◆[山形市]千歳・落合新球場 風音と槌音(2016平成28年6月4日撮影)

千歳橋のたもと。風は強いが寒くない。
いや、風がなかったら暑い。
青々と膨らむ植物たちはブハラブハラと風に煽られる。

天童・漆山方面から山形へ来るときは、この急カーブを曲がれば千歳橋を越えて、
いよいよ山形市街だと気持ちが高揚する地点だった。
新たに市スポーツセンター前の道ができる前は。

空を向き何を考えているのか、いないのか。
トラックたちは重い荷物を荷台から降ろし、ほっとしている時間なのかもしれない。

花びらの一枚一枚を風に煽られながら、重い首を上下左右にいつまでも振っている。

沖ノ原の細道に入り込む。
幹線道の音は遠のき、生活の音がかすかに聞こえてくる。

大きな掲示板にペラリとたった一枚。風に煽られ乾燥しきった体をカチャカチャと閉じたり開いたり。

奥羽本線の高架下。
日陰になったミラーは日向の街並みを羨ましげに映し込む。

「たまころ2つで仲良くしったが?」
「よっくど見でけろ。下さもう一個あるんだず」
「おお、三つ子か。ところで名前はなんていうんだ?」
黙って答えないがおそらくスモモ。

ハナミズキが終わり、ヤマボウシが街なかに溢れだした。
両方とも親戚らしいが、咲く時期がずれている。

「風が強い日は火事が心配だがら頑張らんなねべ」
「ほだごどゆたて日差しが強くてよぅ」
看板は木陰に隠れて周りの様子を伺っている。

この時期、一面にシロツメクサが広がっている。
でも集団で生きていながらも孤高の態度を示す物もいるムラサキツメクサ。

千歳の街から落合へ抜けるためには奥羽本線の下をくぐっていかなければならない。
千歳の日差しは置いてけぼりをされたようにいつまでもこちらを見つめていた。

鉄道の下をくぐり抜けると、そこには広がる水田と市スポーツセンターの体育館が見える。
見上げれば飛行機が間延びしたような音を響かせながら北へ向かってゆく。

田んぼを凝視する。
オタマジャクシがそこここでちょろちょろと泳いでいる。
そうか、まもなくケロケロなく声が聞こえてくる季節なんだな。

通りの脇に小さな神社。
今でこそすぐ近くにスポーツセンターがあるけれど、昔は田んぼの真中で風雨に晒されていたんだろうか。
遠くに月山を眺めながら。

スポーツセンターはあじさいのメッカといわれるけれど、今の時期はツツジの見頃。
ツツジたちはすぐ近くに木霊するスポーツの歓声にじっと耳を傾けている。

喉を潤そうと蛇口をひねる。
いきなり出て顔がビシャビシャになったかと思えば、なんぼひねってもちょぼちょぼしか出ない蛇口もある。
ここのは丁度いい塩梅。

現在、市球場が建設中。
周りに囲いがあるため、その模様を見ることができない。
どこか高いところはないかと探し滑り台に登る。
結局建設現場はよく見えず、諦めて下を向く。
おお、まるでアンモナイトの形じゃないか。

塀の上にカメラをかざして撮ってみる。
土曜日のためか槌音はさほど聞こえてこないが、内野席はかなりの進捗状況のようだ。

張り巡らされた塀の外側にはおもいっきりスポーツを楽しむ人々。
人間は本能的に汗を流したいいきものらしい。

「ボールボール」
「今のは入たべぇ」
仕事から開放された人々は、ボールの行方に一喜一憂して歓声を上げる。

早くあの内野席の上に登ってみたい。
もちろん試合を見てみたいこともあるが、周りに見える景色を一日も早く見てみたい。

体育館へ向かうこの通路は異空間。
タイムスリップしてどこかの時代へ移動してしまいそうだ。
体育館の玄関へ行くだけなんだけどね。

スターウオーズの中に出てくるキャラのような照明灯が林立するスポーツセンター。
テニスのパコーンパコーン、ボコッという音が周りに反響している昼日中。

「そーれっ!」
今まさにボールを打つ瞬間、スタンドには全く別のくつろいだ空間が隣り合っている。

「?あだなちゃっこい赤ちゃんば立だせで歩かせようとしったりゃ!」
「な〜んだ人形だどれ」
「なんぼ人形でも歩がせでみっだいっだなねぇ」
這えば立て、立てば歩めの親心とはチト違う思い。

ヤマボウシ、クレーンにさえかぶさろうとする勢いがある。

いずれ、あの内野席に座ることができるだろう。
ああ、待ちきれないという気持ちとともに、霞城公園にある老朽化した市営球場のことも頭をよぎる。

「邪魔だずねぇ、この塀よぅ」
樹木の影さえも塀を越せずに張り付いている。

市営球場の建設される槌音を聞きながら、強風にブランブラン揺れる。
「早ぐ出来ろ〜」と囃し立てるようにして。

球場隣のスケート場付近は空気が止まったように静まり返っている。
バイクも時間を持て余し、黄色い花びらをジーっと見つめている。

強風はペットボトルを勢い良く回し、ねぎぼうずをブランブラン振り回す。

月山を遠景に、目の前が奥羽本線、下は旧国道13号。そして左側に馬見ヶ崎川が流れる。
山形の重要物が束ねるようにまとまった地域なんだな。

「こごがどごだがすぐ分かる人は現地人」
「昔はスポーツセンターから橋を渡りきった銅町の北端といえば、ガソリンスタンドがあっけべ?
今は九十九鶏の真新しい建物が建ってだじぇ」
そういえば七小前は道路拡幅中。だから九十九鶏さんはここへ来たのか。

キラキラと光る6月の光を浴びてバイクと自転車が並んでいる。
どうやらバイクがちょっかいを出し、自転車はそれを迷惑に感じている?

暑さをしのぐには橋の下というのが市民の鉄則。
そこから眺める竜山などの山並みが一服のパノラマ絵になっているんだ。

ギラッと照りつく空を、首を捻じ曲げて見上げる。
針のような飛行機雲が太陽をかすめて伸びていく。
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