◆[山形市]高瀬下東山・おもひでぽろぽろ・汗だぐだぐ(2023令和5年6月17日撮影

高瀬のコミュニティセンターにはぶっとい柱の時計塔がある。
見上げれば久しぶりの青空を雲が流れていく。
スカスカの頭の中を夏風が流れていく。

「なしてこだんどぎ高瀬さ来たの?紅花祭りは7月だじぇ」
「人いっぱい来るんだべぇ。人ゴミは苦手だがらよぅ」
「ところでなして人ばゴミ呼ばわりするんだずね?」
「人はゴミんねべしたぁ」
「ほいに思てんのは人間だげだがもすんねば」
一面のシロツメクサがギクッとしたことを平気でいう。

ここが下東山の入り口。
いつもなら紅花が出迎えてくれる。
でも今日は忘れ草が迎えてくれた。
「あ、いや紅花んねどダメだてゆったのんねがらな。」
危うく忘れ草の機嫌を損ねるところだった。

高瀬小と月山と紅花。
「これが定番中の定番だど思うんだげんと・・・」
「いよいよ夏だはぁ。タチアオイが咲き始めだもはぁ」

「かえずぁヒョウ干しだべ?」
「ヒョウ干しの三枚おろしだぁ!」
三枚の発泡スチロールでヒョウは山形人の口へ入るのを待っている。

「なえだてこだい暑いどごで寝むかげがぁ」
「ネズミから肩ばかぶづがれっどれ」
紫陽花たちは奇妙なお地蔵さんの眠りを妨げないようにそっと咲く。

「暑っづいどごさ干さっで、汗も出ねはぁ」
「こだごど干さっで、おらだ玉ねぎは旨ぐなるんだべがねぇ」
「俺はサラダになっだいなぁ」
「おらほはカレーライスさ入っだい」
「あたしはタルタルソースになるんだぁ」
それぞれ暑さの中で夢を語り合う玉ねぎたち。

ま新しいガードレールが目にも眩しい。
洪水防止のために、川の改修をやっているらしい。
静かで落ち着いた集落を撮ると思い描いていた計画は脆くも崩れ去った。
でも、地元の人々の生活が最優先だがらねぇ。

「空さ何が描いっだのが?」
「暑くてなにしたらいいが分がらねくて藻掻いっだんだぁ」
揺らめく蔓は太陽の光を一面に散らしている。

「川が頑丈に立派になたど思たら、看板まで立派だもねぇ」
田舎だから田舎の風景でいいというのは人間のエゴだと思い知らされる。

「おらだよー、いつまでこいにしてらんなねんだ?」
「工事が終わるまでっだな」
お互いに余りに近くで向き合っていることに、恥ずかしさが入り混じる。

背後の電柱に負けまいと背を伸ばすジキタリス。
袋状の花の中から辺りに甘い熱気が吹きだされる。

「おらだの季節になたもねぇ」
ジキタリスは勢いよく咲き、四方八方へ華やかさを振り撒いている。
背後のスノーダンプはすっかり気力をなくし、壁へおっかがりながら下を向く。

「長靴さん、もうちぇっとあっちゃ行ってもらわんねが?」
「おれば嫌いなのが?」
「あたしの踵さ陽が当たって暑いのよぅ」
長靴は仕方ないなあと、思い腰を上げて一歩前へ移動する。

自立できない箒は立つ場所を探してやっと良い場所を見つけた。
パイロンの頭に穴が開いているなんて、箒には願ったりかなったり。

石碑が立つ三差路。
なんとも絵になる光景のはずだった。
「ごめんなぁ、こだんどごさいで」
重機のおんちゃんが謝ってくる。
謝る必要なんかどこにもないんだっす。
おんちゃんの気遣いが嬉しくて思わずパチリ。

石碑の脇で可憐に咲くのは雪の下。
雪の下という名称なのに、今日は轟音の下で咲く。

じりじりと太陽が照りつける。
板塀も熱を帯びふうふう言っているようだ。
そこへペタッとくっついた紅葉の影は、
アチッと言って掌を引っ込める訳にもいかない。

ゴロゴロとショベルカーがキャタピラの音を響かせる。
カマキリの斧のような鎌首の奥には、静かに佇む八幡様のご神木。

暑さのせいでだらだらと歩いていると目の前の光景が一変した。
一面に咲く百合は辺りの空気を支配し、匂いを放ち、その色彩で塗りこめる。

「ここは休石八幡神社前だぞーッ!」
バス停は青空の中に立ち上がる。
八幡神社参道の入り口に立った石柱が、心配そうに支えるように脇に立つ。

「やっぱり梅花藻が咲ぐんだずねぇ」
最近は山形五堰にも咲いているし、
ましてや田舎へ行けば清流だらけなのだから咲いているのは当たり前。
その当たり前が嬉しいじゃないか。
「咲ぎ終えでちょっとしぇづ(季節・咲く時期)終わたみだいだげんとなぁ」

「なして田んぼの真ん中さ?」
水田の影と一体となって丸っこくまとまった八幡神社。

「要するにネギだべ?」
「いいえ、ギガンチウムです」
その気位の高さで青空を突いている。

あの八幡神社の木陰で涼もうかと思って行ったら、先客が大勢いた。
石碑はともかくとして、半鐘や傘までもが陽を避けている。
みんな同じ気持ちなんだなあと、変に安心してお賽銭を上げ拝礼した後に冷えたペットボトルに口をつける。
ただし、みんなの視線を浴びながら。

「おら用なしだし・・・」
灯油ポンプは落ち葉の中でえんつたげでいる。

ご神木は村を包むように枝葉を伸ばす。
この暑い日にこれほど助かる大きな日陰はない。
昔の旅人は冬の日にも吹雪を避けてご神木の元に集ったのだろうか?

ヤマボウシが自分の重さに耐えられないほどに山ほど咲いている。
脚立とドラム缶はその溢れんばかりの姿に圧倒され、ポカーンとするばかり。

「頭上注意て書がったべ!」
「なしてスピード緩めねんだず」
「せっかぐ頭の上さヤマボウシ咲いっだのにねぇ」

「大金鶏菊ていうんだてな?」
声をかけてもどこ吹く風で、体をしならせながら青空に媚びを売っている。

「お前は器量が良ぐないんだがら、お墓どが便所の脇さ咲いでっどいいのっだな」
確かにタチアオイの見た目には上品さや気品が感じられない。(個人的感想です)
でも、空に向かって咲きたい気持ちは皆同じ。
みんな平等だべなぁ!見た目で花ば判断すんなぁ!
空に向かってその憤懣をを突きあげるタチアオイ。

視線が合った。
浮草から顔を出したカエルは異物を見つけ警戒している。
それを察した私は、汗だぐだぐなたしそろそろ帰っかぁとカエルの面に言い残す。
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