◆[山形市]青田・桜田 春へ席を譲ろうかと迷う冬(2018平成30年2月25日撮影)

「なんなんだず、この雪の塊はよぅ。周りの風景が見えねどれはぁ。」
「これでも隅っこさ退去して遠慮しったんだじぇ。」
雪塊は図体のでかいのを恥じるように、身を縮めようともがいている。

「今年は雪うがいっけまなれぇ。」
空を見上げる目には、それでも春への期待が少しばかり宿っている。

「おまえ何つかして、駐車場の真ん中さデーンと居座ているのや?」
「なにゆてんのや。これが俺の仕事なんだじぇ。なんぼ寒くてもこごさいらんなねんだじぇ。
仕事の邪魔だがらあっちゃ行げ。」
つかしてなどと失礼なことを言ってしまい、悪れがったなっす。

「なんとなく春の空気ば感じね?」
ちょっと陽が差せば、春が混ざり合っているような空気感。

通りをちょっと外れた所に新山神社。
杉っ葉と、退潮著しい黒ずんだ雪が交じりあう。

寒風を受けてカラカラ回るペットボトル。
早く春風を受けながら軽やかに回りたいと思いながらも一冬越えた。

小さな祠の前にキチンと置かれたゴミ?
祠は気になってジーッとそのコンビニ袋を見つめている。
「もし、こだんどごさゴミば置いでいったどしたら、罰当たりっだなねぇ。」

コンクリの電柱なのに雪が遠慮している。
「なにゆてんの。コンクリートだて、少しばかりの体温があるんだじぇ。」

車は横に並ぶものだと思っていたら、縦に重なっている。
どうやって積み重ねたのかも気になるが、
それよりも、このまま空へぶっ飛んでいったら、
バックトゥーザフューチャーのデロリアンみだいで格好いいにのにと空想してしまう。

ポタポタポタポタ落ちる滴が邪魔してあんまり近づけない。
氷柱を追い立てるように、日差しに力が増してきた。

「ちょぺっとも動がんね。」
「なしてや?」
「足ば見でけろず。タイヤ無いんだものどうしようもないべ。」
真っ白なリーゼント風の髪型でつかしているのに、本音は鬱屈しているようだ。

雪にねじ曲げられたガードレールや、ひしゃげた枯れ草たちが顔を出し始める。
耐えた冬が間もなく終わりを告げようとしている光景。

ここはジャマイカか?それともブラジルか?
緑と黄色が主張する壁面は、とても日本とは思えない。
でも、スノーダンプや小さな植木鉢があるからとりあえず日本の山形なんだべなぁ。

「おまえ聞いでみろ。」
「おまえが聞いだらいいべず。」
車輪たちはやせ細った雪へ、いつ消えてくれるのか聞きたくてしょうがない。
でも、消えゆく物への遠慮があるから聞きづらくて躊躇している。

街中では仮免の車が、びくびくしながら走っている。
「そういう季節なのっだべ、早春は。」
バイパス脇では月々1万の連呼を走り去る車がかき消していく。

「立ち往生しったどれはぁ。」
「俺は電信柱だがら一生立ち往生っだな。」
一生立ち往生の人生ってどうなんだ?

「桜田東の看板さん、ほだいひん曲がって誰がのいたずらが?」
「んねの、少しでも太陽ば見っだくて、体ばよじてみっだのよぅ。」
その気持ち、山形人だごんたらすんごぐ分がる。

微かな日差しがとても嬉しい。
ドングリは雪の溶ける音が心地良いと、暖まった地面に寝そべっている。

「やろこどへなこだのケッツが恋しいのよぅ。」
ツンツルテンになった肌を光らせて、タイヤは子供たちが早く来ないか待ち焦がれている。

手で握れば、まだ冷たいかもしれない。
でも子供たちを受け入れる気持ちの準備は完璧だ。
あとは雪が完全に溶けるのを待つばかり。

「心までひん曲がっていんのんねべな。」
「ほだなごどない。気持ちだげはまっすぐなんだ!」
鉄筋ば見た目だげで判断すんなず、と返された。

ゴミが無ければ仕事も無い。
チリトリと箒は静かに吊されている。
冷気が編み目の隙間を流れてゆく。

「なんだてそじっだんねがぁ、看板さん」
「車だが毎日風ば起ごすし、雪は降んべす、しょうがないっだな。」
「そださねでー。」
「そだねー。」

陽光はマンションに満遍なく降り注ぐ。
こういう場合、その裏のことも考えなくてはならない。
日の当たらないマンションの北側はなんたんだべ。

街はキラキラと輝いて、春近しを感じずにはいられない。
はためく幟も春の兆しを感じ取っているようだ。

昔よりちっちゃくなってしまったが、
バス停は気持ちだけは大きく持とうと立っている。

タイヤは走るのをやめたら終わりかと思っていた。
しかし駐車場に第二の人生が待っている。

車車車。歩道を歩いている人はほとんど居ないのに車道は渋滞。
何かがおかしいと誰かがそのうち気づくはず。

「ぶず黙て、何考えっだのや?」
「何にも考えでいね。ただ・・・」
ただ・・・の先に言いたかったことはなんだろう。

ぐしゃ!と音が聞こえてきそうなほどに空き缶がふちゅぶれている。
しかも潰したと思われる足跡がくっきりと残っている。
潰した本人はどんな気持ちだったのだろう?潰したことでスカッとしたのだろうか?

「建物の陰だどほんてん辛いずねぇ。」
「周りがどんどん暖ったかぐなっど焦ってくっず。」
「ほいにやねでぇ。夏は涼しくて良い場所だどれぇ。」

「あのスキー遊びさ混じゃっだいど思わね?」
「ゆたて無理だべぇ。」
「んだずねぇ、遊んでけるはずないよねぇ。」
遊具は子供たちに遊んで貰ってなんぼの世界。
自分たちから遊びに行くことは許されていない。

グイッと伸びるワイパー。
ギラッとガラスに反射する光。
フロントガラスには春を連れてきそうな雲が流れている。

「穴ポコ空いっだどりゃあ。」
穴ポコはじわじわ広がり、氷柱は引力に従って落ちるだけ。
春をつかみ損ねて消えるのが氷柱の運命。
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