◆[山形市]悠創の丘・芸工大 早すぎる熱波(2019令和元年5月25日撮影)

「重だいげんと嬉しいぃ」
花びらの塊は引力に引っ張られながら、
見事姿を見て欲しいとゆさゆさ揺れる。

芸工大を正面から入るのは簡単だ。
今回は人気のない裏側から芸工大に向かう。
オダマキはそんな芸工大の三角屋根を常に背後から見つめていた。

芸工大の正面は常に吹きさらし。
いくら芸術的な見栄えを重んじるとはいえ、
夏は灼熱を浴び、冬は吹雪をまともに受けながらの前庭はいかがなものか。
その点、裏側には山が迫り、木陰に隠れて三角屋根を眺めることができる。

芸工大のすぐ裏手なのに、
おそらく卒業するまで気づかない学生もいるだろう、
小さな祠。

山を緑が覆い、辺り一面夏の風情になるまであっという間。

「暑くてもう歩がんねはぁ」
錆の浮いたリヤカーは体力の衰えを感じつつ、
この先を想像して愕然と地面に膝を突く。
スーッと伸びる竹はその姿をただ見下ろすばかり。

アリウムの背比べが始まった。
青い空に丸っこい玉が浮かび始めると、それは初夏の合図。

小さな花びらの子供達がびっしりと固まっている。
その一つ一つにはこれから咲くぞーという勢いが漲っている。

首を真後ろにグット曲げ、吹き抜けを眺める。
後ろへひっくり返りそうになる。
老眼と近視が一緒にやってきた自分には校是が滲んで見える。
よく眼を凝らしてみる。
「若さがたりない、だからこの大学には入れない」
私が若い頃にこの大学があったら選択肢の一つになっていただろうに。

オープンキャンパスを終え、
安堵の気持ちが影をビローンと伸ばしている。

日も傾き初め、熱波を伴った光がギラギラと揺れている。
敷き詰められた砂利さえも輝くほどの初夏の強烈な光。

さざ波があちこちに現れては、光を散乱させる。

東北各地へのシャトルバスを待つ間、
日陰で芸工大の校風を咀嚼する女子学生。

まだまだ太陽は高い位置に陣取っているけれど、
乾いた風のおかげでさほどの暑さは感じない。
もう少し時間が経てば、このギラギラも夕闇に紛れて消えてしまうのだろう。

オープンキャンパスに訪れた高校生達を歓迎する旗が強風にはためく。
そんな芸工大生たちの心意気を高校生は感じてくれただろうか。

芸工大生だからこそできる旗のおもてなし。
さまざまな旗の色は俺たち一人一人。
それらが白い紐で結ばれ芸工大生の結束となっている。
と、まあこじつければそういいうことだ。

芝生には直線の影ができているのに、
旗は風の力で湾曲してる。
影が反骨心で主に逆らった瞬間。

「仙台さ帰る人〜!早ぐ乗らねど間に合わねがらな〜!」
暑さの中、スタッフは声を枯らして乾燥しきった大気へ息を吐く。

オープンキャンパスのためのテント設営には力が入る。
しかし、撤収の時にはけだるさだけが残って、
どうにも力が入らない?

「ほっち、ちゃんと引っ張れず」
「ほご、ちゃんとたがて」
「暑くて体が動がねんだもの」
「早く片付けで、クーッと一杯行ぐべずはぁ」

芸工大を離れ、悠創の丘へ向かう。
アヤメは今を盛りと、その勢いを体中で表現している。

「おらだだて一生懸命咲いでいるんだじぇ」
舗装路の割れ目から吹き出たシロツメクサが
小さいなりにその存在を辺りに示している。

「ぐおほっほぉ〜!」
葱坊主が行く手に立ちはだかる。
なんと力強い立ち姿。
なんと図太い神経。
「んでも坊主にしては、ちぇっと髪の毛伸びすぎんねが?」

山形の街を斜めから陽が覆っている。
30度越の熱気はまだまだ街中にわだかまっている。
アヤメの花びら一枚一枚はそんな熱気をいなしてしまう優雅な振る舞い。

自転車の影がビローンと間延びしている。
自転車に一日中ついて回り、
影もくたびれてしまったのだろう。

一日の終わりを悠創の丘から夕日を眺めつつ思う。
それが市民の理想型かもしれない。
でも、真っ正面から夕日を顔面に浴びるから、
家に帰れば顔がヒリヒリするかもな。
TOP