◆[山辺町]まんだらの里・作谷沢 雪の芸術祭2020(2020令和2年2月8日撮影)

「口からツララ出でるし、耳からススキの穂が出でるし」
「ま、いいっだなぁ、雪だるまもほごまでして歓迎してんのっだず」

作谷沢の村への山道はカーブの連続でおっかないっけ。
でも山間に開けた村は歓迎ムード一色。
月もおぼろに霞んでいる。

何かの用紙の裏面を利用した案内張り紙。
この手作り感が冷気の中でも温かい。

「タイヤのスパイクが?」
「ゴジラの背中が?」
なんでもいいげんと、歓迎の気持ちだけは伝わってくる。

村の子供たちが民話を語ってくれるという。
寒さと緊張で、子供たちの顔から笑顔は消えている。
なにしろ、こだっぱいの人の前で話すのはめったにないこどなんだべがら。

子供たちは訥々と民話を読み上げる。
おじさんは文字が見えるように、温かなまなざしとともにライトを向ける。

空に炎となって消える前に、豆殻はカラカラになった体をプルっと震わせる。

ランタン見たさの気分の高まりを抑えきれないように、あちこちで人々がうろうろしている。
そのたびにライトは地面の影を左右に忙しなく揺らしている。

作谷沢の学校グランドの斜面へ映る人々の影。
浮き立った気分は影にも乗りうつる。

紅蓮の炎が空へ舞い上がる。
奉納舞踏が演じられ、人々は別世界へ連れていかれる。

気分が高まったところで花火が打ちあがる。
なんとも演出効果が旨すぎる。

雪が舞い、花火が舞う。
しかも花火は序章に過ぎない。
これからがランタン上げの本番。
「高揚感がマックスで心臓が絶えらんねはぁ」

今年は雪が少ないため作谷沢の学校のグランドでランタンを上げるという。
その場所へ移動するために、人々は期待を胸にぞろぞろとざわざわと歩き始める。

グランドでは早速子供たちが雪遊び。
数センチの雪でも、子供たちにとってはとてつもないご褒美なんだ。

巨大な宇宙船の前に人々が呆けたように集まるシーンは「未知との遭遇」。
あの映画を再現するような雰囲気がグランドに満ちている。

「みんな校舎の近ぐさいねで、グランドの奥の方さ行ってけろ」
「ランタンが校舎さぶつかっていくど危ないがらて」
人々はぞろぞろと暗がりの広がるグランドの奥へ、月に見守られながら移動する。

ランタンへの火の灯し方が説明される。
「いいがっす、こいに点けるんだがらなっす」
「ほしたらば、空さ上げっどいいんんだっす」
おじさんは一生懸命グランドへ響く声で説明する。

おじさんの長靴はぼんぼりに照らされて、少しばかりの雪が浮き上がる。

「こんでいいんだべがなぁ、ながなが点がねずねぇ」
「ほんてんこんでいいんだがよ」
「寒いがらだべがぁ、ほだごどないっだな、他の人も同じだじぇ」
焦る気持ちが益々指を震わせる。

「んだらばみんな準備できたがっす」
「カウントダウンすっからてなぁ」
緊張と期待の胸の高まりが交錯して、会場は一瞬無音状態になったようだ。

「おうえあ〜、ひゃぁ〜」
声にならない声を上げ、指が硬直して、緊張のあまりシャッターを押しっぱなしにしてしまったぁ。

「なえだず、なして上がらねんだぁ」
「いいがら空さふとばしてやっべぇ」
「みな、あだい上さ上がったんだじゃあ」

初めて見たランタンに興奮した指がいうことを聞かない。シャッターから指が離れないんだ。
その結果、ランタンは蛇がくねるような軌跡を描き、空へ上って小さくなり消えていった。

ランタンが消え、人々が移動し始める。
人々の交錯とともに、ライトも交錯する。
まさに灯りと人々の交錯の祭りだった。

粉雪は人々の気持ちをクールダウンさせるように降りしきる。

ランタンの余韻を心に灯しながら、人々は帰途に就く。
後ろ髪を引かれるように、長い影を雪道に引きずりながら。

「鼻かんで、チーンッて」
「おもしゃいっけねぇ」
「まだ来年も来っべね」
作谷沢の人々の思いが続く限り、来年以降も灯りは消えない。
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