◆[山形市]大森 秋色探し(2015平成27年10月10日撮影)

秋の穏やかな大気が、大森の集落を柔らかく包んでいる。

「何下から覗き込んでんのや?」
「おだぐこそ、大森では見掛げね顔だなぁ」
一瞬対峙したもののすぐに目をそらし、負けた感を引き摺りながら腰を上げる。

「オマエは今頃咲ぐんだっけがぁ?てゆうが、こんでも咲いでるてゆうんだが?」
稲刈りの終わった田んぼからの風を受け止めながら、トリトマは空を向く。

菊を見て食欲を感じる山形人。
菊は鑑賞するものと決め込む県外人。
「あー、あのシャキシャキ感がたまらねぇ」

大森から高瀬方面を望むと、名も知らぬ山々がいつも中国桂林の山並に似ていると感じる。
行ったこともないのに。

頭を垂れる稲穂の周りでは、トンボたちが戯れる。
黄色い波に赤い線がツンツンと描かれるように。

季節外れのタンポポは、これから寒くなる一方なのにと途方に暮れているようだ。

何事かを禁じているのは分かるが、その強かった意志がポロポロと落ちていく。

「よい子はのさばらない?」
目を擦ってもう一度よく見てみる。
やっぱり、「のさばらない」でも「ぬだばらない」でもなかった。

これからの季節、プランターや植木鉢は雪を被るか靴を干すために存在する。

「重だそうだずねぇ。育ちすぎんね?」
ところで洋なし?カリンだがしたぁ。

「当だり前の光景っだずねぇ」
当たり前の光景といいつつ、年しょりが減るにつれ、この暖簾も減っているような・・・。

「こだんどごさ、おつこめらっだのがぁ?」
ファンタは窓枠のギリギリまでにじり寄り、外を見入っている。

あっちのも柿、こっちにも柿。
山形は朱色の斑模様に染まっている。

今日の目的はこれよ、これ。
「あの幟ば見ろずほれ。今日は大森地区のお祭りなのっだず」

青い森に赤や黄色が増殖しつつある季節。
幟は真っ白な体に墨痕の鮮やかさ強調して風に揺れる。

稲穂が波打っている。
その陽炎のような黄色い炎の強烈さにコスモスは目眩がしそう。

「何の蕾だがしゃねげんとよ、産毛が密生してっずねぇ」
大切なものを守ろうと、産毛はみっしり生え秋の日差しに輝いている。

「背景のトタン板と同系色で似合ってだぁ」
「バガこげぇ、好きでこだごどなたのんねぇ」
ヒマワリは力を使い果たしたように下を向く。

真昼の電灯は何故かわびしい。
でも、お祭りだし幟を見て気分は高揚する。

黒ずんだ柱や梁と色づいた葉っぱの隙間を、柔らかい光と風がゆったりと流れてゆく。

「もっと近くで見っだい?んだがしょうがないずねぇ」
つるっと撫でたくなる柿はレンズにグイッと近づいてきてくれた。

秋の大気はふわっと山形を包む。
ビニールハウスは暖気を溜め込み、柿の実は旨みを溜め込む。

「なんいも葉っぱまで茶色ぐなっごどないべしたぁ」
外敵に見つからぬよう、葉っぱも周りの色に同化する?

「なしてお祭りなのにさっぱり人いねんだべなぁ?」
のろい歩みに合わせて、神社の鳥居がゆっくり近づいてくる。

「今日んねの?」
近所のおじさんが教えてくれた。
「昔は確かに10月10日にお祭りだっけげんと、今は10月の第二日曜日になたのよぅ」
ということはお祭りは明日の11日。
自分の失態に舌打ちしながら、石段の先を見上げる。

「なんだて灯油缶が新しいずねぇ。ま、どうでもいいげんと・・・」
神社の森は深閑として、そよぐ風の音だけがあたりを支配している。

バタバタバタっと結構重たそうなものの飛び立つ音にびくりとする。
あれはキジだったのか、すでにあたりにその影はない。

注連縄に赤い落ち葉が途中下車。

天気さえ良ければ、いつもエノコログサの周りには光がたむろしている。

「ほだい無理して首ば伸ばしてぇ」
ピラカンサのツブツブは誇らしげに輝いているが、これがイクラだったらなぁとブツブツ思う。

「なんぼ近ぐさ寄って見でも、ピラカンサはピラカンサっだなねぇ」
艶々した肌はパンパンだ。

「自分の体ばも支えらんねのが?」
なぜこんなにか弱い体なのに、毎年しぶとく咲いてくるのかが不思議。

「花びらもげだどれはぁ」
散り去った花びらは暖かい綺麗な服代わりだったのだろう、プルッと体の芯を震わせる。

ゴリゴリ成ったピラカンサは秋の象徴。
上品さも奥ゆかしさも持ち合わせず、秋になれば真っ先に目立とうとする。

「マーブルチョコレートんねべ?」
思わず聞きたくなる小粒はコムラサキ。
自然界からこんな色が生み出されること自体不思議。

「なして、旬の過ぎだおらほだば撮るんだ?」
「満開の花どが、真っ盛りの花びらだげば撮るのは素直な人だげよ」
生き物はみな成長し旬を迎え、そして老いる。旬は美しいが、老成した姿だって格好いい。
人間だって同じだべ。

「キケンおだらないように!」

親子は「川」の字で寝て、「小」の字で走り去る。

いったい何人の山形人が携帯を夕日に向けたことだろう。
カーテンが真っ赤に染まっていたので、外を見たら久しぶりの夕日が今日の終わりを告げている。
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