◆[山形市]第8回 気仙沼さんま祭りin山形 台風の来る前に(2019令和元年9月22日撮影)

去りそびれたアジサイの向こうには、
昭和の空気をまとった建物。
ここに二中があったころのまんま残っている。

「台風くるんだどほれ」
「まずは台風よりバスこねどぉ」
気だるさをまとった空気の中に会話が淀む。

様々な時代に手が施された跡。
まさに昭和・平成・令和が一つに合体している造形にツルが這う。

「台風なのどさいだんだよ?」
ちょろりと顔を出し、ほんとは不安で仕方がないのに、
強がりをいう。

空気が滞留し、緑が益々深くなる。
自転車は緑の中に身をゆだね、もうどこへも行きたくない。

「しったりゃあ」
大漁旗が緑の中から強い意志を発してくる。
銀杏は黄色になる前の今年最後の緑色を空に伸ばしている。

煙にまみれても力強く空に伸びる大漁旗。
煙のもやもやをパキっと締める。

「どっかり座て、なに暇こいでんのや?」
「ほだごどないのよっす。カボスとおろしのアイコンタクト練習だっす」
サンマをガツガツと焼いている緊張感漂う場所とは明らかに違うのんびり感。

匂いに混じり、いや、音の中に匂いが混じる会場

呼吸する度サンマの匂い。
これはなかなか演奏しずらいシチュエーション?

金管楽器が面白い絵を吐き出している。
ラッパの中に拳を入れる。
その拳を包むようにそっと手のひらをが添えられている。

神経が楽器に集中する間にも足元をサンマの匂いが這っている。

曇天の空に向かって吐き出される音色は、
サンマの匂いを震わせる。

「どこの旗じゃ?前が見えん!」
最上義光は馬上で一人ごしゃいでいる。
誰かこの事情を説明せねば。

背中が気仙沼の意思を語り、
拡声器はのどを完全な状態にして常にスタンバイ。

「手ば動がしったままでいいっす」
「こいにが?」とヘラを止める。
会話がかみ合わなかったけれど、
そんなことはホルモン焼きが旨ければ関係ない。

「城下にサンマの匂いが漂っておるぞ!何事じゃ!」
最上義光さんがひときわ高い声を出す。
「わしにも一尾!」

とにかくモウモウ。
牛ではなくサンマ。

目の前にサンマが迫る。
ジュッと香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
腹がギューッと鳴る。

体中に染みこむ匂いは、一年抜けないという。
ということは来年のさんま祭りまで?

この子が誤解されないようにいっておきます。
決して監視カメラに映った犯人の姿ではありません。

「手つだせ、ほれ醤油」
「手つだせ、カボスける」
「手つださねどけらんねっだな割り箸」
おばちゃんたちは、けっしてこんなぶっきらぼうな態度ではありませんでした。

大分カボスの裏側は、傘やバッグや段ボールという人間らしさ。

「残さねで食てけだなぁ」
「おらだも早ぐ食だいずねぇ」
こういう方々がいるからこそ成り立つ催し。

砂利を踏みしめるシューズ。
お茶・ビール・山形パインサイダー。
サンマの匂いと人々のざわめきが地を這いゆったりと流れてゆく。

落ち葉を気にする風もなく、
台風が来る前にと、行列が延々続く。

誰も振り向かない。
そりゃそうだ、目の前でサンマがこれでもかと挑発しているんだから。

煙が霞城公園に立ち込め、森の奥が薄紫に染められている。

行列に入らず、でもじっとサンマの方を見つめる八頭身土偶は、
縄文の女神というプライドで食欲を我慢しつつ、それでも体は前のめり。

「あたしは車両んねがら、ただの自転車だがら」
「前さも後ろさも子供ば乗せらんなねんだじぇえ」
よくわからない言い訳で車体をまとう。

「食てけっぞう!」
「みんな食いにきたんだがら!」
「ああ、んだがしたぁ」
金属竜は納得し、顎を狭める。

「けぇ」
「くぅ」
兄弟には短い言葉さえ必要ない。

「サンマくだい〜!俺さもかしぇでけろぅ!」
少年はトンボ捕まえをやめて、南門へ向かって走り出す。
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