◆[山形市]霞城公園・郷土館 桜の花の咲く前は(2019平成31年3月24日撮影)

再び訪れた寒気は、思いの外頬に痛く、鋭角的。
固く結んだ木の芽の向こうに、竜山は白く輝く。

県体育館の壁のひび割れにも冷気が侵入してくる。
そんな壁面へ寒さを避けて寄りかかる。

「ほっつ持って。たがたが?」
「んだらば、せーの!」
県体育館の正面玄関から大型の荷物が運び込まれている。
正面へ回り込んでみたら、山大の看板が立てかけてあった。
卒業式の準備なんだべが?

桜の枝にはとげ刺すような寒気がわだかまっている。
完全防備の人々の向こうでは、白梅紅梅が寒さに震えている。

ほっぺたを赤くした女子高生たちが本丸の前を走りすぎる。
こんな寒さの中、若さは周りに明るさを振りまいていく。

鋭利な刃物のような研ぎ澄まされた光が、梢の間から一直線に降りてくる。

白梅紅梅が入り乱れ、凍った空気が溶かされる。

「どっからきたにゃー?」
「山形市内だっす。」
「ふん、つまらねぇにゃー。」
「何がつまらねんだっす?にやんこ先生。」
「近頃は遠っがくの台湾あたりからも郷土館ば見にくるんだじぇにゃー。」

「早ぐあっちゃ行げにゃ、邪魔くさいにゃ。」
あっという間に見限られた私は、毛繕いする姿を呆然と見つめる。

「石畳があったかい〜、むにゃむにゃー。」
目を閉じ、全身に太陽光を受け入れて夢の中。

こんなにまぶしいのに、空気の冷たさはなんだ。
いや、空気が凜と冷たいから光が届きやすいのか。

ちらほらと訪れる人々は、梅の花を愛でながら、
心にポッと春を感じ、そして足早に歩み去る。

「桜んどぎはすごいんだべねぇ。」
「桜もすごいげんと、人の数もすごいんだじぇえ。」
「いづ咲ぐんだがなぁ。」
梅の花の脇を通り過ぎるのに、話題は桜。

山形の街並みを見てみようと土手を上る。
おお!土筆がツーンと伸びっだどりゃあ!
やっぱり春はあちこちで目覚めていた。

たった二両の電車がゆっくりと右から左へ這ってゆく。
目で追うのが面倒になるほどゆっくりと。

え?こんな所に?という場所で水仙が咲く寸前。
土手を巡れば、意外な春の発見があちこちであるようだ。

どこに向かって咲いている?
もちろん人間の方を向いて咲いているわけじゃなかろうに。

霞城セントラルがちょこんと土手の向こうから顔を出す。
梅の花びらたちは寒気の中を悠然と泳いでいる。

梅には目もくれず、ジーッと光の暖かさを吟味する。

幹周りが2.4メートルもあって、山形市内で一番太いイチイの木だど。
それよりもびっくりなのは、最上義光の時代からこの位置にあったということ。
郷土館が移設されるよりずーーーッと前から居るんだがら、
郷土館なて新参者っだなねぇ。

「寒いがら、早ぐあびゃあ。」
「撮っておがねど梅からごしゃがれっべ。」
数秒の後、梅の花の前に人影は無くなった。

逆さにして見っど、郷土館という大鍋に満載のクロッカス?

とりあえず定番の写真をぱちり。
もう、何回も撮っているけれど、やはり扉を開けていきなりのこの勇姿は撮らざる終えない。

七日町から移設されたのは昭和44年。
大沼の裏にあった姿が、なんとなく頭のどこいらへんかに微かに残っている。

明治の匂いを嗅ぎながら、間もなく平成ですら終わろうとしている時代の流れに感慨を覚える。
と気取ってみても、昭和と平成の二つしか経験していない身に何が分かろうか。

栞を見て図面を確認したら、建物は十四角形。
現代には見られない意匠を建物内で見ることができる。
これは是非、「いいちこ」のコマーシャルで使って欲しい。

建物を360度ぐるりと回ってみて、
どこからでも中庭が見えるという輪っかのような不思議な世界。

ちょとしたお化け屋敷より、ずっと怖い。
怜悧な金属の表情と光の反射を見ただけで身震いする。

様々な医療機器の戸棚を下から見上げてみる。その扉には天井の灯りが反射する。
ほの明るい空間にカチャカチャという硬質の響きが聞こえてきそうだ。

無料になった旧済生館(郷土館)の見学料。
だからなのか見学者数が増えているという。
誰かがSNSでアップしたからかも知れない。
でも一番の理由は、窓口のおじさんの応対がいがったがらなのんねがい?
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