◆[山形市]専称寺・洗心庵・緑町 冬に急かされて(2017平成29年11月12日撮影)

まずは秋の雰囲気を味わうために「洗心庵」を訪れる。
芝生に散りばめられた落ち葉が、風を受けては一面に勢力を伸ばしている。

雲間から陽が差せば、どんなにか庭園中が光り輝いて見えたことだろう。
水面に青空が光って見えた事だろう。
なんぼいっても詮無いこと。
冬間近の雰囲気を味わうしかない。

湿り気を帯びた冷たい空気に磨かれて、益々赤みを増してゆく。

陽の差さない庭園に淀むのは、冬の匂いと秋の逃げ去る微かな音。

「勝手に撮んなず。肖像権があるんだがら!」
近頃は鯉までもがそんなことを言うようになったのか。
「ほだいごしゃがねで。大人しく泳いでろ」
人に干渉せずに鑑賞されてろといいたくなる。

北高通りというべきか、遊学館通りというべきか。
冷たい風だけが通り過ぎる光景は似合わない。

光を求めて空を仰ぐ花びらたちよ。
教育資料館は、まるで先生の教えのように花びらを諭している。

黄色い絨毯という使い古された表現がぴったりだなと思いながら、
湿り気を帯びた凍える葉っぱを踏みしめる。

手持ち無沙汰のガス灯に、体温を感じさせるのは夕暮れ過ぎからか。

盃山を背景に、冷たい風を受け止めるバス停。

「やんだぁ!雪なの見っだぐないぃ!」
なんぼそう思っても、やたら漬の背後には青白く染まった山並み。

夏の間に忘れていた色が、あちこちに滲み出す。

「なにほだいぎっつぐ握てんのや?」
「握てんのんね。寒くて固まっただげだぁ」
山交バスは風を巻き上げながら走り去る。

滑り落ちるのは落ち葉だけの季節になってしまった。
「子供だのあたかいケッツが恋しいなぁ」
滑り台の気持ちに深い同情を覚えながら落ち葉を凝視する。

「こっからは七日町も近いのっだずねぇ」
ナナビーンズの看板を見ながらふと思う。
そういえば緑町は山形の山の手、つまり高級住宅地だっけのっだななぁ。

まん丸に見える愛宕山はすっかり冬待ち状態。
そして街はひっそりと、ありがたくない雪を待つ。

旧一中を囲むように流れる御殿堰に、桜の葉が舞い降りて、
七日町方面へ流されてゆく。

冬を前にフェンスには葉っぱや実が寒そうに絡みつき、
背後から秋の花たちが今年最後の彩りを放っている。

梅花藻が涼やかに流れる初夏は遠くへ去った。
一中も去った今、無粋な味気ない施設が跡地を占めている。

「たづぐ力も無ぐなたがぁ?」
セメントで固められたフェンスの棒に絡まる蔓にはもはや力が残されていない。

「山形の場合は街の真ん中でも見られんのよね」
「こいな光景ば見っど嬉しぐなるぅ」
「んでも若い人はすねべがら、この家にはばあちゃんが住んでいるんだがもすんねな」
寒い通りで立ち止まり、大根を眺めながらいろいろと想像を巡らせてしまう。

「オーヌマホテルが無ぐなてがら、この辺も人通りが減ったのんねがず?」
「ほいずぁ分がんねげんと、黄色いシャッターはいづから降りでだんだっけなぁ?」

「どっちゃ行ぐどいいんだっけ?」
おばさんは左右を見て、得心したのか再び歩き出す。

彩りが消え去る季節の前に、せいぜい真っ赤に輝いていて欲しい。

雪が降り積む前に、落ち葉が降り積む。

「窓開げでけろ」
「やんだ。勝手に入らっだら困るんだず」
赤い蔦が懇願し、白い窓が拒絶する。

「しゃねっけぇ、こだな街の真ん中さあるなて」
知らないのもしょうが無い。
それこそひっそりと、それこそ隠れるように気づかれないように店が存在していた。
「んでも売り切れみだいだじぇ。何にも無ぐなったもはぁ」

専称寺の門をゆっくりとくぐっていった。
まるで真っ黄色の銀杏に誘われるように。

山形の中の異空間。
いつ来ても大伽藍には圧倒されるし、林立する樹木の異様な力強さにも気圧される。

しっとりしたと空気に交じり合う紅葉。
太陽が照ったら、このしっとり感はない。
さっぱり陽の差さないことに対して、負け惜しみの言葉を投げかける。

「寒いず。もっと詰めろ」
カチャカチャと音を立てそうな柄杓たち。

「ちぇっと見っど、あどこの世は終わりみだいだべ?」
「んねんだず。寂しさば装っておいで来年ば迎えんのっだな」
「来年の新緑ば待ってっからな」
葉っぱとの会話は風に運ばれて消え去った。

「威嚇しったつもりが?」
「退屈過ぎでよう」
如雨露の間から伸びる箒は、まだまだ落ち葉を掃く力が残っているようだ。

「これー、走んなぁ!ころぶべなぁ」
子供たちの後ろから親の声が追いかけてくる。

「毎年みだいにこの場所さ来てしまうずね」
「もみじ公園は人いっぱいいっべがらなぁ。こっちさ来っど落ぢ着ぐず」
自分にとっての定番スポットは、今年も定番スポットであり続けてくれた。


〈実家の庭にて11月10日撮影〉
尻がひりひりするくらい尾っぽを振っている。
来年へ向けてカマキリが踏ん張っている姿に心を動かされたので特別に掲載します。
この卵の位置は地上1メートル付近。まさか今冬はそんなに雪が降るのか?
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