[山形市]千歳館界隈 色褪せた街を艶やかにぃ!(2023令和5年11月11日撮影)

足早に過ぎるのは人も秋も同じ。

「今日は何がイベントでもあるんだっけがぁ?」
「しかし露店のあるところには必ず女子高生がいっずね」
光りも差さず紅葉も燻ぶった色でどよんとしている隙間から黄色い文字が呼んでいる。

相変わらず俯いたまんま。
「俯いて何十年なたはぁ?」
俯いた視線の先では落ち葉が舞い踊る。

「なえだずマットから葉っぱが生えっだんねがよ」
「あんまり地面と仲良ぐすっから雑草に好がっだんだべなぁ」
マットはだらしなく体を投げ出しているだけなのに、
何故か風に吹かれた落ち葉たちが寄ってくる。

「凍っどわれがら止水栓ば締めらんなねぇ」
葉っぱが手を伸ばす。
「ほいずお前の役目んねべよ」

「空室はあっげんと、ゴミ捨て場は満杯だっすぅ」
自転車はゴミに尻を向けて階段の下にすり寄っている。

傾いた光りをついばむ様に、穂が光りをため込む。
「これから冬眠だもねやぁ」

陽の傾くのが早すぎる。
ちょっとしたビルの高さにも満たない隙間から、
冷たい風と共に肌を射てくる。

「階段の影さ隠っでだのがぁ?」
「んだて、こだい寒いのに脇ではビール旨いてうるさいんだもの」

壁を伝う蔓が強張った体でへばりつく。
横断歩行者は雪に備え帽子を被ってしっかり歩いていく。

今日最後の光りが人通りのない狭い路地にわだかまる。

「今日は花小路でイベントあるんだど」
「イベントさ参加すっど何がもらえるんだが?」
「おそらぐ灯油缶んねが。ほごさ置がてあんもの」

「段差があります。でも上下関係はありません」
「足元にご注意ください。でも急にやってきた寒さにもご注意ください」

「せっかぐ花小路で秋まつりしてでもよぅ、秋なの終わっどごだもなぁ」
「みな炬燵出して家でぬくぬくしったべはぁ」

「お、結構賑やかそうだどれ。下駄箱はどうなてるんだべな?」
「はい、袋にご自分の履物を入れて帰るまで持ち歩いてください」
「なるほど、下駄箱だど帰りに自分の靴よりいい靴ば履いで帰るのもいっべがらなぁ」

玄関を入れば、柔らかな穂と赤い実が迎えてくれる。
真っ白な穂は人々がひっきりなしに訪れるものだから、体をふわふわ揺らして歓迎の舞で大忙し。

「柿んねがら、カメラ親父がおっきぐ撮ってるだげだがら」
びっしりぎっしり成った実は押しくらまんじゅうのように、
お互いが離れまいと体を寄せ合っている。

「トイレどごだっす?寒くてむぐれるみだいだがらよぅ」
案内の女性に下半身をもぞもぞさせながら聞くおじさん。
笑いをこらえて遠くから成り行きを見守る番傘。

「今年も終わりがぁ」
ため息とともに窓の外の季節の移ろいを眺める。
でも今日はイベントの日。気持ちを入れ替え番傘は梁をピンと張る。

「いったい何人の山形人の外套や帽子をぶら下げて来たのだろう。
その先っぽはツルツルに磨かれ、その磨かれ具合が往年の繁盛を彷彿とさせる。

二階の大広間で舞子さんの舞が始まる。
まずはその前に前座のおじさんが南京玉すだれを披露。
技もさることながら、その好好爺ぶりが観客の緊張を解きほぐす。

「かえずなんだが分かる?千歳山っだなぁ」
得意げなおじさんの顔にはこれでもかというほどの笑顔が張り付いている。

前座もまもなく終わり。
最後には大技を繰り出した。
最前列の座布団に座って口をぽかんと開け見入っていた私。
簾はその口に入ってくるほど近くでビュインと唸った。

紅葉の向こうに舞子さん。
「なんだが無表情だんねが?さっぱり動かねし」
「よっくどまなぐ(目)ば開げで見でみろず。鬘(かつら)が飾らっでだだげだどれ」

「お、髪飾りだどれ。綺麗なもんだずねぇ」
「人間の技の集大成っだな」
「ほだごどゆて、どういう風に創てっか分がんのが?」
「秘伝の技だがらおしぇらんね。しゃねげんと」

そのまなざしは何を見つめている?
瞳の動き一つ、指先の揺れ一つまで研ぎ澄まされた艶やかさ。

「プロの目線ていいうのは、こいなばいうのっだなねぇ」
「さっきから随分目の動きばっかり気にしてっずねぇ」
「視線がちょっとでも合わねがどもて、しっかり老眼鏡掛げできたがらよぅ」

やっぱり派手派手のネイルなのするより、素の指先は美しい。
「指の手入れも大変なんだべなぁ」
「んだ。その指で扇子ば操るんだがら」
「分がたようなごどゆうずねぇ」
何もわからず最前列で舞いに酔う。

「なえだて激しい動きもあんだずねぇ」
「俺の頬っぺたまで振袖の風がふっとんできたじぇ」

後ろ姿にさえ気を遣う舞子さん。
私生活でも一部の隙なく暮らしてるんだべが。
「よげいなごど考えねで、よっくど見でろ。あど見らんねがもすんねんだがら」

舞いきった安堵と感謝が体全体から陽炎のように浮き上がる。

「いやぁ、いがったいがった」
幕がそろそろと締り、ひと時の非現実が終わりを遂げる。

舞が終わり、今度はトークショー。
おじさんは見逃すまいとスマホを操作するのに余念がない。
「ほだごどしてでトークば聞き逃すなよぉ」

トークショーの間にそっと席を抜け出す。
向こうから甘やかな舞子さんの声が耳に届いてくる。
暖簾の隙間からはふわっとした香(かぐわ)しい空気がちょぺっと漏れてきた。
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