
「あたしたちはこれからが出番だねぇ」
日向のスノーダンプは雪を待って意気軒高。

「ミャクミャクの仲間だが?」
「なにゆってんだ?このおっさん」
赤い実は大阪万博のことなど気にせずに柔らかい日差しを楽しんでいる。

「ほだい皆で押し寄せでくっど困るんだげんと」
看板はこれじゃ仕事にならんと体を傾がせ困り果てている。

「見でみろこれで分がたべ、こごが山辺町だて」
部外者の匂いを嗅ぎつけたのか、
エノコログサたちはここは山辺町だと、防火水槽の蓋にある山辺町の町章を指し示す。

何の変哲もない師走の光景というなかれ。
こんなありきたりの光景が間もなく雪に覆われると思えば、
これほど愛おしい光景もないのんねべが。

「おらだは今はやりのミャクミャクだっすぅ」
「どごがミャクミャクや?さっぱり似でねどれ」
「「葉脈が光り輝いて浮き上がり、これこそミャクミャクだっすぅ」

一叢の草花が浮かび上がる。
まるで太陽に感謝を伝えるように。

「おまえも干さっでいんのが?」
「俺は年中干さっでいっから慣れだもんだはぁ」
洗濯物は干されることに慣れて余裕しゃくしゃく。
干し柿にとっては一年に一度の緊張する行事。

意図的に幾何学模様を考え出した訳ではない。
蔵の漆喰、梯子、石積みのそれぞれが奏であい出来上がった一枚の抽象画。

杭はぎっつぐトタンに包まれて雪を待つ。
その周りを松の木の影も包み込む。

「白い板パンコは何の役に立つのや?」
脚立が責めるようにいう。
「何の役にも立たね物なてないっだず」
緑のネットに入れられた野菜らしきものが板パンコに加勢する。

「泥まみれだどれはぁ」
「山形市の七日町だごんたら恥ずかしくて歩がんねげんと、この辺だったらなんともないべぇ」
「はえずぁんだっだ。泥は働いだ証だもねぇ」

陰ってきた公園に灯りがパッと輝きだす。
儚げだけれどその光りには暖かさも溜め込まれているようだ。

「山形から来たんだど」
「あぁ、んだのがぁ」
お辞儀をして山形市内から来たと告げ、カメラを構え撮影させてもらう。
おばさんたちの顔は逆光になり、その表情は伺えない。
背中には柔らかい光りが降り注ぐ。
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