◆[山形市]霞城公園・城北 人も緑も濃緑次第(2015平成27年5月30日撮影)

「月山が綺麗に見える日は、最上義光も石垣の上から見だんだべがなぁ」
晴れ渡る空を木々の囀りが流れてゆく。

「なんだが元気ないんねが?」
「そういうオダグはなんたや?」
墓穴を掘ったと思い、すごすごと立ち去ることにした。

七小学区の人々にとっては定番の場所かもしれない。
霞城公園の北門は観光客がくるでもなく、地元の人々だけでゆるりと時を過ごすことが出来る。

「なえだてボロボロだどれはぁ」
「今は道路拡張中だがら、こっちまで手が回らねんだべ」
七小前の歩道橋は自分の皮膚が剥がれるのもかまわず、日々変わりゆく工事状況を見下ろしている。

今週もなぜだか空気が澄んでいる。
朝日連峰がクッキリ見えるのは一年で何日あるだろう。

七小前の土地はすでに道路拡張分が更地になっている。
今は工事中で陽を遮る並木もないから、女性は指まで隠れる日よけをまとって足早に走りすぎた。

ツバメが飛ぶような勢いで、弓なりになって電線がグイグイ伸びる。
まるで、これから山形はもっと元気が出るし、人口が減るなんてありえないと強がるように。

「あ、悪れっけっす。電線なの見ねで街並みば見っだいっだなねぇ」
ハイ、今度は電線にピントを合わせずに、街並みにピントを合わせました。

きっとフライパンの上を歩くような気分だろう。
上から容赦ない日差し、下からの照り返しでこんがりとなりそうだ。

向こうが昭和橋。
「手前の城北さ曲がっどごの信号が渋滞のネックだっけのよねぇ」
そんなことを思いながら歩いている体から汗が噴き出す。

「おまえの名前はなんていうの?」
黄色いドラム缶状のものに聞いても答えない。
おそらく道路と歩道を区別し、しかも車がぶつかってきても身を挺してクッションになってくれる代物なのだろう。
暑いのにご苦労様。

やたらと狭い昭和橋の歩道。
ランナーが転けそうになって走り去っていった。
車道側に転けないで良かったと思いながら歩いていたら、工事用塀にぶつかった。

山形に鉄槌を下すように鉄骨がぶすりと刺さっている。
山形に鉄槌を下されるような身に覚えはないと思うけどね。

「♪君の瞳は1万ボルト〜♪奥羽本線の電線は2万ボルト〜」

「いよいよ吊されるぅー。さぁ、吊されるのはどっちだぁ!山新ビルかぁ、山形市役所かぁ!」
巨大なクレーンは休日なのでピクリとも動かない。

縦にも横にも入らないので斜めにして撮ってみました。
「こういうのば箸にも棒にもかからないって言うんだが?」
全然違います。

昭和橋が完成すれば、山形市の東西の交通の流れは劇的にスムースになるだろう。
中央ICにも行きやすくなる。花火大会にも行きやすくなる。

「おまえよ〜、早すぎるんだず。遠慮てしゃねもなぁ」
5月だというのに盛夏の花、タチアオイが伸びている。

背後からワサワサと蔓が迫っている。
やがてミラーは飲み込まれてしまうのか。背後からの気配に気づかず、真っ正面だけ映し込んでいる。

塀を乗り越え溢れ出しそうな蔦。
かろうじて表面張力で、溢れずに済んでいる?

町の小径にも真っ黄色いポスター。
すっかり恒例になりつつあるマラソン大会。
「今年はどごから撮ったらいがんべなぁ」

「おらいさカメラいっぱいあってよぅ。フィルムカメラだげんとな」
カメラ談義に花を咲かせている間に、電車が何本通過しただろう。
すっかり油を売ってしまったが、見ず知らずのおじさんとの会話は時を忘れた。

緑のシャワーを浴びながら町を行く幸せ。

木漏れ日は石畳に落ちて自転車に踏まれてもただ揺れるだけ。
踏まれても踏まれても、ちっとも痛くないのだろう。

「こだんどさバイク置がったりゃ。ん?ヘルメットさ青空ど並木が映ったどれ」
ヘルメットの真上を、おじいさんが東大手門へゆったりと進んでゆく。

後ろから光を当てられた人形が動くように、木陰でシルエットが踊っている。

孫たちは喉を潤し、おばさんはとりあえず木陰でほっとする。

「変なおんちゃんの前だげんと、我慢して撮らっでろな」
子供たちは不審の目を向け、おばさんは困った顔をどこかへ向ける。

[山形検定]問題番外編。
見ての通り、あ、いや、ツツジで見えませんが、最上義光の馬は二本の足で立っています。
仙台の伊達政宗の馬は三本足で立ってます。何故二本と三本の違いがあるのでしょう?
答え:最上義光像の作者は伊達政宗像作者の先輩。先輩だからこそ、より制作の難しい二本足にしたのだそうです。
これは作者ご本人に聞いたことなので間違いありません。

「ああ、喉渇いだぁ」
蛇口を捻り、ふと木立の暗がりに目を慣らすと、
そこにはぬだばったり、仰向けになったりした人々があちこちに散らばっていた。

雲がヒュンヒュンと音を立てんばかりに空を滑空している。
おんぼろ市営球場内では選手たちの野太い声が木霊している。

内野はおろか外野にも観客の姿は無い。
いや、外野ではシロツメクサが群がって野球を見守っている。

「水のしぶきずぁ気持いいもんだぁ」
思いっきり吹き出す水しぶきをジーッと見守りながら、
自分はこれだけ思いっきり何かをしたことがあっただろうかと思ってしまう。

ボギボギ、グギグギ。
「まんず、試合前はよっくど体ば動がしておがねど危なくてしょうがないま」
なにをするにも、なんの準備運動もせず人生を失敗してきた自分が恨めしい。

「ちぇっと外野ばもっと奥の方さ移動してが」

本丸の橋を渡って石垣を過ぎれば、そこはただの空き地だった。
期待したのになんだか騙された気分。
それは分かる。でも元々天守閣がなかったんだからしょうがない。

何年か前、人里から雀が減ったというニュースを見た。
雀って常に人と一緒だったから、いないと寂しい。
でも、霞城公園にはワサワサいた。違法捨て猫はもっと増えたけど。

「頼むがら踏んづげねでけろ」
シロツメクサは哀願する。
「人ば、いやバイクば見掛けで判断すんなぁ、俺はほだなごどすねがら」
車輪の下に目を向けて、バイクはちょっと金属的な声を漏らしたような。

撮影を終えて、車内でアクエリアスをグビリと喉へ流し込む。
「あれ?なんだべこの血の跡みだいなのは」
フロントガラスに付着した二つのシミは、車の上に被さった桜の枝の涙なのか、通りすがりの鳥の糞なのか。
それにしても白い糞なら、しょっちゅうだげんとなぁ。
「ドローンさぶつかった鳥が怪我でもしてるんだべが?」
なんだかよく分からないまま、過去を拭き取るようにワイパーで消し去った。
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