◆[山形市]出塩文殊堂 あじさい祭り(2015平成27年7月12日撮影)

灼熱の大気の中を、ひと目あじさいを見るために、
白く乾いて熱くなったアスファルトの上を人々が参道入り口へ急ぐ。

「玉コンだど思ったら、みたらしだんご?」
まぎらわしい幟の隣には、昨日まで仕舞われていて、ようやく広げられたような、しわくちゃ氷。

「はやぐもっと上さあべぇ」
「ちぇっと待ってろ、足が言うごどば効がねぇ」
子供はひょいひょい登っていくが、年寄りにはキツい。
紫陽花は微笑みながら聞き入っている。

人々はアチコチで立ち止まっては携帯に紫陽花を納める。
世の中変わったなぁと紫陽花は思っているに違いないが、
紫陽花に対する人々の気持ちはどうやら変わっていない。

中腹の広場ではお祭り真っ盛り。
アートバルーンまで出展して、紫陽花より鮮やかな発色で子供たちを誘う。

「おらぁ、暑いほど元気になるんだぁ!」
寒いと萎むバルーンは、暑すぎるために元気良すぎてテンション高め。

「汗だくダグダグゥ」
真剣に舞いながらも、ちょっとした仕草から心の内が読めるようだ。

「あじさい祭りも20年かぁ。よぐ手入れしてきたもんだなぁ」
汗をダラダラながしながら、一時だけ村木沢の人々の心意気を想う。

カッと照りつける日差しは人々をぐったりさせる。
紫陽花はさすがに花びらをぴんと張り、蜂にくすぐられながら悠然としている。

舞台の袖では地区の方々が演舞を見守っている。
もちろん時々水分を補給しながら。

あじさい祭りの隆盛を誇るように、清酒がずらっと並ぶ。
「中の酒は熱燗になったんねがぁ」

人生は日向を歩いても、演舞鑑賞は日陰で楽しみたい。

「紅白幕が背景ていうのもいいもんだべ」
紫陽花はいつもと違う雰囲気に戸惑いながらも写真に収まる。

「暑っづいったら、待ってんのも大変だぁ」
日向にさらされた靴たちは、口でハァハァ息をする。

「ちょどしてろな、いま終わっから」
大人の手でギュッと結ばれて、子供たちは本番への気持を高めていく。

「ウグゥ、苦しい」
「ほだごどやねで。紐と気持は堅く結ばんなねんだ」
おばさんたちは手を動かしながら、子供たちの晴れ舞台が脳裏をよぎっている。

「まんず、こだい暑ぐなっどはねぇ」
外に出れば強烈な日差し。中に入れば蒸し風呂。
逃げ場はないけれど、本番の踊りに備えて気持だけは高ぶってゆく。

暑さも何のその。
おばちゃんたちの踊りに掛ける思いは気温より数度高い。

おばちゃんたちは石段を登るときよりも、下るときが大変らしい。
アヘアヘ言いながら下る姿も、地面にべったりくっついた紫陽花の影には他人事。

本堂の脇には涼やかな雰囲気が漂う。
しかし、あくまでも雰囲気であって、実際は30度超え。

「こちょばすだぐなっずねぇ」
めんこい足はインドのナンのよう。

出番を迎えた子供たちを、両側から紫陽花が手を振って応援してくる。

「こっだな石段ば登たら殺されっずぁ」
孫をおんぶしたおじさんがヘトヘトになりながら、捨て台詞を吐いて歩き去る。
こんな暑さでも紫陽花は泰然自若の姿を崩さない。

少女の後れ毛にギラギラの光がまとわりつく。
そんな姿もおじさんから見ればかわいらしい。

「終わてホッとしたぁ」
「冷たいのないど生ぎでいがんねぇ」
麦わら帽のおじさんの耳にもその声は届いているに違いない。

太陽の周りに輪っかが出来た。
氷の幟はジュッと溶けそうになりながら、勇ましく空に向かう。

「暑くて靴なの履ぐだぐないはぁ」
「こっちだて願ったりだぁ、クッサイ足なの」
靴と足は仲違いをしながらも腐れ縁。

「おじさんだ元気ないんねがっす?」
「こだな暑さで元気なの萎んでしまたはぁ」
とは言いつつも、祭りの成功を願っていることだけは確か。

紫陽花に覆われた暗がりを、帽子は涼やかに優雅に進んでいく。

参道に人々は絶えない。
紫陽花たちは、いつの日か人々が絶えることを知っているのか、
ここぞとばかりに、両側から笑顔を振りまく。

「蜘蛛の巣いっぱいひっかがてっどれ。俺が取ってけっからなぁ」
パチッ。
「取るって、撮るほうがよ!」

「早ぐ行ぐべぇ」
「ほだい急ぐなぁ、あどがらやんだぐなっからなぁ」
子供の足は俺に付いてこいと言わんばかりに力強い。

「ほごのお姉ちゃん、テレビ撮っから邪魔だどほれ」
「おばちゃんの大声と姿がもっと邪魔なんだげんと・・・」

参道から外れた池に蓮が咲く。
人に見られることも愛でられることも意識せず、自然な姿を見せている。

パラソルに張りついた斑模様が泳いでいる。
か弱いそよ風と、強烈な日差しを受け止めながら。
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