◆[山形市]二位田町 暑くなく寒くなく風もなく(2016平成28年5月21日撮影)

緑の向こうにマンションと奥羽の山並みが見える。
だらだらの下り坂の先は、すぐ山形市街地なのに二位田は田園地帯のどまんなか。

本沢地区の母なる川は本沢川。
ゴミ置き場の隣に看板があるのは必然か?
消火器だって必死に身を呈して看板を守っている。

濃い緑に囲まれ、空気まで濃くなっているようだ。

あのカメラは絶対にデジカメではないと断言できる。
デジカメの歴史なんてたかだた十数年。この看板は数十年を経ているだろう。
おじさんはパイプを加えながら子供をちゃんころまいしているのだから、
タバコに大らかな時代に掛けられた看板に違いない。

ポタポタと花びらが落ちる音を毎年聞いてきたのか、向かいの蔵は。

この季節に必ず見かける薄焼きせんべい。
いつも忘れたころに現れるから名前を覚えられない。
その薄っぺらい鼓を叩けばポコペンと音をたてそうだ。

路地の向こうに目を細めて視点を合わせたら、味わい深い床屋さん。

薄暗がりからグイーンと伸びてくるコデマリ。
風も止まっているのにゆらりゆらりと手招きする。

正調美しい田舎の姿。
どこにでもある光景に違いないが、こんな光景が少しずつ疲れてきているのは事実。

王さんが若いほどに年月を感じる。
一体どれだけの年月をかけてポスターはクルクルとめくれて来たのか。

この季節にしか見られない水鏡。
薄曇りの空を寸分違わず映し込んでいる。

なんだかはっきりしない空模様なのに月山だけはくっきりと浮かび上がっている。
春から夏への変わり目に、大気の塵が身を潜め空気が驚くほどに澄んでいる。

空気の流れがピタッと止まってしまった。
田植え後の水面はさざ波も立てず、山形市街と山並みを写しこむことに専念している。

山形の郊外へ行けば、どこもかしこも水上都市のように水面に浮かんでいる。

田植えが最盛期を迎えた山形。
その道の向こうにビル群が見える。
山形盆地の道路は大概山形から放射状に伸びている。
だから道の向こうには必ず山形中心地が見える。

「おお、しゃねこめ育てだなぁ」
「しゃねのはおだぐだげで、農家の方は汗水たらして一生懸命育ででんのっだず」

この季節、いっつも頭がこんがらがる。
「んだて、あやめ・しょうぶ・かきつばた・いちはつば咄嗟に見分げらんねんだも」
それはともかく、水田脇で彩りを添えている姿は初夏を色濃く感じさせる。

「なしてこだんどごで一人でおがてんのや?」
「しゃねっだな。俺は場所ば選ばんねんだがら」
「ごしゃげで根性も曲がてしまがぁ?」
アスパラは雑草生い茂る中で、たった一本力強く生えていた。

「なして土色の地面から、こだい真っ赤な色ができるんだべねぇ。」
土色になってしまった絵の具から、鮮やかな緑や赤を創りだすのは不可能。
少なくとも絵の具にはない才能を土は備えている。

空にポーンと打ち上げっれて花開く寸前の花火のようだ。
玉ころたちは微妙なバランスを保ちながらまっすぐ空に向かって立っている。

あんな頭を支えているのだから、きっと茎はかなり頑丈なのだろう。
人間は頭でっかちでは困るが、アリウムはその特徴的な姿が初夏を存分に感じさせる。

「おらだばこだい囲んで、なにするつもりなんだべ」
ブランコはあたり一面シロツメクサに囲まれて足の踏み場もない。
「ブランコに足はないっす」

「誰もいねがら滑り台さ緑がゆっくりど写り込んでだどりゃあ」
「本沢小はしゃねげんと、帰りに西バイパスば通たら南沼原小も十小も運動会だっけ」
「んだがらガギベラがいねんだがもすんねなぁ」

花に囲まれて生きるなんて贅沢。
二位田は贅沢が当たり前の村だった。

そろそろ木陰が恋しくなる季節。
ただ今日は薄い雲が空を覆い、日差しも柔らかく大人しく辺りを包むだけ。

「風も吹がねずね」
「空気もあっかないが分がんねくらい冷たくも暑くもないずね」
スコップたちはのんびりとぶら下がり健康法を満喫している。

オダマキの花言葉は勝利の女神だど。
何かに勝った喜びを空に向かって表現している花なんだべな。

フロントガラスに張り付いて、中を覗き込むような柿の葉っぱが瑞々しい。

「お前いったい何年じっと動かねでいだのや?」
「永すぎて忘っだはぁ」
「運動すねど筋力が衰えでいぐべず」
荷車は錆びた体を軋ませて、フフッと笑い再び黙りこむ。

「自分で開げだのが?」
「経年劣化てゆうやづっだな」
一輪車はシートの破れ目から腕を振って手招きしてくる。

「なんだが雲行きが怪しくなてきたんねが?」
天気予報では晴れなのに、そんな予報を裏切るように雲が厚くなってポツリポツリと落ちてくる。

「桐タンスはタンスの王様だべ」
それはともかく紫の大ぶりの花が桐の花だと初めて知った。
しかも意外とあちこちに桐の木があることもこの季節に初めて知った。

「俺は座らせでなんぼっだな。今は俺の価値なのないはぁ」
野ざらしの椅子は慣れない風雨に晒され途方に暮れながらも、何かの希望を持とうと内心もがいているに違いない。
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