◆[山形市]桜町・木の実町・中央公園 七夕には早すぎた(2023令和5年7月1日撮影)

山形城主御用達の飲み物が東大手門に到着した。
夏に入り城内でも清涼飲料水は大人気らしい。
ということにしておこう。

昔「樅ノ木は残った」という大河ドラマがあった。
この県立中央病院跡地角にはヒマラヤスギだけが残った。

坊主頭が初々しい。
「頑張れ高校球児!」
「あ、何部だがもしゃねんだっけ」

東大手門から駅方面へとぼとぼ歩く。
塀の影から紫陽花が顔を出して、
通りを怪しい者が通らないか辺りを伺っている。

やがて通りは城南橋の下をくぐる。
薄暗い中で湿気と車の排気と、霞城公園の緑の匂いが交じっている。

「あんまりギュンギュン踏むどよ、停まらんねぐなるんだずぅ」
城南橋を下ってきた自転車はシューっと脇を走り去る。
ベンチは泰然としてその姿を見守っている。

「退院かっす?いがったねぇ」
そんな声の聞こえそうな篠田病院前にはザクロのタコウインナー、
じゃなかった、ガクが地面に散らばって踏むなよーというようにトゲトゲしてる。

「なしてタコウインナーが木さぶら下がているんだ?」
「テルテル坊主のつもりなんだげんと」
ザクロは七夕が近くなってきたため、
織姫と彦星のために自らがテルテル坊主になってお願いしているらしい。

青ざめた男たち。
いやいや、印刷物がすっぱげだだげだがら。
床屋さんの赤青サインポールは言い訳するのも面倒くさげ。

印章屋さん前で生まれて初めての驚きを経験した。
というか、あり得ない物を発見して信じられない思いで再度ジーっと見入った。
苗字は佐藤・斎藤・鈴木などが馬の糞といわれ(失礼)、あまりにも多い苗字として君臨している。
そんな中、私の苗字は全国で万の位が付く順位であり、
苗字界の絶滅危惧種といわれている。
もちろん既製品のハンコ売り場で自分の苗字など、生まれてこの方一度も見たことがない。
なのにこのハンコ屋さんにはハンコそのものは無いものの、その苗字の枠があるじゃないか。
個人的にこれは驚愕以上のなにものでもない。
この場にてお礼を申し上げます。ありがとう、印章のカワグチさん。

「くたびっだがら、あど入れねでけろてゆてるんだげんとなぁ」
錆びだらけの郵便受けは疲れ切った体が強張っている。
その体の中には、まだま新しいチラシが戸惑い気味にくるまっている。

「黄色い星が煌めいっだみだいだずね」
「なにゆてんだ。あれはおらだの花びらだべな」
ビヨウヤナギは自分たちの行く末を案じ地面に向け項垂れながらも、
落ちた花びらからは目を逸らす。

木の実町は山形市のど真ん中。
なのに意外と住宅が多く、静かな公園もある。
水分補給がてらに立ち寄った「さくら木公園」では、
紅葉の穢れなき新鮮な緑色が降り注いでいた。

「シロツメクサば踏ん付げだら可哀そうだべ」
タイヤは力の限り空中へ浮いてシロツメクサを守ろうと耐えている。
「吊るしていっどごば映していねだげだどれ」
「なして良い話ばぶち壊すがなぁ、もう一人の自分は」

「星が白く輝いているみだいだずねぇ」
「なにゆてんの、あれはおらだの花びらだべな」
トウツクバネウツギも先ほどのビヨウヤナギのように項垂れ、
それでもしっかと自分たちの行く末を目に焼き付けている。

「ほっだい近づぐなずぅ、こちょびたいがらよぅ」
標識はくっついてくるガクアジサイに文句を言いながらも、
この時期だけのアジサイのまとわりつきが嬉しくてしょうがない。

「なえだて配管だがなんだがしゃねげんとくたびっでボロボロだなはぁ」
「ほだなごどやんね、一生懸命働いだあかしだべな」
何処から声が聞こえてくるかと思ったら、
アルストロメリアが綺麗な姿で囁いていた。

「あいやノウゼンカズラが咲いっだじゃあ」
「んだら真夏ももうすぐだべっちゃ」
路地の隙間からこちらを覗き込んでくる朱色の花びらたち。

「あんた誰?この辺の者じゃないわね」
背中をぐいと丸め、女は顔を向け視線をロックする。
「あ、いや、そのぅ」
強張った指はその視線に慣れるまでシャッターを切ることが出来なかった。

「うっ、毛虫の塊だが?」
「ただのキイチゴっだず」
「ただのていうごどないべ、ちゃんとしたキイチゴなんだがら」
話がこじれる前に退散した方がよさそうだ。

さすが木の実町。
キイチゴの実さえも当たり前に街に、建物の空間に馴染んでいる。

「豊烈神社の打毬はまだだが?」
「猛烈神社が脱臼?」
「んだら隣の至誠堂病院んさ行がんなねべ」
「矢吹病院も近いべ」
「矢吹病院なの嶋地区さ行ったはぁ」
どうにも話がかみ合わずにいると、
中には真面目なアジサイもいるらしく、冗談を軽くスルーし真面目に答える。
「10月だもの、ほれまでおらだは持だねがら」

「おもしゃい書体だずねぇ。見でるだげで楽しいま」
「見でばりいねで食てってけらっしゃい」
脇を向いた自転車からぶっきらぼうに声を掛けられる。

七夕飾りがそろそろ設置されているかと大手門商店街に来てみたが、
やはり風に翻る飾りは見当たらなかった。
かといって来週の土曜日は8日なので、今日来るしかなかったんだ。
でも、それで分かった。
飾りが無くても十分楽しめる通りだと。
「んだてあらゆるオブジェがなん十体と歩道沿いに見てくれと飾られているんだから。

「くるりんバスて目が回らねんだべが?」
「別に回てばりいんのんねがら」
このバスがくるくるパーという名前でなくて良かった。
もしかしたら「くるくるパー」って使用禁止用語かもしれないし。

カワセミが山形駅へ行く方向を示している。
「ところでカワセミて街の真ん中さいるもんなんだが?」
そこで調べてみた。
多くは水辺に生息し、都市公園の水辺にいることもあるらしい。
この辺でいえば中央公園の辺りなんだべな。

青年は多くのアンテナをあらゆる方向へ張っていなければならない。
そう、このケヤキのように。

ペットボトルの口を咥えながら、ボーっと噴水を眺める。
「やばついぃ、げんと気持ちいい!」
どこかから黄色い小さな声が噴水を越えて飛んでくる。
その声は体に飛沫が掛かり足を交差させ腕を上げて喜ぶ女性だった。

「誰か遊ぼ。ボールもあるから」
少女の声に返事はなく、ただ湿っぽい風がゆるりと周りを囲んでいるだけ。
少女が中央公園で友だちを待って、もう何十年も経っている。

家に帰り、疲れた体に鞭打ってパソコンに向かう。
薄暗くなってきた部屋の中でふと窓を見ると、カーテンが赤々と輝いている。
そのカーテンをパーッと開けた。
月山を望む西の空一面に目を疑うような彩が広がっていた。
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