◆[山形市]七日町 街は意匠でできている(2020令和2年1月11日撮影)

初市が去り、何事もなかったように七日町は動き出した。

「建築業界に土曜日の休みなてないがらよ」
ショッピングを楽しむ人々と工事現場は囲いで仕切られ、
全く違う世界が同時進行で七日町に存在する。

「今日はちぇっと人少ないみだいだなぁ」
巨大なクレーンは、いっとき仕事を忘れ、
初市の喧騒を振り返る。

「きんななの来っだくても七日町さは来らんねっけも」
「んだずねぇ、10時半ごろにはどごも駐車場満車で、身動きとらんねっけもはぁ」
人ごみの去った歩道をゆったりと自転車が、繁華街へ向かっていく。

「背中暑ぐないが?」
「俺も感じったけのよ」
背中から太陽が陽を投げかけ、アスファルトはあったかい空気を反射させる。
「雪なのさっぱりないのに、おらだの仕事は無意味んねんだが?」
仕事に意味を見出せない二人は、冬なのに頭がボーッとのぼせてきたようだ。

取っ手に取ってつけたような花笠一輪。
「ほだなごどゆたら、花笠がごしゃぐべな」
「花笠はなにゆたて笑顔ば振りまぐだげだぁ」

「なえだて目ぇひぐずねぇ」
「七日町は、いづのこめがおもしゃいごどすんもねぇ」

「山形市の中心部にしては、結構安いんだっす」
完全密封された工事現場の前で目を光らす警備のおじさんは、
話してみると気さくになんでも答えてくれるし、工事中のマンションのことも詳しかった。

なにかと話題の大沼デパート。
「なんだかんだゆても、大沼ないごんたら七日町の意味がなぐなんもねぇ」

「まずは大沼さ行がんなねべ」
長い冬の影を引きずって、市民に愛された大沼へ入って行くという高揚感。

忙しなく動く指先だけが、日差しをやさしく反射する壁から小さくはみ出している。

力強いボッチが首に鎖をぶら下げて並んでいる。
「おまえだ囚人か?」
「バガこげ、市民みんなば守てるていうのに、その口の利き方はなんだず」
「しかも誰も見向ぎもすねしよぅ」

「あれ?雑踏は?人はどさ行った?」
溌溂とした春の笑顔のはずが、どう振りまいたらいいか戸惑いの笑顔に変わっていく。

「ごみなんだが、重石なんだがはっきりすろず」
「ほだごどやっでも自分でも分がらねんだぁ」
イーゼルの下で、自分の役割が分からず狼狽える袋たち。

「お前の影伸びっだなぁ」
「あなたこそ伸びっだどれ」
影はずーっと離れず、並んで歩み去る。

「寒いのに手袋さんたていいんだが?」
全身からあふれ出る若さは隠しようがない。
逆光になった影からさえ、キャッキャッと若い嬌声が聞こえてきそうだ。

八文字屋という文字に文化の香りを感じない山形市民はいない。

「こごさぶら下がって何年になるんだはぁ?」
「おだぐが中学生のときに学帽被ってきたの覚えっだよ」
あまりの記憶力の良さと、長い歴史に脱帽する。

「くるりんてネーミングがいいずね」
くるりんバスは、その車体や窓に七日町の街並みを映しながら、
市民を乗せてくるくる回る。

1.これがなんだかさっぱり見当もつかない人は山形市民として才能ナシ。
2.どごさあっか分かるけれども、誰の作品か分からない人は山形市民として凡人。
3.この八文字屋のドアの取っ手の鋳物を造ったのは、
霞城公園の最上義光像を造った人と同じだよと知っている山形市民は才能アリ。

葉ボタンが物足りなさそうにボッと開いている。
普段なら雪のひとつも積もっているだろうにと。

「かぶづぐだいげんとも看板だしなぁ」
看板に寄りかかり、レンズを向ける自分が恥ずかしくなる。

「かぶづいっだどれ、しかもスゴイ勢いで」
街の意匠は、人々をひきつけ、腹を鳴らし、足を運ばせる。

今はポーズをとり、撮られが当たり前。
スマホの無かった時代、親子はどんな触れ合いをしていたのだろう。

「冷ったいのに触っだいのがぁ?」
「んだて、おもしゃいんだもぉ」
冷たいものに触れても、あったかいものが二人を包む親子の触れ合い。

「将来なになっだい?」
「ユーチューバー」
父親の足先はカクンと揺れ、わずかに動揺する。
子供の足先は、もう飽きたといわんばかりに地面へ伸びる。

「なにダメかにダメて禁止ばりしったら、子供だが伸びねべず」
と理解者のように言いながら、
実は四種目のうち、どれ一つとして乗ることができない看板前の自分。

「こごはマンハッタンだが?」
林立するビルと看板に、大都会の雰囲気。
「そういう撮り方しっただげっだな」
「ちょっと背伸びしてみっだいっけのっだずえねぇ」

カッカッとヒールの音が乾いたビル街に響く。
ここは銀座のとある歩道。
「んだがらよぅ、ちぇっと都会の振りしてみっだいっけのよぅ」

何年後かにまたマンションが建つ七日町。
体には昭和の七日町がこびりついて離れない。
マンションの林立する七日町というものが想像の域を外れていて、
それを山形市民として受け入れられるのかは完成した時に考えてみるか。

「これが冬の山形の空だが?」
日差しは気分いいけれど、雪の降らないのは、
それはそれで不安になる山形人の不可解な心理。

「絵ば見で何ば考えっだの?」
カラフルな絵に向かい合う自転車は、ことさらに寡黙だった。

御殿堰のせせらぎと、カラフルな壁面と建築現場が地層のように積み重なっている。
地層は歴史をつまびらかにする。そしてこの地層は新たな歴史も積み重ねていく。

日差しはバーコードのように影を並ばせ遊んでいる。
座面に模様を作られ撫でられているのに、椅子はじっと大人しく並び息をひそめる。

「快晴なのに、なんでこごさいんの?」
役目を見失い、立ち位置がぐらついているてるてる坊主。
人の視線も太陽の視線も、今のてるてる坊主には居心地が悪すぎる。
TOP